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ZEL's:写真とジオラマとプラネタリウム

趣味は写真、プラネタリウム巡り、科学施設巡り、ジオラマ初心者、フィギュアスケート観戦、かつてはゲーム音楽の作曲も。
2021/8月にこのブログを開設。

那珂フュージョン科学技術研究所のつづき。

 

「なか博士の核融合講座」。初心者向けと理系大学生向けがありました。

とても面白かったので、どちらも聞きました。

 

 

「なか博士」はとても説明がうまく、引き込まれました。

わかりやすいだけでなく、聞く人の心をつかむ話術。

 

■話術に長けた研究者が重要なわけ

話術に長けた研究者が、こういう研究所にとって非常に重要です。

なぜかというと、研究には莫大な費用がかかり、そのお金を集める必要があるからです。

スポンサーとなる政府やお役人は、研究のプロではありません。優秀な研究者がいくら必要な費用だと訴えても、わかってもらえなければ予算は下りません。

研究のプロでない人に、いかにわかりやすく、そして心をつかむ説明ができるか。

これができる話術に長けた研究者が、研究所には必要です。核融合のような、非常に長期間に渡って莫大な費用がかかる研究はなおさらです。

 

■ずっと疑問に思っていたこと

講義のあと、ずっと疑問に思っていたことを「なか博士」に質問しました。

 

福島第一原発で発生している汚染水。

トリチウム(三重水素)が含まれ、これは除去できないため、今は薄めて処理水として海に流しています。

一方、核融合ではトリチウムを燃料として使用します。

 

え?

それなら福島のトリチウム処理水を捨てないで、核融合に使用すればいいのでは?

当然沸き起こる疑問です。

これを「なか博士」に質問しました。

 

答え。

         「福島のトリチウム処理水では薄すぎる!」

 

なんと、核融合に使用するにはあの程度の濃度のトリチウムでは逆にダメなんだそうです。もっともっと濃くないと。

そして後日ChatGPTに質問してわかったことですが、液体の状態ではダメで、トリチウムガス(気体)でないと燃料としては使えないようです。処理水をガス化するためには電気分解などの処理が必要(これが非常に高価)。またトリチウム濃度が低いので大量の処理水を電気分解する必要があります。これではお金がかかりすぎて商業的に成り立たない。だからあの処理水は使い道がなく、捨てるしかないとのこと。

残念です・・・

 

■じゃあトリチウムガスはどうやって得ている?

今はトリチウムはどこから入手しているのか?これも質問しました。

答え。

海外の原発で、トリチウム(ガス)を生成。それを購入して使用しているのだそうです(リチウムやホウ素に中性子を当ててトリチウムを生成する)。

 

※ちなみにJT-60SAでは燃料としてトリチウムは使用せず、重水素を使用しています。重水素は海水から生成できるため、この方法では入手していないと思われます。

 

■トカマク教、ヘリカル教

「なか博士の核融合講座」の理系大学生向けでは、質問内容も専門的なものが多く、非常に楽しかったです。

例えば、核融合炉の種類。

那珂フュージョン科学技術研究所や、海外のITER計画では「トカマク型」を採用しています。

一方、岐阜県にある核融合科学研究所では「ヘリカル型」を採用しています。

どちらが優れているのか?どちらが今後主流になるのか?

 

(文部科学省HPより引用)

 

これは難しい質問だ、とのこと。

トカマク教、ヘリカル教、どちらを信仰するかは研究者によって異なり、答えはまだ出ていないと。

しかし現時点では性能を出しているのはトカマク型。

構造が単純で、大型の装置が作りやすいのもトカマク型。

(装置の大型化が性能向上につながる)

 

たしかに、ヘリカル型はねじり構造が見た目にはカッコいいですが、一方これを大きくして製造しろと言われると、簡単ではなさそうです。

トカマク型は、輪切りのパーツを国ごとに分担して作り、それを合体することさえすでにできています。国際のITERにも採用されており、大型化に向いています。

もし今後ヘリカル型に大きなアドバンテージが見つかったとしても、大型の装置を作ることには課題がありそうです。

 

こちらが展示してあった那珂フュージョン科学技術研究所の核融合炉 JT-60SAの模型。木製というのが良いですね。

 

 

今回、JT-60SAのツアーには参加しませんでしたが、次回はぜひ。

こちらが完成したJT-60SAの映像です。

 

 

こちらはフランスで建設中の核融合実験炉 ITER。

ペーパークラフトが配布されていました。

しかし2025年運転開始の計画の延期が発表され、2034年になるとのこと。

(当初の目標からは16年遅れだそうです)

それまではJT-60SA が実際に使える核融合炉となるわけで、日本に来る研究者も増えるかもと思います。ますますJT-60SAの存在感が高まります。

 

 

私は個人的には原発には反対ですが、核融合には期待しています。

安全に停止することができ、廃棄物も十分に処理できるため。

なかなか実現まで遠いのが厳しいですが、ぜひ実現してほしいと思います。

 

<訪問日:2024年10月>

那珂フュージョン科学技術研究所(茨城県那珂市)。

今まで何度も来ています。

那珂核融合研究所から名前が変わりました。

「核」というと、原発や原爆のイメージがあるからでしょうか。

核融合と核分裂では全然違うのですが、それがわかる人は一般には少ないですね。

 

