那珂フュージョン科学技術研究所のつづき。
「なか博士の核融合講座」。初心者向けと理系大学生向けがありました。
とても面白かったので、どちらも聞きました。
「なか博士」はとても説明がうまく、引き込まれました。
わかりやすいだけでなく、聞く人の心をつかむ話術。
■話術に長けた研究者が重要なわけ
話術に長けた研究者が、こういう研究所にとって非常に重要です。
なぜかというと、研究には莫大な費用がかかり、そのお金を集める必要があるからです。
スポンサーとなる政府やお役人は、研究のプロではありません。優秀な研究者がいくら必要な費用だと訴えても、わかってもらえなければ予算は下りません。
研究のプロでない人に、いかにわかりやすく、そして心をつかむ説明ができるか。
これができる話術に長けた研究者が、研究所には必要です。核融合のような、非常に長期間に渡って莫大な費用がかかる研究はなおさらです。
■ずっと疑問に思っていたこと
講義のあと、ずっと疑問に思っていたことを「なか博士」に質問しました。
福島第一原発で発生している汚染水。
トリチウム(三重水素)が含まれ、これは除去できないため、今は薄めて処理水として海に流しています。
一方、核融合ではトリチウムを燃料として使用します。
え?
それなら福島のトリチウム処理水を捨てないで、核融合に使用すればいいのでは?
当然沸き起こる疑問です。
これを「なか博士」に質問しました。
答え。
「福島のトリチウム処理水では薄すぎる!」
なんと、核融合に使用するにはあの程度の濃度のトリチウムでは逆にダメなんだそうです。もっともっと濃くないと。
そして後日ChatGPTに質問してわかったことですが、液体の状態ではダメで、トリチウムガス(気体)でないと燃料としては使えないようです。処理水をガス化するためには電気分解などの処理が必要(これが非常に高価)。またトリチウム濃度が低いので大量の処理水を電気分解する必要があります。これではお金がかかりすぎて商業的に成り立たない。だからあの処理水は使い道がなく、捨てるしかないとのこと。
残念です・・・
■じゃあトリチウムガスはどうやって得ている?
今はトリチウムはどこから入手しているのか?これも質問しました。
答え。
海外の原発で、トリチウム(ガス)を生成。それを購入して使用しているのだそうです(リチウムやホウ素に中性子を当ててトリチウムを生成する)。
※ちなみにJT-60SAでは燃料としてトリチウムは使用せず、重水素を使用しています。重水素は海水から生成できるため、この方法では入手していないと思われます。
■トカマク教、ヘリカル教
「なか博士の核融合講座」の理系大学生向けでは、質問内容も専門的なものが多く、非常に楽しかったです。
例えば、核融合炉の種類。
那珂フュージョン科学技術研究所や、海外のITER計画では「トカマク型」を採用しています。
一方、岐阜県にある核融合科学研究所では「ヘリカル型」を採用しています。
どちらが優れているのか?どちらが今後主流になるのか?
(文部科学省HPより引用)
これは難しい質問だ、とのこと。
トカマク教、ヘリカル教、どちらを信仰するかは研究者によって異なり、答えはまだ出ていないと。
しかし現時点では性能を出しているのはトカマク型。
構造が単純で、大型の装置が作りやすいのもトカマク型。
(装置の大型化が性能向上につながる)
たしかに、ヘリカル型はねじり構造が見た目にはカッコいいですが、一方これを大きくして製造しろと言われると、簡単ではなさそうです。
トカマク型は、輪切りのパーツを国ごとに分担して作り、それを合体することさえすでにできています。国際のITERにも採用されており、大型化に向いています。
もし今後ヘリカル型に大きなアドバンテージが見つかったとしても、大型の装置を作ることには課題がありそうです。
こちらが展示してあった那珂フュージョン科学技術研究所の核融合炉 JT-60SAの模型。木製というのが良いですね。
今回、JT-60SAのツアーには参加しませんでしたが、次回はぜひ。
こちらが完成したJT-60SAの映像です。
こちらはフランスで建設中の核融合実験炉 ITER。
ペーパークラフトが配布されていました。
しかし2025年運転開始の計画の延期が発表され、2034年になるとのこと。
(当初の目標からは16年遅れだそうです)
それまではJT-60SA が実際に使える核融合炉となるわけで、日本に来る研究者も増えるかもと思います。ますますJT-60SAの存在感が高まります。
私は個人的には原発には反対ですが、核融合には期待しています。
安全に停止することができ、廃棄物も十分に処理できるため。
なかなか実現まで遠いのが厳しいですが、ぜひ実現してほしいと思います。
<訪問日:2024年10月>