チャン・ガンミョン著 『我らが願いは戦争』(2016年)
北朝鮮の金王朝が崩壊した近未来の朝鮮半島が舞台。しかしそこには、いまだに統一国家が成立してはいなかった。
統一された朝鮮半島の状況は、深い海の底のように真っ暗である。一般人の南北間の往来は禁じられ、特に朝鮮半島北部は貧困と暴力が蔓延し、麻薬組織が暗躍する無法地帯となり果てていた。北朝鮮の軍人は麻薬組織の傘下に入ってしまった。
韓国と北朝鮮の実状はむしろ後退したようだ。南北の住民の反感はますます深刻化して混乱が深まった。つい何年か前まで、最も理想的と謳われていた南北の統一シナリオは現実のものとなったが、北朝鮮は麻薬カルテルと腐敗した政治家が結合した、残酷で悲惨な社会となっていた。これなら、統一されない方が良かったのかもしれない。
北朝鮮の特殊部隊出身の主人公リチョルが経験する3日間の死闘を描くアクションスリラー小説で、キムオンス「設計者」(2010年)同様、韓国ノワール映画を一気に観た気分になる。
『我らが願いは戦争』というタイトルには、金政権崩壊による南北統一ではなく、戦争をして北を完全に焼き尽くして一から再スタートした方が腐敗した官僚も出ないだろうし、麻薬カルテルも掃討できたし、良かったのではないか、という南北の若者の想いが込められている。
<終わり>