先日、とある頚髄損傷のお母さんと話し込んでいるときに気になる言葉がありました。
その方は、けがをしてから何度も何度も機能回復を諦めるなという言葉を他者から受けて困ったということです。
なお、機能的な回復というのは、動かなくなった手足が動くということです。
その方は頚髄の完全損傷であり医学的に機能的な回復は見込めません。
ただ、そんなことは医学的な知識や経験がない人にとっては関係ありませんし、たいていは医師が絶対に動かないと言われたけど、今は歩けるようになっているという類の話が出てきます。
友人が心配してくれるのはありがたい反面、脊髄損傷の専門の医療機関でリハビリを受けているのに、やや迷惑な話となっているようです。
当事者は機能的な回復が見込めないのを受け入れて次に進もうとしているのに、他者は次から次へと「諦めるな」と言ってくる。
歩けるようになるかもしれないと言われ、機能回復に向けたアクションを取らないと非難されるような形にまでなることもあるようです。
もちろん、脊髄の不全損傷の程度によっては、歩けることもあります。
私の担当した方は、受傷後は手足が全く動かなかったのに、今は軽いしびれ以外もなく、肉体労働をしています。
脊髄損傷に対する正しい理解を一般の方がすることは困難でしょう。
もっとも大切だと私が思うのは、適切な情報を本人やご家族へ理解できるまで繰り返しお伝えし、前向きに進んでいけるような支援をすることです。
本人の努力で歩けない人はいます。
逆に専門性が低く、本来は機能的な回復があるのにも関わらず、歩ける人が歩けなくなることもあります。
また、人間の本能として「立ちたい、歩きたい」ということがあるのも事実です。
さらに、歩けない、または車いすだと、人間的に劣っていると考えてしまう思考があるのも確かです。
様々な価値観があるのを認めたうえで、本人が納得して大切な人生を歩むために、機能的な回復を諦めないことが善で、諦めることが悪であるという単純な価値判断にならないことを願うばかりです。
本質的には、機能的な意味での できる・できないではなく、する・しないです。
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