『封印されし魔物』。 | 趣味部屋

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一応これの続きです↓
『人と魔王』。



人間と魔族の長きに渡る戦争…これは魔族の降伏により人間の勝利となった。
同時に知った。
人間が争っていた相手は魔族の極一部に過ぎなかったことを。
全面戦争が行っていれば人間に端から勝ち目など無かったことを。
人間の中にも強い力を持つ者もいる。
たった一人で魔族の一組織を壊滅させることも可能な者がいる。
しかしそれでも…魔族は次元がまるで違っていた。

「では、そのように。」

人間の王に一度頭を下げ、その場を立ち去る少女。
彼女は魔王の使いとして訪れた従者であり、魔王の剣でも盾でもある。
力主義である魔族の中で最も強い力を持つとされ、故に誰も彼女を従える魔王に逆らおうとしない。





しかし、当然のことながら魔族の中には人間に白旗を揚げたことをよく思わない者もいた。
魔族は人間を見下していた。
自分達魔族を遥かに下回る性能しかない人間に負けを認めたのは許せなかったようだ。

「これさえ…これさえ解き放てば人間を滅ぼせる!」

ある遺跡の奥に数人の魔族が訪れていた。
この遺跡には強力過ぎる力を持つが故に他の魔族によって封印された魔族がいた。
当然、立ち入り禁止区域である。
そして、遺跡に訪れた魔族達は禁止区域であり他の魔族の怒りを買うことも知っていながらこの封印を解こうとしていた。
それだけの価値があると考えていた。

「…解除!」

何も無い最深部で魔族の一人が魔力を解き放ちながら叫んだ。
すると、部屋の奥の壁がゆっくりと開いていった。
開いた壁の先にいたのは…安らかに寝息を立てて眠る幼い少女だった。

「これが…竜…!?」

少女の背中には自らも包み込めそうな大きな翼があった。
竜とは魔族の中でも一際強力な性能を誇る種族である。
紛い物も多いが、竜とは彼女を指す言葉であるとも言われている。

「…ん…。」

目を開ける竜。
そして、ゆっくりと起き上がり、大きく一度欠伸をした。

「お目覚めか、竜よ。」

竜は目を擦りつつ、自分の封印を解いた魔族を見る。

「誰?」

彼女に見つめられただけで気圧される魔族達。
遥かに違う格の差を思い知らされていた。

「私達が封印を解いたのだ。」
「あなた達が?何で?」
「人間界を滅ぼす。その為に力を貸して欲しい。」

魔族の言葉を聞きながら首を少し捻る竜。

「人間?美味しいの?」
「味は多種多様だが、数は多い。」
「そうなんだ。それは楽しみ。でも…。」

次の瞬間、竜はある魔族の目の前にいた。
そして、右手にはまだ脈打つ心臓が握られていた。
彼女の目の前にいる魔族の心臓だった。

「誰が封印を解いてって頼んだの?折角気持ち良く寝てたのに。」

心臓を燃やし、火が通ったのを確認して喰らい付く。

「り、竜!?何を…!?」
「お腹空いちゃった。あなた達は食糧ね。」

心臓を食べ終える。
そして、封印を解いた魔族達の断末魔が遺跡内に響き渡った。





食事を終えた竜は外へと出た。
封印される前とはまるっきり異なった景色を楽しそうに見回していた。
立ち入り禁止区域だった為、木々が生い茂る森となっていた。

「何しよう?…さっき言ってた人間ってのを食べてみるのもいいかもね。でも、その前に…隠れてないで出て来たら?」

何者かの気配に気付いていた竜。
しかし、暫く待っても何も現れなかった。

「そっか。そっちがその気なら…。」

竜が指を弾いた。
ただそれだけで森は炎上し、全てを燃やし尽くした。





火が消えた頃には森は無くなっていた。
そこにいるのは竜のみである。

「燃え尽きてない食糧は…いた。」

身体を焼かれ、虫の息となっていた少女。
辛うじて炎から身を護ることが出来たが、横たわって身動きがもう出来ない少女を竜は無慈悲に焼いて息の根を止めた。
竜にとって他の生物は食糧に過ぎなかった。

「…また派手に暴れたのか。」

竜の前に転移魔法で姿を現した一人の少女…魔王の従者。

「今食事中。静かにして。…それとも、私に喰われたいの?」
「お前にその力があるのか?」

挑発する。
竜が睨み付けるが、魔王の従者は怯むことすらしない。

「…だから、あなたは嫌い。負けないけど勝てもしない。私と互角以上の存在なんて魔王以外全員死んでしまえばいいのに。」

竜は視線を元に戻し、食事を再開する。





魔王の従者はただただ竜の食事を終えるのを待っていた。

「…さて、どうするか…。」

焼け野原と化した地を見、悩む魔王の従者。
竜は魔界の災厄の一つだった。
竜の復活は既に魔界中に広がっている。
先程、森の中で竜を監視していたのは封印の管理者達だった。
封印が解けたことを察知し、すぐさま駆け付けたが手も足も出なかった。
竜に食べられている少女もまたその一族の者だった。

