(抜粋)
インフレのもとでは「機動性の高い人々」が得をして「動きの鈍い人々」が損をするということである。

金を貸す側の資産家(あるいは投資家) たちの立場からみると、これは自分たちの財産がまるで空気中に蒸発していくようなもので、インフレは彼らにとって刑罰に等しい。

ここでこれら企業家と資産家の性格を比べると、後者が本質的に安楽椅子の中で守りに入っている「動きの鈍い人々」であるのに対し、企業家たちは明らかに攻めの姿勢で活発に動き回る「機動性の高い」人々である。それゆえこれを見る限りでは、一般的にインフレはそれが緩やかなものである限り、機動性の高い前者に味方してそうでない後者に敵対していることがわかる。

労働者の場合は、要するにただ給料をもらってそれで物を買うだけだから、たとえ物価が上がったとしても、賃金がそれに比例して上昇するならば、一見影響はないように見える。しかし実際は必ずしもそうではない。

そこには一つのトリックがあり、よく見るといつも経営者側の方が労働者側よりも一手先んじている。これが巧みに労働者たちから金を吸い上げているのである。

製品の値段の上昇( 要するに経営者の儲け) の階段と賃金上昇の階段は同じ格好をしているが、問題は前者が一足早くスタートしていることである。

つまりこの斜線部分が差額としてまるごと経営者のポケットに入ってしまうわけで、実はそれは間接的な形で労働者たちが払わされてしまったのである。すべての場合においてこのようなメカニズムが生じるというわけでは必ずしもないが、とみかく労働者たちもインフレで貧乏くじを引かされる側に分類される。

(コメント)
先手がよいということなのだろう。
インフレ環境のもとでは一般的に機動力のない人々(資産家・労働者)が損をして、機動力のある人(企業家) は得をする。

国作りは企業中心のため企業家が得する構造になっているようだ。
(抜粋)
インフレという現象は、理屈で考えてみると、時々それがなぜそんな悪いことなのかわからなくなる時がある。ある意味で、経済発展の歴史というのは同時にインフレの歴史であるとも言えなくもない。実際百年も前には1 円であれ1 ポンドであれ1 ドルであれ、それは大変な値打ちをもっていた。しかしそれらの現在の価値は見ての通りであり、経済の発展過程では貨幣価値というものは概ね低下を続けるのが普通である。

これは形の上では数万倍の「インフレ」であるが、しかしだからといってわれわれが物価の数万倍の上昇に苦しんでいるわけではあるまい。つまりわれわれが稼いでいる給料の額も数字の上では数万倍にもなっており、給料と物価がともに同じ倍率で上昇する限り、実際の生活には何の変化もないからである。

疑問とはこのことで、要するにインフレとはただ面倒で苛立たしいだけのことに過ぎず、本当は誰も損をしているわけではないのではないかということである。

この疑問を本格的に発展させたものとして「貨幣の中立性」と呼ばれる考え方が存在している。貨幣の上で起こる数字の変化は実体経済に影響を及ぼす力をもたず、貨幣は経済に対して中立的な存在だということになるわけで、これが「貨幣の中立性」の考えである。

この考え方は、自由放任経済の「神の手」を信奉する人々がしばしば好む思考様式だと言えるだろう。
つまり人間にとって本当に必要な実体経済は神の手によってしっかりした秩序を与えられているということ。

こうした考えを色濃く反映した理論として「フィッシャーの貨幣数量説」などのものがあり、詳論は省くがこれは要するに先ほどのピラミッド型図形の要領で、社会内部の品物の総量にラベルの枚数を対応させれば、自動的にラベルの表面に数字- - これは物価水準に相当する- - が浮かび上がってくるわけだが、逆に言えばその数字に枚数をかければ、社会における貨幣経済全体の規模が割り出せるという話である。

いずれにせよ、例のピラミッド型図形のように単なる対応でラベルの上の数字が決定されるという基本思想には変わりはなく、もし本当にそれで貨幣のすべてが言い尽くせるとするならば、確かに実体経済への影響は基本的にはないと見るのが正しい。一方それに対してケインズ学派は、貨幣のもたらす撹乱要因は遥かに大きく、それが実体経済に及ぼす影響もしばしば馬鹿にならないものとみる。では本当のところはどうなのだろうか。


(コメント)
インフレが起きた歴史を眺めたいものだ。
貨幣は中立か否かで議論があるようだ。
中立でないとなにがおこるものなのか気になる。
(抜粋)
好景気に必然的につきまとうインフレーションのメカニズムであり、これでは政策当局がいくら造幣局を監視していてもそれだけでは効果はさほど期待できそうにない。そして別に経済が破綻しているわけでなく、紙幣乱発とは無縁の安定した国といえども常にこうしたインフレが燃え上がる素地を抱えているのであり、好景気の時は今でも新聞で「景気の過熱に伴うインフレ懸念が・・」などという見出しにお目にかかる。

つまり一般に好景気の時は同時にインフレの時でもあるというわけだが、経済学においてその相関関係を示したものに「フィリップス曲線」がある。

70年代以降、この研究はすっかり価値を落してしまうことになる。それというのも第二次大戦以後に西側先進国が体験した最も大規模なインフレというのが、これとは全然違うメカニズムによるものだったからである。

このとき起こったインフレというものは、中東産油国が突然一方的に原油を値上げして供給が細ったことで、いわば外から襲ってきたものであり、先ほどの例のように、自分の内部でサーキットが太っていく過程で一か所がつかえて全体の格好がくびれてしまったというより、むしろサーキットの原油供給の部分を外からぎゅっと掴まれたことでくびれた格好になってしまったようなものだった。

(コメント)
インフレ率と失業率は相関関係にあるというのが「フィリップス曲線」。
失業率が少ないとは製品をたくさん生産しているとき。
その中でボトルネックが発生すると、製品が高くなる。
そしてその他のものに波及していく。
一方、石油は意図的に値上げしたもので、いわば人の利益をあげたいという心がボトルネックをおこしたものだ。