うちの近所の公園には野球場が併設されていて、週末になると地域の野球チームが練習や交流試合を行っている。

野球場がちょっとした高台にあるので眺めがよく、夕陽がとても綺麗に見える。

僕も小学校の頃、少年野球をやっていた。地域の大人たちが監督やコーチをして子供たちに野球を教えていた。

僕のチームの監督は「野口」という近所のおじさんで、『ノグカン』と呼ばれていた。地域の名物監督で、尋常じゃないくらいに熱い人だった。

バッティング練習でも小学生相手に全力で挑んでくる。手加減一切なし。めいっぱい豪速球を投げてきたりする。たまにデットボールを食らうと超痛い。

試合の時なんかは、最初はベンチから怖い顔で黙々とサインを出してるんだけど、興奮してくると我慢できなくなるのか、ベンチから身を乗り出して、

「次おもいっきり振れぇー!! ヒットエンドランだー!!」

と叫んでしまう。サインもくそもない。

地域の少年野球というのは、監督やコーチが平日仕事なので、普通は土日に練習や試合をするもの。

だけど、僕の入っていたチームはノグカンがとても熱心で毎朝6時半に集合して、学校に行く前に朝連をしていた。

コーチたちは会社だからもちろんいない。教えてくれるのはノグカン一人だけ。

ノグカンも会社があるはずなのに…

朝連は短時間で集中してやるのが狙いなのか、とにかくきつかった。そしてノグカンはよく怒っていた。まだ言いたいことがあり気なんだけど、

「ヤバイ、会社に遅刻する!!」

と時間に気づいて “怒りながら後ろ向きで走って” 会社に向かっていった。名物だった。

時間ないなら朝連しなきゃいいのになーと、当時は思っていた。

ある週末の練習後、夕暮れ時にグラウンドの整備をしながらノグカンが、

「お前たちのことを怒っていたら会社に遅刻しちゃって、逆に俺が上司に怒られたよ。こんなしょっちゅう会社に遅刻していたらクビになっちゃうかもな~」

と、笑って言っていた。上司に怒られた話をしているのになんだか満足そうで、変な監督だなーと思ったのをよく覚えている。

ノグカンは会社に遅刻してまでも僕らに伝えたいことがあったのかもしれない。それが何かは具体的にはわからない。

けれども、きっと真剣に子供たちと向き合っていたのだろう。

さっき夕陽を見ようと野球場に行った時、グローブとバットを背負いながらコーチや監督と一緒に帰っている子供たちを見てそんなことを思い出した。


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