今宵は、美しい満月ですね!
今回は書斎の窓からの、美しい満月を眺めつつ書きました!
こころにたくさんの光をいただきました。
月光の愛に感謝し、ブログをお読みいただく時間、
みなさまに、このやさしい光がいっぱい降り注ぎますように![]()
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いつも、ありがとうございます。
さくらま![]()
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Voices from Fullmoon of October
あなたが
ささやかな
けれど、ほんとうの
喜びを信じたら
わたしのひかりは
あなたとひとつになるでしょう
あなたの胸の
まぶしい太陽に照らされて
わたしは、あなたに
はじめての顔を
見せるでしょう。
いのちといういのちを
残さず包み込んでしまうほど
やさしい甘露に満たされて
わたしたちの
終わりを知らない音楽が
世界を開いてゆくでしょう。
まるで、はじめから
あたりまえに
そうだったかのように
わたしたちは、新しいうたを
うたいはじめる。
これまでのお話はこちらです![]()
おばあちゃんの家のキッチンは
土間にあった。
窓から満月が見える
小さな台所に今も香る
幾種ものハーブとお茶の香り
満月の日は
ここに来てお湯をわかし
こころを開いて
なくなったおばあちゃんの
光のスープを
静かに、飲んでみるのです。
レイラ
10月のこころ レモンイエロー
扉の、その先へ。
レイラは、梱包を解いたばかりの絵を壁に立て、
せっせと額縁を拭いていた。
外は久しぶりの秋晴れで、空気が澄んでいる。
雑巾がわりの小さな布は、おばあちゃんが古い洋服を小さく切って
縫い合わせたもので、すごく丈夫だ。
何回拭いても捨てる気にならず、レイラは布を持って
キッチンの洗い場に向かった。
歩きながらレイラは、くしゅっとくしゃみをした。
築40年の木造家屋にはそろそろ暖房が必要だ。
土間は、一層ひんやりしていた。
キッチンではベンが、レイラにかわってコーヒーを煎れていて
ふんわり、アロマの香りが漂う。
ベンはざっくり編みのセーターを着て
コンロを凝視し、火加減に集中している。
無造作に放られた、大きなバックパックは
コーヒー用品一式を持ち込んだベンの所有物。
ベンは、持参した自家焙煎のコーヒー豆を、
持参したコーヒーミルでごりごりと挽き、
そしてご丁寧に、コーヒー用のケトルまで持ってきた。
火に掛けたケトルがしゅんしゅんと、うたっている。
でも、眼鏡越しのベンの目は、お医者さんみたいに真剣だ。
レイラは、黄色いラナンキュラスを一輪挿しに挿して、
おばあちゃんに遺影に供え、手を合わせた。
それから庭に出て、天日干し中の果物の中から、うんと太陽を浴びた
上出来なドライフルーツを選んで
三つの白いお皿にのせた。おばあちゃんの分、
ベンの分、そしてシワッと形が悪いのはレイラの分。
「とりあえず、、残念とは言わん!
最終選考まで残ってすごい。おめでとう!」
ベンは自分のマグカップをカチンとレイラの陶器のカップにあてた。
残念ながら、レイラの絵は最終選考で落選。
本当は入賞を逃がして少しほっとしていた。
思えば、あまりにも自分の内面を露わにした絵だった。
時間を追うごとに、後悔や、恥ずかしさがムクムクと湧いて、
最終選考に残ったと知ったときは、不安の方が強くなっていた。
どこかで、大勢に見られることを怖がっている自分がいる。
ベンは、使い込んだケトルで、こぽこぽとお湯を注ぎながら
レイラの顔を不思議そうにながめた。
「あんまり、気持ちオチてないね?」
レイラは両手でゆっくりカップを包んで
指先を温めながら言った。
「うん。描いてる時間が、すごく濃かったから、、」
ベンは、へえ、という顔でレイラを見た。
短い間に起きた、ささいな出来事の重なりが
レイラに、とても濃い、養分のようなものを残していった。
絵にした扉、、、、あの部屋で出会ったのは
少女の頃のおばあちゃんだけじゃない。
ベンと、スクラップブックをめくったとき
ベンは、時々おばあちゃんが虫眼鏡で真剣に新聞を読んでいたこと、
そして、ひどく辛い表情をしていたことを覚えていた。
レイラはそんなおばあちゃんを一切知らない。記憶にないのだ。
孤児としてのおばあちゃんの経験を、尋ねたこともなかった。
確かに、おばあちゃんには本気で守ろうとするものがあると
感じてはいたけど、それはレイラとか、家族とか、庭の植物とか
レイラに身近な小さな世界でくくられていた。
でも、ベンの傷ついた小さなこころは、おばあちゃんの痛みも
