新聞の経済面を読んでも、テレビで経済ニュースを見ても、目にとまるのは「減産」、「減益」、「人員削減」など、景気の良くないことばかり。人材ビジネスに携わる立場として、IPO件数の減少や、倒産件数の増加、早期退職を募る企業の動向などを気にしているが、やはり最近はネガティブな情報ばかりが目立つ。
どの業界も、軒並み調子が悪い。そんな中、特に顕著なのが製造業。週休三日制を導入する工場、製造ラインをしばらく休止する工場など、経営陣の苦肉の策を目にする。そんな中、賛否両論はあるが、派遣切りと呼ばれる、非正規雇用者に対するぞんざいな対応が、特に世論の注目の的である。
製造現場で働く派遣社員の中には、仕事だけでなく、住居も派遣会社から提供されているケースが少なくない。契約を打ち切られると、収入と寝床の両方を途端に失ってしまう。2009年問題と言われる、3年前の法律の改正に伴った派遣社員の増加により、今の製造不況の真っ只中で大きな問題になっている。
職と家を失った彼らが行き着く先はどこだろう。真っ先に思いついたのが、日雇い労働者の町。東京なら山谷、神奈川では寿町、大阪なら西成(あいりん地区)のことである。独特な文化や人間模様が、以前から気になっていた。なぜかメディアで取り上げられることが殆どなく、情報を仕入れる手段は少ない。
- だから山谷はやめられねえ―「僕」が日雇い労働者だった180日/塚田 努
- (内容紹介)
- ごく普通の大学生の「僕」は、就職活動を前にしてドロップアウト。そして始めた東京・山谷でのその日暮らし。宿なし・金なし・家族なしの中年男たちと寄せ場や職安に通い、飯場の世界にも飛び込んでいく。彼らは、そして就職を選べなかった「僕」は、ダメな人間なのか?ドヤ街の男たちと寝食を共にした一人の若者による傑作ノンフィクション。幻冬舎アウトロー大賞(ノンフィクション部門)受賞。
建築現場を、未熟練な技能で渡り歩く男たち。年齢を重ね、でも他に積み上げたものがなく、少ない日当も酒やギャンブルに消費して、繰り返す単純労働に残りの生涯を費やす。彼らの生態系が、よく分かる一冊。著者の体験を交えながらの、臨場感ある描写が面白い。とても読み易かった。
綺麗な都市の片隅に、たまに見かける汚れた格好の労働者たち。同じ風景を共有しているはずなのに、普段の僕らは彼らの存在を気にすることがない。気づかないのだ。その不思議は、一方の彼らにも感じているようだ。見えない境界線の中で、大学院生と日雇い労働者の二つの顔を持つ著者も悩み苦しむ。労働とは。社会とは。人生とは。悶々とした葛藤が、それほど青臭くなく感じる著者の表現力も秀逸。