『呪いと魔法』。 | 趣味部屋

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~オリジナル~



いつからだろうか。
私は霊媒師として頼られるようになっていた。

「お願いします!」

放課後、男子数人が私の前で土下座をしていた。

「わ、わかったから始めから話して!ねっ!?」

男子を土下座させている私…周囲から見ればおかしな人に見えないだろう。
いえ、おかしいのは事実。
おかしい存在を見えてしまったその時から…。





美咲、十六歳。
普通の高校二年生の女子。
しかし、普通だったのはつい一ヶ月前の話だった。
原因はこの二人。

「で、どうするの?」

帰宅し、自室に戻るなりすっと何も無い場所から現れた少女と女性。
『ぬいぐるみ持ちのアリス』と『名無しの魔女』。
少女がアリスで女性が魔女である。

「…断れない性格だとわかってそれ言ってるんだよね?」
「当然。」

アリスは見た目が幼く、人形のように可愛らしい。
しかし、美幼女であることに騙されてはいけない。
ドSだから。

「意志があるのであれば御協力いたしましょう。」

いつも親身なってくれるのは魔女の方。
アリスとは大違い。
この二人は一ヶ月前、突然私の前に現れ…巻き込まれた。
最近、街で超常現象が多発しているのは知っていたけど、その原因は彼女の仲間らしい。
仲間と言うと怒るけど。
私達の世界とは違う世界の存在らしく、悪さをしてる者を退治する為に来たみたい。
なお、私には霊感は無い。
だから、その悪さをしている存在は見えない…のに、この二人だけは見えるという矛盾がある。
他の人には二人のことは見えないみたいだけど。

「…でも、今時呪いって…。」

男子達の話によると呪われている、とのこと。
ある男子は何も無い廊下でこけた。
ある男子は山勘が全て外れてテストで零点を取った。
ある男子は大切なゲームのセーブデータが消えた。
ある男子は彼女に振られた。
実にどうでもいいことだらけだった。

「呪い…間違ってないと思うよ。野球部の男子だけが些細な不幸を経験してるんだもん。単純に考えると男子野球部に恨みを持った者の呪い。でも、軽度の呪い。腹が立ったからちょっとした仕返しがしたかったぐらいなんじゃない?」
「それならほっといても…。」
「軽度な呪いでも困っている人がいるのは事実。それに、恨みが何かしらの理由で強くなってしまったら死者も出てしまうかもしれないから。ま、美咲が見殺しにしたいと言うならいいよ。犯人退治はその後でもいいから。」

無邪気に笑うアリス。
無垢な子供の残酷な笑みそのものだった。

「恨みって…?」
「さぁね?下らないことだと思うよ。少なくとも、輪姦みたいな重罪ではないと思う。」
「りんかん、って…レイプのこと?」

可愛い顔して言うことを言う。
誰だって見た目が幼い女の子がそんな発言をしたら嫌だと思う。
少なくとも私は嫌。
しかし、彼女はそれをわかっていて態とやっている。
だから性格が悪い。

「…呪いって魔法みたいなもんなんでしょ?なら、魔女の得意分野だなんよね?」

二人には特殊な力がある。
魔女は特に魔法を得意としている。

「私達の世界では魔法と呪いは別の存在です。確かに呪術として魔法で擬似的な現象を起こすことは可能ですが、厳密には全くの別であることを頭に入れてください。」

僅かながら怒っているように見えた。
魔法使いとして呪いと一緒にされたのが嫌だったのかもしれない。

「その…ごめんなさい…。」
「いえ…。いい機会ですし、この際、魔法と呪いについての勉強をしましょうか。」
「遠慮します。」

魔女の話は長い。
それに、どちらも私達の世界には実際には存在しないもの。
仮にあったとしても全員が全員、使えるわけではないし。

「聞いてあげようよ。魔女は美咲に教えてあげたいんだから。」

よくわからないけど、魔女は私を可愛がってくれてるみたい。

「じゃ、じゃあ…。」
「では。呪いですが、これは純粋な想いでも発動してしまう可能性が高いのです。特に知識が無かったとしても。魔法でも有り得る話ですが、確率で言えば遙かに異なっています。故に人間は知らず知らずに誰かを呪っている可能性はあります。その結果が大きい場合でも小さい場合でも。万人が行い得る行為なのです。」

少しでも他人の嫌な部分を見ただけでも有り得るってこと?

