少し前の話で恐縮だが、あれは友人らと出かけた鎌倉旅行の宿の部屋で見たテレビ。サッカーW杯の地区予選を戦う日本代表を応援する為に、その前に放送されていた夕方の情報番組を眺めていたところ、非常に懐かしい選手が取り上げられていたのを見て驚いた。「あれっ、望月さん?!」。隣で「誰?」と呟く名古屋グランパスファンの友人に対して、僕は満足な説明ができずにいた。
- もう一回蹴りたかった/望月重良
- (内容紹介)
小学校からプロまで、すべてのカテゴリーで日本一を経験したサッカーエリート。日本代表でもプレイした望月重良選手が2007年1月、ひっそりと現役から退いた。原因は、あの美空ひばりも患った国指定の難病、「特発性大腿骨頭壊死症」。「もう一度ピッチに立ちたい」という思いを胸に、難病と戦いながら再起を目指した日々を追う。「下を向いても何も落ちてない。後ろを見たって過去は変えられない」と言う男が不治の病と戦った2年間の軌跡!
サッカー選手の半生を負ったノンフィクション物。昨年末に読んだ、福田健二のこれまでを追った「RUN(小宮良之著)」も良かったが、こちらも良かった。そう言えば、二人ともJリーグデビューは同じ名古屋グランパス。僕の記憶が定かなら、確か同じ時期のチームメイトのはず。それが、片や南米各国での奮闘からスペインに渡り、国内2部リーグで奮闘する流浪人生。片や小さな頃からエリート街道を歩んできたのが一変、難病と向き合ってリハビリに明け暮れたまま静かに現役を去る人生。スポットライトを浴びる、ピッチの上の90分間の活躍のみに焦点が合わせられてしまうサッカー選手だが、彼らも人なり。そこにはドラマがある。
トルシエ監督時代の日本代表に、大変失礼だが、見た目が普通の兄ちゃんがいるなぁっと、そう思ったのが彼をよく知るきっかけだった。当時、在籍する名古屋でも決して目立っているとは思ってなかったし、代表では中田英や中村俊輔、名波など、スーパープレイヤーが顔を揃える中にあって、やはり平凡だった。それでも、アジア選手権大会でサウジを破って優勝を決めた決勝点、あれは彼が決めたんだよね。同書を読むと、小学校から大学までの全カテゴリで全国制覇を経験し、プロでも天皇杯優勝、代表では前述した通りと、エリート街道を歩んでいる。
特筆すべきは、高校時代。サッカーの名門、清水商業で1年時からレギュラー。当時、3年生には藤田俊哉、2年生には名波浩、山田隆裕、大岩剛、薩川了洋と、その先にJリーグまたは代表で活躍するスターがゴロゴロいたチーム(清商黄金時代)。ちなみに、翌年には平野孝、更にその翌年には川口能活が後輩として入ってきている。望月の最後の高校サッカー選手権、彼に引導を渡したのは、3回戦でぶつかった鹿児島実業より、天才ドリブラーの前園真聖、1年生ながらエースストライカーだった城彰二。ここら辺のエピソードが最高に面白い。
「もう一回、もう一回」と、かつて当たり前のように立っていた檜舞台に戻る為、得体の知れない難病と向き合い、かつ周囲には悟られまいと事実を隠しながら、懸命にリハビリを続ける彼の姿勢に感銘を覚える。それは、エリート人生を歩んできた彼が初めて直面した、大きな挫折。それを乗り越えることの大変さ、そして大切さは、サッカー選手でなくとも、アスリートでなくとも、大いに参考になるだろう。長くなっちゃったけど、それだけ感動したってこと。