もくじ
- はじめに
- ストーカーでなくともストーカー認定される
- ストーカーの認定は極めて機械的に行われる
- ストーカー認定に携わる警察官は専門家ではない
- 警察に持ち込まれる被害相談はおかしなものだらけ
- 世間の認識と実態とのずれで生じた事
- 専門機関を作った方がよい
1.はじめに
日経新聞の女性記者がストーカー容疑で逮捕された事件で、詳細と真相は未だ不確定ですが、主に週刊誌等で様々な情報が報道された事を受けて、ストーカー規制法自体に深刻な欠陥や問題があるのではないか、といった声が挙がっています。
実は同法と運用が原因の欠陥、問題点の被害に遭い、酷い目に遭わされている人達が大勢いるのですが、世間的には警察にとって非常に都合の悪い問題の為、このあたりがマスコミで取り上げられた事は聞いた事がありません。
そこでこの法律にどのような問題と欠陥があるのか、解説していこうと思います。
2.ストーカーでなくともストーカー認定される
警察によるストーカー認定に関して、世間では大きな誤解があります。
いわく、警察は慎重に認定している、余程の事がない限り、警察からストーカーに認定される事はない……等々。
これは真っ赤な嘘です。
警察によるストーカーの認定基準は単純明快です。
- 恋愛感情や好意の感情が絡んだ事案か
- 被害相談に訪れた人物が相手方を明確に拒絶しているかどうか
- 拒絶している状態で、ストーカー規制法に列挙された行為を反復して行っているかどうか
3.ストーカーの認定は極めて機械的に行われる
[例1]
AはBと交際している。しかし途中からCにアプローチして付き合うようになり、二股交際になった。
BにあきたAは、二股交際している事実を隠し、一方的に別れを切り出す。Bは納得が行かず、Aに説明を求める。
しかしAは話し合いは済んだとしてそれ以上の交渉を拒否、その為、BはAに電話したり、メールやLINEを送ったりした。
Bは復縁を求めているわけではなく、何故、別れると言い出したのか、きちんと説明して欲しいだけだった。
そうした行為が数週間続いた為、Aは警察にストーカーの被害相談を行い、Bをストーカーだと主張した。
[例2]
AはBを金蔓と思っていた。BはAと付き合っていると思わされていた。
Aは言葉巧みにBの心を操り、付き合っているのだと錯覚させるような言動を取りつつ、交際の記録を残らないようにしていた。
理由を拵えてはBから金を無心し、様々名目で金を支払わせたり、Aの私物を購入させたりしていた。
Bの貯金が底を突き、借金も限度額一杯になると、AはわざとBが怒るように仕向け、喧嘩になるように誘導した。
Bはなかなか引っ掛からない為、Aは苛立ち、また、焦り始めたが、売り言葉に買い言葉でBが罵ってきた。
好機と捉え、怒ったふりを偽装して、電話もLINEもメールも全て着信拒否に設定した。
Aが怒っているだけだと考えていたBは、執拗に連絡を取ろうとするが、1週間経っても、2週間経っても、反応がない。
業を煮やしたBがAの勤め先や住居に面会を求めて行くが、Aは巧みにBから逃げる。
1カ月後、AはBからストーカー行為を受けているとして、警察に被害相談に行った。
例1、例2共、Aが警察に被害相談に行けば、Bはストーカーに認定され、警察署に呼び出されて事情を聞かれた上、二度とAに近付かない旨の誓約書を書かされて、署名、押印させられ、二度と接触しないように、連絡しないようにと警告を受けます。
例1は明らかにA側に非があり、別れを切り出した事への説明を求めているだけのBはストーカーでも何でもありませんが、警察にはそんな事情は全く関係ありません。
恋愛感情が絡んだ事案で、被害相談に訪れた人物が相手方を明確に拒絶していて、その状態でストーカー規制法に列挙された行為を反復して行っているので、問答無用でBをストーカーに認定します。
例2も同じです。
こちらは完全に悪質な詐欺師による詐欺行為ですが、連絡を取ろうと執拗に試みたBはストーカーとして扱われます。
Bが自身が詐欺被害に遭った事に気づいており、Aに返金を求めて連絡を取ろうとしたり、自宅や勤め先で待ち伏せしたのだとしても、ストーカーとして扱われます。
2のケースに関しては、Bが詐欺被害に遭ったのだと訴えても、どのような理由があろうが、連絡を取ろうとしたり、出待ちするのはストーカー行為だ、これ以上続けるなら逮捕する、詐欺に関する相談は法律事務所を訪ねて弁護士にしてくれと言うだけです。
