不安だった一人暮らしも、流石にそろそろ慣れてきた。周辺の居酒屋開拓も順調で、例えば串カツの美味い「経らく」も、お店に顔を覚えてもらって久しい。地方から僕を頼って上京してきた友人と、カウンターに座る。店内の小さなブラウン管は、なでしこジャパンの試合が放送されている。こんな時間に酒が飲める贅沢。しかしそれは、束の間の幻。
あれだけ当時は出たかった実家も、今は昔。病状の重い母親は、その後施設に入った。兄弟のいずれもが今はそれぞれに拠点を持つ。残る家族は父親と、伯母と、犬。先日など実家に立ち寄ると、喋る貯金箱が煩かった。伯母も父も、僕を歓迎してくれる。宿泊を薦める。きっと彼らは寂しいのだ。意固地になっている。僕は何故、一人暮らしを続ける。