 

 

今回のお目当ては「中央変電所バックヤードツアー」。

ここに日本で唯一のレアな変電所があります。

一般公開でしか見られません。

 

 

核融合炉 JT-60SAで使用する莫大な電力を供給するための変電所。

超高圧 275kVを引き入れている施設は日本でここだけだそうです。

 

ツアーに参加すると、まず変電所の制御室に案内されます。

 

 

 

PC上で、変電所の操作を体験できます。

もちろん子供の参加者に譲ります。

 

 

操作によって、パネルのランプ表示が変わります。

 

 

 

こういう大型パネルのある制御室って、憧れますね。

発電所とか、新幹線の総合指令所とか。

 

次に案内されたのは、非常用ディーゼル発電機の建屋。

停電になった際に自動的に起動し、JT-60SAの実験中であっても安全に停止できるようにするためのものだそうです。

発電機は2機あります。

 

 

 

入るなり、歴史を感じる大型の装置が。

そして銘板を見てびっくり。

「東京芝浦電気株式会社」。もちろん東芝のことです。

 

 

 

これは発電機で、これを駆動するためのディーゼルエンジンが後ろについています。

船舶用の巨大なエンジン。

 

 

 

ディーゼルエンジンは新潟鐵工所製でした。

これを起動するのは空気圧だそうです。これが始動用の空気ボンベ。

定期的に検査のために起動して、無事に動くことを確認しているそうです。

 

 

変電所に戻って来ました。

こちらは外部と接続している部分。

ここに意外なものがありました。

 

 

 

これは「塩害予知装置」。

ここは海からは少し離れていますが、それでも海からの風で、海の塩分の粒子が飛んでくるようです。塩分粒子が変電所の碍子(ガイシ)に付着し、雨の水分で碍子の表面を電流が流れてしまいます。超高圧を絶縁している碍子の抵抗が低下し、漏電事故になる可能性が。

これを防ぐため、1日1回、この白い球体に水をかけて、その下の装置でその水に含まれる塩分濃度を測定。規定濃度に達すると、碍子のところに霧のように水が出てきて洗い流す、という仕組みです。

超高圧なだけに、そんなところまで気を遣わないといけないんですね。

 

この中央変電所は東海第二原発から直接ぶらさがっており、その後、那珂変電所ー新茂木変電所につながっています。

この275kVを直接受ける、というのが日本でここだけなんだそうです。

 

 

ちなみに那珂変電所は以前行きました。

今度はぜひ新茂木変電所にも行ってみたいと思います。

 

 

ところで、解説のスタッフさんから豆知識を教えてもらいました。

この輪っか状の碍子の数と色に意味がある、と。

 

 

白いのと黒いのがありますが、10個に1個、黒いものが入っています。

これは1個=約10kVの耐圧を示しており、黒のところで10番目(100kV)と20番目(200kV)。

ここは275kV変電所ですから、26個の碍子が付いています。

これを知っていれば、碍子の数を数えれば一体何kVを流すための線かがすぐにわかりますね。

 

あとは、変電所の設備を写真に収めました。

こちらは東芝製。

 

 

 

 

こちらは明電舎製。

 

 

 

 

 

このようなカードの配布がありました。

QST(量子科学技術研究開発機構)で作成されたものですが、ダムカードっぽいですね。

変電所巡りしている人のために、変電所カードを・・・ってそんな人いないか。

 

 

<訪問日:2024年10月>

J-PARCのつづき。

今回はオレンジのおむすび RCSから分岐した先。

物質・生命科学実験施設(MLF)です。

(Material and Life science experimental Facility)

 

 

MLFは、中性子を利用するもの、ミュオンを利用するものに分かれています。

 

(J-PARCホームページより引用)

 

中性子のビームラインはBL01-BL23まであります。

さらにBL01-BL13と、BL14-BL23でフロアが仕切られているようです。

こちらはBL01-BL13側。

 

 

 

 

2009年当時、まだ各施設は作りかけに見えますね。

 

こちらはBL03 iBIX 茨城県生命物質構造解析装置。

この球体が非常にSFチックです。

 

 

タンパク質の構造を中性子で解析することにより、従来のX線ではわからなかった分析ができるようになるとのこと。それが新薬の開発などに役立つようです。

 

こちらはBL14-BL23側。

 

 

 

 

いずれもカラフルな色で、ちょっと研究施設っぽくない明るい雰囲気?

面白いですね。

そして、ミュオンビーム生成成功のパネルがありました。

 

 

こちらがそのミュオン関係の装置だと思うのですが、この当時まだ完成していないように見えます。

いかにもな電磁石ですね。

 

 

 

 

 

 

以上で J-PARCの一般公開2009のご紹介は終わりです。

正直、理解できるほどの知識がなかったので、見学では見た目にカッコいいものに目が行ってしまいます。

でもJ-PARCのホームページで解説などを読むと意外と面白く、次に見学に行くときは別の見方で楽しめるかも、と思いました。特に研究者の方は皆さん親切で、質問すると快く説明してくれたりします。

ただ見て回るよりは、研究者の方と少しでもお話する方がこういう見学はもっと楽しめます。

ぜひお薦めします。

 

<訪問日:2009年8月>