このように警察によるストーカー認定は極めて機械的に行われ、AB間の関係の全体像を見て、総合的に判断してストーカーか否かを判別するといった時間のかかる正確な認定は一切していません。
4.ストーカー認定に携わる警察官は専門家ではない
これは重要な話ですが、実は、精神障害として、ストーカー人格障害、というものが存在するわけではありません。
しかし、それとは真逆で、ストーカーには独特の思考様式があり、普通の人と異なる思考をする事でも有名です。
どういう事かと言うと、人格障害、精神障害には、統合失調症、妄想障害、反社会性人格障害、自己愛性人格障害、境界型人格障害など様々なものがありますが、ストーカー加害者の多くは、こういった精神障害や人格障害を持っていたり、あるいは、持っているとまでは言えないものの、人格に偏りがあって、それらの障害に近い状況にある、複数の障害を混合して持っており、そういった障害群が、ストーカー行為という形で垣間見えている、と言われています。
また、ストーカーが殺人に至るのは何の兆候もなく突発的に起きるとも言われていて、専門家でもストーカー殺人の未然の阻止は、将来的な事は別として、現段階では不可能であると言われています。
ストーカー問題への対処と言うのは、それだけ難易度の高い問題なのです。
そうであるにもかかわらず、大学で心理学を専攻し、修得しているわけでもない、予備知識の全くない素人の警察官にストーカー認定やストーカー事件への対応を行わせるわけです。
はっきり言えば、無茶苦茶な事をやらせているわけです。
それでどうなるかと言うと、専門家が作成したマニュアルに従って、ストーカーに認定したり、危険度の反対を行うわけです。
会話やメールの文面、メッセージなどに、特定の文言が入っていると「危険度が高い」と判断して、事件を起こす危険性の高い要注意人物として扱ったり、警告を出したり、誓約書に署名させて、動向を注視する等をしているわけです。
こんないい加減な判定をしているので、ストーカーですらない人間を、文面の文言だけ見て危険度の高い要注意人物だと誤認するといった馬鹿げた失態がごく普通に行われているのです(当然ですが、その逆も当然起き得ます)。
この話は3の機械的な認定と絡んだ話になりますが、これが警察によるストーカー認定の実態なんです。
5.警察に持ち込まれる被害相談はおかしなものだらけ
ストーカー事件と聞くと、桶川ストーカー事件のような、被害者に一切の非がなく、精神面に問題を持った加害者に恐ろしい目に遭わされるというイメージが思い浮かぶと思いますが、現実はそうではありません。
実際に持ち込まれる被害相談は、大抵、次のようなものだと言われています。
- 別れ話になったが、男女共、コミュニケーション能力が低かった為、きちんと別れられず関係が拗れてしまった
- 水商売関連の人達が客と金銭トラブルになった
- 結婚詐欺のような事をしている連中が、被害者から返金を求められた
実際にストーカー問題を担当している警察官は、俺達は別れさせ屋ではないと愚痴を言っているとも言われています。
不倫で泥沼化して、手切れしたとい考えている別れている側が、面倒になって警察を「別れ屋」的に悪用し、警察の強制力を借りて強引に関係解消(清算)を成就させようとするようなケースも、かなり起きているのだろうと考えられます。
6.世間の認識と実態とのずれで生じた事
凶悪なストーカー殺人が起きる度に、現実を知らない世間は、「防げたはずだ」と警察を無責任に批判します。
警察は批判を利用し、ストーカー殺人を防ぐ為に、より強い権限を与えて欲しいと訴え、世論を気にする政治家は賛成します。
ところが凶悪なストーカー殺人など滅多に起きないのです。
ストーカー事案の現実は5で書いたような体たらくです。
そんな状況で警察の権限ばかり強化して、ストーカー殺人を防ぐ為にもっとやれと煽ったらどうなるでしょうか。
警察はストーカー殺人を防ぐとの名目で、積極的にストーカー認定し、手当たり次第に誓約書を書かせ、警告を出します。
そして警告を破ったら問答無用でどんどん逮捕していきます。
恋愛感情や好意が絡んだ事案で、被害相談に訪れた人物が相手を明確に拒絶していて、その状態でストーカー規制法に列挙された行為を反復して行っている人間を、事情も考慮せずに片っ端からストーカー認定しているのですから、被害相談に訪れた側に非があり、その事が原因でトラブルになっていただけのストーカーでも何でもない人が大量に警察からストーカーに認定されることになります。
