不動産市場の変化の兆候 | 京浜不動産鑑定所のブログ

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不動産市場の大きな変化について、その特徴的なところをとらえてお話しします。

不動産市場では、地価の下落が20年を越えて続いているので、不動産市場は20年前の狂乱地価(バブル地価とも言います)のころとはすっかり別のものに変わってしまったという話を続けます。

その変化の兆候は、さまざまな具体的な形で現れています。そのいくつかをご紹介しましょう。

①土地神話の崩壊

不動産市場の変化は、まず土地神話の崩壊となって現れました。

かつて日本人の心には、「土地は絶対に値下がりしない有利な資産」という思い込みがあったのです。そして、土地神話には「土地は更地が一番」という更地至上主義の信仰がセットになっていました。値上がり益を最大限に享受するためには、転売が容易な更地という状態で保有するのが一番だったからです。

②実需中心の市場

不動産市場がすっかり変わって、不動産取引はキャピタルゲイン (転売利益)狙いの荒っぽいものから、インカムゲイン (利用収益)を追及する冷静なものに変わりました。これを実需中心の市場への変化といいます。

③選別化

実需中心の市場では“選別化”がキーワードになります。以前の不動産市場であれば、土地が売り物に出れば、それを買っておけば確実に値上がりしたので、選別の余地などなかったのです。不動産取引に下落のリスクがなかった時代には、取引する土地を厳しく選別する理由は乏しかったということです。

④二極化

ところが現在、下落が続く市場に変わってしまっているので、土地はしっかり将来を見極めて、じっくり選んで買わなければ大損する危険があります。地価の上昇が期待できる数少ない都市や地域もありますが、大半は値下り一方の都市や地域ばかりです。どうせ住宅を買うのであれば、地価の値下りの心配の少ないまちで買いたい。この切実な需要者側の選別傾向は、“二極化”と呼ばれています。

⑤個別化

一つの地域を構成する多数の土地の中でも、良い土地とそうでない土地の区別が明確になっています。よくない土地は大幅に値下げをしてみても買い手はなかなか見つからないというような現象が現れます。こうした同じ地域内の土地相互の間に現れる選別化傾向は、“個別化”と呼ばれています。

⑥土地は、管理が難しい資産

土地をたくさん持っている人は、資産家と呼ばれます。しかし、不動産市場が変わって、地主にとって、持っていれば値上がりした時代ではなくなってしまいました。所有する土地を転売しても値上がり利益が期待できないとなると土地をたくさん持っている資産家は苦しくなります。更地は収益を生まないので、更地を持っていると負担(管理費用や固定資産税など税金)ばかりが嵩むのです。土地に利益を生ませようとなると、それにふさわしい利用方法を考えて、大金を用意して建物を建てなければなりません。その建物を有効に利用できる人を探してきて利益を生ませ、その一部を賃貸収入として受け取る。こんな迂遠な方法によってしか土地の利益は実現できないのです。地主は厄介な資産を抱え、つらい選択を迫られている人になっています。

⑦複合不動産の時代

更地より複合不動産(土地建物一体の不動産)が市場で尊重される時代になっています。更地保有はリスクになっていますから、現実に利益をあげている土地・建物一体の不動産(複合不動産)の方が投資家にとっては、むしろ扱いやすいということになります。

⑧不動産の価値判断は、地理的なものから経営的なものへ

こうして、土地建物一体の複合不動産が不動産市場での取引の中心をしめる時代になると、不動産の価値判断は経営的要素が重要性を増すようになります。その不動産がどこに位置するかで価値が決まるのではなく、どのように使用されているか、その使用は地域に適合しているかで価値が決まるからです。不動産の判断基準が地理的なものから経営的なものへと変わってきているのです。