「人間界から帰ってきてすぐ一難。面倒なことになった。竜、どうす…。」
「人間!?人間って言ったの!?それ、どこに行けば食べれる!?」

食事を中断して畳み掛けるように問う竜。

「人間は魔王が作り出した世界の住人だ。」
「創世魔法って完成してたの?流石は魔王…。」

竜も過去に魔王に挑み、その結果封印された。
魔王の巧みな罠によって。
ただの殺し合いであれば魔王は負けるだろう。
しかし、竜は騙されて封印させられてしまった。

「魔王を恨んでいるのでは?」
「恨んでたら殺すんでしょ?いい夢見せてもらえたし、封印で済んだから別に。悪いものでもなかったし。もう一回封印されてあげてもいいよ。」
「今の魔王にはそんな魔力は無い。世界維持に魔力の多くを消費しているのだから。」
「そっか…。そんな相手に攻撃するなんてつまらないもんね。元気なの?」
「元気。引き籠もってはいるが。」

竜は笑う。

「それよりも竜は自分の心配をしたらどう?危険視し、始末しようとする者もいれば自らの力を過信し、腕試しとして討伐しに来る者もいるだろう。」
「だから?全員食べちゃえばよくない?」
「被害が大きくなった時が問題なんだ。私が竜を殺さなければいけなくなる可能性がある。平和な決着にならない。どちらかが死に、魔界に大きな損害が出る。」

実力はほぼ五分。
魔族の中でも圧倒的な力を持つ二人が戦えば魔界の地形も変えかねない。

「些細なことじゃない。」
「魔王に怒られる。」

それを聞いて、竜は考え込む。

「それは…嫌かも。」

竜の戦意が失せた。
魔王は決して強いわけではない。
少なくともこの二人よりは。
それでも魔族の者達は何故か魔王には勝てないと考えている者が多い。
強い力を持つ者程そう考える傾向がある。

「私も嫌だ。…さて。」

二人を囲むように次々と転移魔法陣が展開された。
その数は百に近い。

「私は関せず、でいいか?」
「それでいいよ。ところで、魔族は生温くなったんじゃない?なら…。」

魔法陣からは魔族が次々と出現していく。

「竜の恐怖をまた一度思い出させてあげないとね!」

不敵な笑みを浮かべ、翼を大きく広げた。





繰り広げられたのは戦争ではなく、圧倒的な暴力による一方的な惨殺だった。
誰一人として竜に傷一つ付けることさえ叶わず、竜が動く度に命が散る。
抗えぬ存在…それが竜。
力が全てであるはずの魔族の中ではまさに王たる種族だった。
その強大な力ですらどうにもならないと思わせたのが現魔王である。
魔王は変わり者だった。
だからこそ惹かれる者も多かった。

「…相変わらず恐ろしいものだ。」

竜は暴力をまるで具現化したような存在だった。
誰にも止められず、最後には魔族の死骸だけが残っていた。
一人残らず襲撃してきた魔族は死亡。
その中心には様々な色の血で全身を濡らした竜がいた。
そして、勝利の雄叫びのように高らかに笑った。

「やっぱり質が下がったね、魔族も!」
「そもそも、竜を相手に対等に戦える者が珍しい。異端な私ぐらいだろう。それと、権力者達が動かなかっただけ運がいいと思った方がいい。」
「へぇ。じゃあ、その権力者達ってのも倒してみたいね。」
「それは許されない。彼らは魔王の部下でもある。非常に便利な駒だ。魔王が怒ることになる。」

竜は残念そうな表情を見せる。
やはり魔王には逆らえないらしい。

「…諦めも肝心だよね。じゃあ、魔王に会いに行こう!」
「その前に返り血をどうにかしろ。血腥いままで会うつもり?」
「面倒。」
「なら、会わせない。それでもいいなら。」

竜は頬を膨らませ、どこかに行ってしまった。
彼女を見送りながら魔王の従者は溜め息を吐いた。





魔王の住居。
権力者は自分の住まいで力を表すことがあり、故に城に住む場合が多い。
しかし、魔王は少しだけ大きい屋敷に住んでいた。
城には全く興味を示さず、見栄にも感心が無かった。
良くも悪くも自分は自分…それが魔王だった。
いつしか魔族の王と呼ばれることになったが、その時でさえ何も思わず、ただただいつも通り…魔族らしく、自分勝手のまま。

「魔王、今帰った。」

屋敷の中の大きな部屋。
魔王の従者が扉を開け、竜と共に入る。
竜の身体は綺麗になっていた。
大きなベッドの上で複数の純白の羽に包まれて熟睡している少女…魔王。
二人が入ってきても変わらず寝息を立てていた。