「呪いも使用者の想いに強く依存しています。人を死に導く呪いもあれば、人の命を救う可能性もあります。後者は奇跡の一つとも言えますね。」

いい意味で呪いなんて言葉はあまり聞かないけど、呪い(まじない)とも言うんだからいい意味であると言えるのかも?
恋の御呪いなんて女の子なら世話になるし。
赤い糸で結ばれているわけでもなかったのに御呪いで無理矢理結ばせる運命にする…そう考えると呪いとも言えると思う。

「魔法と異なっている部分と言えば、効力がはっきりとしていないところです。魔法は術式を使用することによって形が決まった魔法を使用することが可能です。他者が使用したとしてもほぼ同じ効力となります。私のようにわざわざ術式を必要としない魔法使いもいますが、例外の中の例外ですので気にしないでください。」

なお、アリスが言うには魔女はとてつもなく凄い魔法使いだとのこと。

「対して、呪いは効力がはっきりしません。全ては引き起こした者の想い次第ですので。また、全く通用しない者には通用しないのも特徴と言えるでしょう。」
「…とにかく、呪いは厄介、ってことなんだよね?」
「…それでいいでしょう。」

何だか悪いことを言っちゃった気分…。
説明してくれたのに…。

「さて、今回の件ですが、ただの呪いではないでしょう。私達の世界の者が人間の誰かの恨みを読み取り、面白半分に実行しているのだと思われます。恨みがこの程度で続くのであれば時間に余裕がありますが、悪化しないとも限りません。死人が出る前に解決いたしましょう。」
「でも、どうやって?」
「捜査の基本は探すことです。」
「忘れたの?一ヶ月も経つんだからすっかり覚えてるもんだと思ってた。」

相変わらず嫌みが冴えてることで。

「それはわかってるよ…。とにかく、話を聞き回らないとダメってことだよね?」

私の問いに異世界の二人が頷く。
聞き回る、か…。
上手くいけばいいんだけど…。





翌朝、登校したら私の教室が騒がしかった。

「どうしたの?」

部屋に入って友達の女の子に聞く。

「み、美咲…!」

友達は指を指し示す。
その先には人集りがあって…あれ!?

「私の席の近くじゃない!?」
「近く、じゃないの!美咲の席なの!」
「!?ちょっと退いて!」

野次馬を掻き分けて私の席へ。
そこには深く、大きく文字が彫られた私の机があった。
乱暴に書かれた文字は片仮名でシネ、とだけ。
でも、単純だからこそ怖かった。
真っ直ぐで大きな殺意を感じてしまった。

「…ぅっ…。」

恐怖で身体が震え…身体の力が抜け、自分の身体が崩れていくように倒れていくのを感じながら意識を失った。





ゆっくりと目を覚ますと…。

「…保健室…?」
「その通り。」
「わっ!?」

耳元で囁かれて驚いてしまった。
そちらを向くとすぐ近くにアリスがいた。
窓の傍には魔女も。
そして、二人の姿を見た瞬間に安心した。
先程の恐怖も蘇ってきたが、不思議とそこまで怖くなくなっていた。
…いつの間にか二人に頼り切ってる。
そうなると何も出来ない私自身が悲しくなる。

「教室は今も大騒ぎ。ううん、学校全体の騒ぎになってるみたい。…犯人は生徒じゃないのに。」
「えっ…?」
「美咲を恨む人って誰?いるかもしれないけど、手間のかかる悪戯をされる程恨まれることは無いでしょう?じゃあ、こう考えることも出来る。あなたではなく、あなたに纏わり付いている私達が怖いだけだとしたら?」

つまり…この二人と同様の他世界の存在。

「わざわざ脅迫してきたのは私達に勝てないと自覚してるからだよ。」
「…本当にそっちの存在?」
「人間であれだけ深く大きく文字を彫るには本格的な道具が無いと。だけど、人外であれば簡単なことよ。今回の犯人の場合、焦りからか意図せずに随分と深くしてしまった、と言えるのかも。」

人外の仕業である、とあからさまに示してるようなものだもんね。

「…原因がわかれば何となく怖くなくなったよ!ありがとう!」
「美咲が動いてくれないと困るからね。…人間が恐怖するのは考えても答えが出ないから。でもね、原因が私達のような存在ならある程度はっきりしている分、大したことはないでしょう?」
「うん!」

布団から出てベッドから降り、一度大きく背伸びする。

「私を怖がらせた罰はきっちり受けてもらうんだから!」
「うん、その意気だよ。」

気合いを入れる。
ふと、私を見た魔女が優しげに微笑んだ気がした。
まるで妹を見守る姉のように。





その日、机を変えた後は普通に授業が行われた。
休憩中には情報集め。
男子野球部が起こした問題が無いか、恨まれるようなことをした場面を見ていないか、等。
…答えはあっさりと見付かった。

