天竜川の西を南北に流れる馬込川があり、その上流には「有玉」という地名がいくつか残っています。古代は「麁玉郡(あらたまのこおり)」と呼ばれた遠江国の郡の一つ。「麁玉」が「有玉」に変遷したと考えられています。当地には「赤蛇伝説」があるのです。

 この辺りには大蛇が棲みつき、船を転覆させるなどして困らせていたそうです。そこで派遣されたのが坂上田村麻呂、当地の陣中で「玉袖」という娘を娶りました。娘は懐妊したので産屋を建てたのですが、子供が産まれるまで覗かないようにと田村麻呂に申し出ます。ところが田村麻呂は覗いてしまいました。そこにいたのは赤い大蛇、覗かれた以上ここにはいられないと赤子は田村麻呂に預け、さらに2つの「宝珠」を渡し海へと戻ったのです。

それから田村麻呂は東国平定に向かうのですが、荒れた海(天竜川か)を渡ろうとするときに宝珠を一つ投げ入れました。すると海が割れて大蛇が移動した跡が残っていました。
田村麻呂と赤大蛇との間の子も父にならい東征を行います。同様に天竜川に阻まれましたが、残りの一つ宝珠を投げ入れると渡ることができました。

「有玉」とは大蛇からもらった宝珠が由来ということだそうです。そしてその大蛇を祀っているのが椎ヶ脇神社ということです。



この民話から読み取れることが3点。
一つは「麁玉(有玉)」の地名由来。
もう一つは椎ヶ脇神社が龍神を祀っていること。ご祭神は闇淤加美神とされていますが、書紀では「闇龗」と表記される神。「龗(オカミ)」は龍の古語であり民話と合致するものです。龗神を研究する上では、雌の龍神であることも重要ですが。
残りの一つは「赤い」大蛇であること。川で赤いとなると製鉄を連想するのは谷川健一先生贔屓が過ぎるのか。古代において「赤」となるものは非常に限られていたかと思うのです。火、朱、血、紅葉、そして製鉄。ざっと思い付くのはこの程度。十分に考えうることだと思うのですが。