「寝てる…ね。起こすのも悪いし、出よっか?」
「…仕方が無い。」

二人は部屋を出、ゆっくりと扉を閉めた。





屋敷は現在、数名しか暮らしていない。
永住しているのは魔王と従者のみ。
他の者は別に家を持っており、この家に泊まることも…訪れることさえも適当だった。

「はい、どうぞ。」

食堂…と言われているに少しだけ広めの部屋の椅子に座っていた従者と竜。
すると二人の前の机に上に料理が置かれた。

「…頼んでないけど?」

竜は運んできた料理人の女性に問う。

「あなたが竜の子ですよね?これは歓迎のお持て成しです。どうぞ召し上がってみてください。」

そう言われ、匂いを嗅ぎつつ一口食べる。

「!?」

固まる竜。

「お味はいかがですか?」
「何これ!?怖い!凄く美味しい!」

二口、三口と進めていき、あっという間に完食となった。
今まで経験したことが無かった美味しさに竜は虜となっていた。

「おかわり!」
「はい、すぐにお持ちいたしますね。」

竜から手渡された皿を手に、料理人は厨房へと戻っていった。

「やっぱり魔王の城には凄い魔族がいるんだね!」
「彼女はこの館でも最年長だ。実力も高い。」

魔王の館は実力者も多い。
その殆どが好戦的ではなく戦いに巻き込まれることに疲れた者である。
魔王は疲労困憊した者達に声をかけ、この館に呼んでいる。
その選別基準は不明で従者もわかっていない。
ただ、今のところは女性しかいなかった。
男性がいないのは女性に対する配慮らしい。
館に住んでいる限り、戦うこと自体殆ど無い。
魔王の館が関係者以外に発見出来ないこともあるが、そもそも魔王の従者だけで事が足りていた。

「別に敬うなんてしないから。」
「構わない。彼女も堅苦しいことは嫌いのようだ。…ただし、失礼は無いように。魔王も彼女の料理をとても気に入っている。料理人の機嫌が損なわれて美味しい料理が食べられなくなれば、魔王の機嫌も悪くなる。それは私としても非常に面倒な展開だ。」

一度溜め息を吐き、料理を食べる。

「色々と複雑なんだね、この館も。」

厨房にいる料理人を見て竜はそう呟いた。





魔王は力の殆どを人間界の存在維持に使用している。
始めは遊びに過ぎなかったことだが、今ではまるで義務のようになっていた。
自分が創造した世界…人間に愛着が湧いていた。
時代の流れによってころころと変わる人間界を眺めているだけで飽きなかった。
創造主である魔王にも想定出来ない人間達の生活は楽しかった。

「…ん…。」

目を覚ます魔王。
人間界の情報が増えて行くに連れ、魔王が眠る時間は増えた。
主に昼寝をする回数が増えていた。
それ程までに世界創造魔法に消費する魔力が他の魔法と比べても並外れて高い。

「あ、起きた!?」

傍にいた竜と目が合う魔王。

「あら、いたの。」

そして、竜の両頬を優しく抓る。

「見たよ。封印を解いて貰ったんだって?でも、少し犠牲者を出し過ぎだと思うわ。」

「大丈夫!全部返り討ちにしてやるんだから!」
「私が面倒事に巻き込まれるのが嫌なの。」

頬から手を離した魔王はゆっくりと立ち上がる。

「いい?この館にいたいのであれば大人しくすること。守れるなら歓迎するわ。無理と言うなら…。」

指を弾く。
すると、竜は地面に伏せてしまった。

「えっ…!?あ、あれ…!?」

立ち上がろうとしても手足が一切動かなかった。

「皆に始末してもらうから。忘れないで。」

もう一度指を弾くと竜の身体が再び動くようになった。

「今のって魔法…?」
「返事は?」
「…わかったよ…。」

渋々承知した竜。

「よろしい。さて、歓迎会を開かないとね。…ようこそ、私の家へ。」

魔王が手を差し伸べる。

「…うん!」

竜はその手を取り、ゆっくりと立ち上がった。





竜の復活は魔界中を揺るがす大きな話題となった。
当然、各地方の権力者達も黙ってはいなかった。
頼りない魔王に任せられずに自分で動き出す者もいた。
しかし…竜が姿を見せることは無かった。
伝説の魔族、竜。
復活した時には大いに騒がれたが、姿を見せないまま数日も立てば話題にもならなくなっていた。
姿を見せない魔王と同じようにまた伝説に戻っていた。
それでも竜が見せた傷痕は魔族達に恐怖を植え付けた。





『封印されし魔物』・終わり






後書き

新キャラ、竜。
…思わず2話目を作ってしまいましたけれど、続くかどうかはわかりません(^_^;)
魔王も出してしまいましたし、ある意味ネタ切れ。