当然、こんな出鱈目な認定をしているわけですから、でっち上げでストーカーにされてしまう人も大勢出てきます。
警察は犯罪者扱いした人間であれば人権など蹂躙しても構わないという姿勢でいますので、たとえ警告を出された人間がその事か原因で不利益をこうむろうが、重度の人権侵害が生じようが、電話をほんの数回かけて警告を破ったという馬鹿げた理由で逮捕された人間が実名報道で職を失い、再起不能になって地獄のような人生を歩もうが、どうでもいいと思っているわけです。
生活安全部の一部の警察官は「ストーカー殺人を防ぐ為にはやむを得ない犠牲」と公然と言い放ち、こうした現状を肯定しているにもかかわらず、警察は「警告は行政指導に過ぎず、行政処分には当たらない。よって警察の出した警告の取り消し訴訟は行政訴訟の対象にはならない」と主張し、裁判所が警察が行ったストーカー認定の是非を審理する事に反対し、実際、裁判所もその主張を認めて、警察によるストーカー認定の審理を門前払いしているのです。
つまり「出鱈目なストーカー認定をした事が原因で懲戒免職になるのは真っ平御免だ」というわけです。
酷い話であると同時に、おぞましい話でもあり、恐ろしい話でもありますが、これが現実なんです。
だから奈良県警で女性をストーカーにでっち上げて警告を出すような事件が起きたのは必然なんです。
警察による杜撰なストーカー認定の被害に遭った人は、数千人から数万人に達している可能性も考えられます。
7.専門機関を作った方がよい
ストーカーの被害相談は年に2万件もあります。
警察も暇ではないので、それだけの相談件数の一件一件を丁寧に対応する時間も人員もありません。
ところが現実に想起しているストーカーの被害相談は、時間をかけて丁寧に対応しないといけないものばかりです。
何で警察が交際が破局したり、不倫関係が破綻したカップルの別れ話のもつれなんかに介入して、関係の解消(清算)が成就するまで見届けないといけないのか、非常に謎ですが、現実に持ち込まれている相談は、原因は様々ですが、実際にこじれにこじれた状態になっているから相談に来ている可能性が高く、それ故に、時間をかけて解決する以外にありません。
私も沢山のケースを聞いて来ていますが、別れ話になったところ、唐突に警察が出てきて、寝耳に水で頭の中が真っ白になったり、混乱したりして、訳が解らないまま警察に主導権を握られて、勝手にストーカー扱いされて、理不尽な思いをさせられたと、不満に思っているという話を本当によく聞きました。
そしてそういうケースは大抵、被害相談に行った側の方が問題を抱えていて、何故、そんな理由で警察が出てくるのかわからない、警察に介入されるような事はしていないといった事が多いです(実際、ストーカー扱いされて理由が、電話の際の言葉遣いが乱暴だったとか、「そんな事で?」と言いたくなるような、信じられないようなケースを結構聞いています)。
警察が被害相談に来た人の意見を鵜呑みにして、ほぼ一方的に加害者扱いされている人をストーカーや悪玉にしている事が原因なのですが、それだけでなく、被害相談に来た人に、カウンセリングが必要なケースもあるわけです。
しかし警察官はカウンセラーではない為、被害相談に来た側がかなり深刻な心の問題を持っていたとしても、話を聞いていてその事に気づく事は、まず出来ませんし、仮に気づく事が出来たとしても、今のような仕組みでは、円滑に対応する事は不可能だろうと考えられるわけです。
ストーカーの被害相談に来ているという事は、言い換えれば、対人トラブルを起こしているという事になりますが、その原因が、被害を訴えている側自身のコミュニケーション能力の低さであったり、対人関係を円滑に築くスキルが低い事にある場合、そのような状況に至った何らかの病的な原因が潜んでいる可能性も考えられるわけです。
ストーカー事案というと、とかく加害者扱いされた人物が抱える精神疾患や人格障害を注視しがちですが、被害相談に訪れている人間自体にも、何らかの問題がある事が考えられるのです。
また、いきなり警察が出て来ては、第三者を挟んだ話し合いの場さえあり、冷静に話し合えば解決できる程度の問題だったとしても、強制力がちらついているわけですから、対等な話し合いなどできるはずもなく、逆に話がこじれる可能性もあるわけです。
そういった諸々の問題を考慮すると、精神科医や臨床心理士、公認心理師ら専門家からなるストーカー問題を取り扱う専門機関を創設して、ストーカー問題はその機関が一手に引き受ける形を取った方が、最善ではないかと思うわけです。