(阿波国 一宮神社)
■表記
紀 … 登場しない
記 … 大宜都比賣神、大氣都比賣神(いずれも「オオゲツヒメノカミ」)
その他、大気津比売神など
■概要
食物の起源とされる神。食物を司る神。食物の神。「ケ(ゲ)」=食のことであり、「大いなる食の(都)神」となります。なかでも穀物、そして養蚕の神として祀られています。紀には登場せず、記には3ヶ所に記されています。
◎一つ目は伊邪那岐命と伊邪那美命による「国生み」の段、「大八嶋国」を生む中の一つ「伊豫二名嶋」(現在の四国)を生んだ際に記されます(→ 古事記神話 ~その17)。
━━次に「伊豫二名嶋(いよのふたなしま)」を生みました。この島は身は一つながら面(顔)は四つ、面ごとに名前があります。伊豫国は愛比賣、讚岐国は飯依比古、粟国(阿波国)は大宜都比賣、土佐国は建依別と謂われます━━(大意)
◎二つ目は伊邪那岐命と伊邪那美命による「国生み」が終わり、続いて「神生み」がなされる段に登場します。
河と海の「自然神」、そしてその泡などの「自然現象神」、また人間が造った灌漑設備など「加工物神」に続いて「大地に関わる神々」を生み、さらにその他神々が生まれます。
◎三つ目は速須佐之男命が高天原を追放され、食物を願い求める段に記されます。ただしここでは速須佐之男命が求めたのか、高天原の神々が求めたのかは文脈からは判然としません。
━━食物を大気都比賣神に願い求めました。大気都比賣神は鼻や口、尻から種々の美味しい物を取り出し、種々の料理を作っていました。それらを給仕する時の様子を覗いた速須佐之男命は穢らわしく思い、殺してしまいました。その遺体からは頭から蚕、両目から稲種、両耳から粟、鼻から小豆、陰部から麦、尻から大豆が生まれました。神産巣日御祖神はこれらを回収し種としました━━(大意)
◎これら三箇所に登場する「大宜都比賣神(大氣都比賣神)」が、同神なのか別神なのかは解釈が別れてはいます。同神とみなすのであれば、一つ目の内容から五穀の中でもより原始的な「粟」の神であろうと考えられます。
◎一方で紀においては、速須佐之男命が大氣都比賣神を殺す代わりに、保食神(ウケモチノカミ)が月夜見尊によって斬られる話としてあります。つまり「保食神=大氣都比賣神」となるのでしょうか。また稲種等を回収する神は天照大神が遣わした天熊人。
*穀物神(殺された神)
紀 … 保食神
記 … 大氣都比賣神
*殺した神
紀 … 月夜見尊
記 … 速須佐之男命
*稲種等を回収した神
紀 … 神産巣日御祖神
記 … 天照大神
◎この神がなぜ殺されたのか、記述内容では穢らわしいからとあります。これは記の編纂された時代には既にこの神の本質が忘れられていたからではないかと考えます。
大氣都比賣神は縄文時代からの女神であるとする考えもあります。縄文人の根底に流れる思想に、「死と再生」というものがあったとされます。つまり「生命は再生する」という考え方。大氣都比賣神の死はまさしく縄文人の思想ではないかと思うのです。
■祀られる神社(参拝済み社のみ)
[紀伊国那賀郡] 上岩出神社
(阿波国 上一宮大粟神社)