「…あ、あの…?」

放課後、私は一人の女子生徒を呼んだ。
志穂…高校一年生の少女だった。

「あなたを呼んだのは話があるから。」

この部屋にいるのは私と彼女だけ。

「…話は聞いたことがあります。美咲先輩は霊媒師だと。」

…そんなことで有名になんてなりたくはなかったけど…。

「野球部に災難が起こってる原因…私なんですか?」
「と、私は思ってる。まだわからないけど。」
「いえ、多分私です。私が少しでも野球部の男子に不満を持ったら、翌日には何か起こってて…私、怖くて…。」

傷付けられる痛みを知ってる彼女にとって他人を傷付けてしまう行為は苦痛だと思う。

「私の友達で野球部の男子と付き合ってる子がいて、悪口を言うような彼氏なんて可哀想、なんて思ったら別れちゃって…。」

…それ、彼女さんが友達の悪口をたまたまた聞いちゃって怒っただけなんじゃ…?
なお、今回の件は男子野球部が髪を切ったばかり志穂の髪型を寄って集って馬鹿にしたらしい。
確かに個性があって独特な髪型であると言える。
でも、その髪型が彼女の不思議な雰囲気に合ってるように私は思う。

「…すぐに払うから。」

こんなことを言うと本当に霊媒師みたい。
私の横にいるアリスを見る。

「…いないね。」
「えっ!?」

思わず声を出してしまった。

「どうしたんですか?」
「ちょ、ちょっと待ってね…。」

私には犯人は見えない。
だからアリスと魔女頼りとなる。
でも、アリスは横に頭を振った。

「その子に取り憑いてるわけじゃないみたい。飽くまでもその子の恨みを利用してるだけ。」

って、ことは解決出来ないってこと…?

「でも、彼女を利用した事実さえあればどうにでもなる。」

頼もしい一言。
過去にもこの手の相手をしたことがあるのかもしれない。

「…魔女。」
「準備は既に。いつでもどうぞ。」
「わかったわ。美咲、彼女が動かないようにしっかりと抱き締めていて。」
「…ちょっとごめんね。」

志穂に抱き付く。
後ろに回した手に力を入れ、動かないようにする。

「せ、先輩…!?」
「少しの間だけ我慢して。絶対に助けるから。」

私達の状況を見たアリスと魔女が動く。
恐らく魔法とか神秘的なことをしているのかもしれない。
残念ながら私には一切見えないけど。

「うっ…!」
「我慢して。」

苦しみ始めた志穂。
彼女に対して何かしてる…?
暫くしてアリスが消えた。





それから数分後。
彼女は意識を失った。

「だ、大丈夫!?」
「安心して。終わったから。魔女に犯人の居場所を彼女を通して探してもらい、私が退治したから。」

私の目の前に現れたアリス。
解説もしてくれた。

「じゃあ、もう起こらない?」
「新しい何かの存在に悪戯されなければね。一度でも利用された人間はまた利用され易い。私達に対する感受性が高いからなのかもしれない。原因は不明で調査中なんだって。」

何にしても一件落着で良かった。
…ううん、良くない!
まだ一つ、大きな問題が残ってる!





そして、翌日の放課後。
私は志穂を連れ、男子野球部が練習してるグランドに来た。

「…集合!」

練習なんて関係無い。
大声で男子達を呼ぶ。
皆こちらを見たけど集まる様子は無い。

「どうしたんだ?練習中だぞ。」

顧問の先生だけがやってきた。

「これは先生の問題でもあるんです!全員、集めてくれませんか?」
「わ…わかった…。おい、集まれ!」
「はい!」

先生の合図に全員がいい返事をして駆け寄ってくる。
こういう指導が行き届いてるのは素晴らしい。
でも、ダメなことはちゃんとダメと言わないといけない。

「異変は解決したよ。この子が原因だった。」

志穂を示す。
すると、あからさまに表情が変わった男子がいた。

「お、お前のせいで俺達は…!」
「ふざけないで!」

志穂に突っかかろうとした男子を思いっ切りひっぱたいた。

「先生、野球部の一部の男子が集団で彼女の髪型を馬鹿にしました。それがどれだけ彼女の心を傷付けたのかも知らないで。いい?女性にとって髪は命に等しいもの。馬鹿にするなら代わりに私が呪ってやる!」

