新郎新婦の衣装は和装であるが、珍しいものだった。
お二人とも白い衣装である。
しかし白無垢とも違う珍しいものだ。
首からは色々なものがかけられている。
その宗派の祝儀の際の正装らしい。
ホテルの披露宴会場でその姿を見ると、
なんとも不思議な感じがした
。
ご披露宴会場の中も
普段とは様子が違っていた。
高砂席の横に先程、式場に置いてあった
祭壇が設けられ、お供えもしてあった。
会場の壁には不思議な色の
薄い布がはられていた。
何も知らない列席者が入ってきたら、
おそらく会場を間違えたと思うだろう。
入場の際の音楽も、独自の祝儀の曲らしい。
見慣れない楽器を選ばれしものが演奏をする。
もちろん正装で床に、
ひざを立てた格好での演奏。
しゅくしゅくとした入場を行うとのことで、
きまりセリフの
「盛大な拍手をお願いします。」
は、タブー。
新郎側の皆様なら、おめでたい感じを
味わえる場面であろうが、
何も知らない方々は、びっくりするやら、
きょとんとするやら、摩訶不思議な世界に
入り込んでしまった。
高砂席に到着する前には、
なにやら祭壇前で行っている。
外国人が初めて日本のお葬式に参列し、
お焼香しているのをみて、
「灰を食べているように見えた」
という話を聞いたことがあるが、
儀式の意味合いも分からず、
それに触れたことのない人間にとっては、
不思議千万。
祝辞をいただく方をご紹介するのも一苦労。
席札は戸籍上の氏名なのに、紹介名は違う。
いただいた大切なお名前らしいが、
読み方が難しい。
まさに司会者泣かせ。
読み慣れぬ文字の連続であった。
主賓の方はその宗派のお偉い方。
にこやかなおだやかな面持ちで
とくとくと話されるそのお言葉は、
大変ありがたいもののような気がした。
布教活動の一環でもあるような
その内容を聞き、
何も知らずに参列した新婦側の列席者も
ようやくこの雰囲気を理解しはじめたが、
乾杯へと宴が進んでも、
会場がにぎやかになることはなかった。
みんなおだやかな表情で
食事を楽しんでいるといった感じ。
宴が進むとスピーチが続く。
派手なエピソードの披露なし。
もちろん下手なジョークなしのスピーチ。
新郎新婦も神妙な面持ちで
真剣にお話を聞いていた。
まじめなお二人はこうしてまじめな表情で
幸せをかみしめているのだろうか。
それとも今は神に感謝し、
決意を新たにしているのだろうか。
その表情からは読み取れない。
歌でのお祝いは、新婦の友人が「安室奈美恵」を披露。
高音を力強く歌い上げる、張りのある歌声は
大変すばらしいものだったが、
この会場ではこちらのほうが浮いている感じがした。
わずか二時間弱でこの雰囲気に
なれてしまっている私。
でも改めて宗教とは奥深いものである。
底なしだ。
私にとっては不思議連続の披露宴も
終盤を迎えていた。
余興のとりは、新郎の友人達による楽器演奏。
入場の際に曲演奏をした男性五人組である。
ご紹介をして演奏準備をしていただく間を
色々なアナウンスでつないでいたが、
なかなか準備が出来ない。
一人、小さな筒状の楽器を手にした方が
「ちょっと待って下さい。」
一見、支度が出来ているようなので聞いてみると、
楽器の温度が上がらないとのこと。
その日、外は異常な寒さで
みぞれまじりの雪がちらついていた。
会場内はもちろん暖房が入っているのだが、
それでも楽器の温度が下がってしまったというのだ。
その小さな珍しい楽器は、
温度が下がると音が出ないという
デリケートな代物らしい。
筒に息を吹き込んで暖めている
彼の周りで、準備が出来ている4人の男性が
穏やかに見守っている。
つなぎの言葉も尽き果ててあせる私に、
彼らの冷静さの半分でも持ち合わせていたら・・・。
結局、状況を説明し
準備が出来るまで皆様方には、
お待ちいただくこととなった。
息を吹き込むだけでは、
温度が上がらないと判断した彼は、
持ってきてい電気コンロをつけて暖めだした。
これもなにかの儀式なのかと、
神妙に見守るお客様。
不思議な雰囲気のなか、
私は時間が気にかかる。
会場内には穏やかな時間が流れる。
一人困り果てる私は、
高砂席横の祭壇に目を向けていた。
「神様、私を助けてください。」