怒りのままに言葉が出た。

「そうか、そんなことがあったのか。気付かずに済まなかった。…関わった者は前に出ろ。」

顧問がそう言うと、ワンテンポ遅れてから生徒達は前に出た。
そして、先生が両膝を地面に着けると真似するように関係者の男子達は膝を着けた。

「申し訳ありませんでした!」

一同、土下座。

「えっ!?あ、うん、もういいですから!私も迷惑かけてしまってごめんなさい!」

志穂も頭を下げた。
これでやっと全て解決、だといいね。





そして、その日の下校時のこと。

「本当にありがとうございました!」
「いいよ。大したことはしてないから。」

私自身は何もしてないし。

「…それで、あのですね…御姉様って呼んでいいですか?」
「はい?」

志穂から突然、予想外の言葉が出た。

「御姉様に抱き締められた時からドキドキしちゃってて…これは多分恋だと思うんです!いえ、叶わない恋で終わるのは構わないんです。ただ、御傍でお手伝いさせてください!」

…何言ってるんだろう、この子は…。

「あのね、気持ちは嬉しいけどお手伝いとかはいらないから。ごめんね。」
「そ、そうですか…。」

がっかりする志穂。
でも、彼女をまた巻き込むなんてことはしたくなかった。
今回はまだこの程度で済んだと言えることなのかもしれないけど、次はどうなるかなんてわからない。
非日常な異常事態の犠牲者なんて少ない方がいい。





帰宅し、一通りの支度を終えてベッドの上に横になった。

「最近、いつもより疲れてる気がする…。」

寝れば治るけど。

「私達がいるからだよ。寿命には関係しない程度の生命力を糧とさせてもらってるから。」

アリスが答えた。

「だと思った。…ねぇ、もし志穂をほっといたらどうなってたの?」
「…生け贄にされてたんじゃない?詳しくは教えられないけれど。」

生け贄…?
よくわからないけど、その言葉だけでも嫌な。
…そう言えば、この二人もその世界の者であることに間違い無い。
私達の世界で暴れてる者を退治して回ってると言ったけど…本当にそうなの?
人間にとってはいいことをしているように見えるけど、本当に味方なの?
仮に悪者だったとしたら…そっか、私が生け贄になるんだ…。

「二人はいつここから去るの?」

二人が去る時が多分私が生け贄にされる日。

「…そっか、そうだよね。」

アリスが意味深に、嫌らしい笑みを浮かべる。

「な、何よ…?」
「私達がいたら慰めることなんて出来ないものね。他人に見られながらの方が興奮していい、って変態じゃない限りは。」
「ちょ、ちょっと!何言ってるのよ!?」
「一ヶ月間も我慢してたらそれは辛いわよね。一言言ってくれれば外に出てあげたのに。私はこっそり覗くけど。…それとも、相手をしてあげよっか?」
「こ、この変態!」

罵声を浴びせて布団を被る。
顔が真っ赤になっているのがわかる。
アリスは私のこんな反応を見て楽しんでる。
それはわかってる。
わかってるからこそ彼女が望む通りの反応をしてしまってる自分が腹立たしい。

「アリス。」
「…わかってるよ。ちょっとだけ度が過ぎた。ごめんね。」
「…寝る!」

アリスは嫌い。
…でも、彼女達のおかげで最近は少し楽しいと思ってる。
これがいかに危険なことかもわかり始めていた。

「…あるくん…。」

そう呟いて…私の意識は沈んでいった。





学校生活で変わったことがある。

「美咲さん、おはよう!」
「御姉様、おはようございます!」

呼び名がおかしなことになっていた。
同級生からは急にさん付け。
後輩から御姉様。

「どういうこと?」

意味がわからない。
また何者かの悪さの影響。
妙に他人行儀で…嫌だ。

「男子野球部を土下座させたのを見たらね、さん付けじゃないと失礼な気がして。」
「と言うわけで、今日からさん付け決定ね。」

友達が答えてくれた。
…これってただ怖がられてるだけだよね…?
私の学生生活…この先どうなってしまうんだろう…?





『呪いと魔法』・終わり






後書き

オリジナルの話でした。
書き終えて思ったのです。
タイトルが関係無かった、と。
初めはそれを書きたくて書き始めたはずなのですけれど、一体どこをどう間違えたのでしょうかね?(笑)



美咲

普通の高校二年生の少女。
普通の中の普通だが、困っている人は放っては置けない性格らしい。


アリス

『ぬいぐるみ持ちのアリス』と呼ばれている他を魅了する美貌を持つ幼い少女。
気に入った者をからかって困る顔を見るのが好き。


魔女

『名無しの魔女』と言われ、恐れられている女性。
実はアリスの相棒ではなく監視役。