、この世界のひずみを思う、こころの広がりも、
ちゃんと感じていたのだ。
おばちゃんとは、話さなくても全部わかりあえる。
レイラとおばあちゃんは、特別な関係。
それはレイラが守られている存在でいたかったからで、
本当はベンの方が、おばあちゃんのありのままを、
しっかり見つめていた。
そのちょっと苦い気づきは、
レイラが人を見る目を、やさしくしてくれる薬でもあった。
ベンは、慎重に、おかわりのコーヒーを注いでくれた。
深煎りの豆なのに、ベンの煎れたコーヒーは
今日の空みたいな澄んだ味がする。
いつものハーブとはちがう新鮮な香りが、
脳をさわやかにしてくれる。
「絵、見る?梱包解いたの、見てないでしょ」
レイラはベンを絵を置いた場所にさそった。

「おぉっ、、絵、変えてたんだ!」
ベンは、眼鏡をはずして、絵に顔を近づけた。
「すっごい色数。。扉が開いてるし」
レイラははじめ、扉そのものを精密に描いていた。
でも、だんだん何かが違う気がしてきて、
描いた絵をつぶして、やりなおした。
仕上がったのは、数センチ開いた扉の絵で、
すき間から漏れる光を多色使いで点描した。
「へんな絵でしょ」
レイラが小声でいうと、
ベンは、ぶんぶん首を振った。
「いいの、気を遣わなくて。へんな絵だよ」
レイラは、改めて絵を見つめた。
この家の植物や、おばあちゃんの香り、
そしてその見えない力が、レイラの毎日につながってゆく瞬間を
扉から漏れる光として絵にしたかった。
いつかおばあちゃんは言った。
人に見えない色だって構わない。
自分に見えた色を表現して生きなさいと。
レイラはその言葉に背中を押された。
でも、こうして見ると、
ちっともコンクールのテーマにあってない。
奇をてらった風に思われそうだし、
最終選考に残ったのは、きっと、ミラクルだ。
「自分の作品を謙遜するのは、カッコよくない!
この、おじさんだって、レイラをかってたじゃん」
ベンは、レイラがテーブルに置いていた一枚の名刺をとって
指にはさむと、クルっと回してレイラに向けた。
作品は返送にせず、ベンと一緒にコンクールの事務所まで取りに行った。そのとき、事務所にいた、あごひげのおじさんに渡された名刺だ。
レイラは、事務所の椅子にゆったりと腰掛けて、
細い目でレイラをながめた、そのおじさんの不思議な印象を思い出した。
はじめは、審査員の先生なのかと思った。でもおじさんは
コンクールの関係者ではあるが自分は審査員ではないと告げた。
結果は残念だったが、レイラの絵にひかれた。自分は「ちょっと面白い空間」を持っている。機会を作って、レイラの絵を展示してもいいと言った。
「君の絵は、素直さと、強烈な恐れが共存しているね。
しかし、自分が絵にできないものと、きちんと向き合ってる。
よかったら一度、気軽に話にきなさい」
低くて、すごく響く声だった。
おじさんは、きれいな水晶の腕輪をした手で、レイラに名刺を渡すと、
にこ、と笑って、すぐに事務所の人たちとの話に戻った。
レイラは言葉が見つからず、ただぺこんと頭を下げ、ベンと絵を運び出した。
名刺はもらったものの、そんな話はあやしすぎる。
すぐ捨てようとしたけど、ふと手が止まり、テーブルに置いたままにしていた。
「で、どうすんの?」
ベンは、名刺を指にはさんだまま、レイラに尋ねた。
「どうするって、、、あやしくない?」
ベンは、しばらく考えて
「どうかな」
と言った、そして
「行ってみれば、いいんじゃない」
と軽く返したので、レイラは反発した。
「まじで?知らない大人だよ?
体よく利用されるかもしれないし」
「そうとはかぎらないじゃん。
こわがりのレイラお姫様に、キラキラの、
ティアラを乗っけてくれるかもよ」
ベンは両手でレイラの頭に、冠をのせるふりをした。
「ばっかみたい!そんな大人いるわけないじゃん」
レイラが、アホらしいという顔でふくれると、
ベンは、へへっと笑って、窓辺の遺影に視線を向けた。
やさしい木のフレームに入った、おばあちゃんと、
一輪挿しのラナンキュラス。
窓から入る日射しで
花びらの水滴が、きらきら光っている。
突然、
胸がくすぐったくなる香りがした。
ラナンキュラスの黄色が
レイラの心に入って、どこまでも広がる。
時間がシンと、止まった。
スケッチブックに、グリーンマンの絵を描いたときの
パンの焼けるような香りだ。

あのとき、レイラはこう思った。
森の精霊、グリーンマンは、森の神話として
語り継がれたもの。でもグリーンマンのイメージは
本当は、ふるさとを遠く離れて、都市に暮らし、
森のいのちを懐かしむ人の思いが、描き継いできた
イメージなんじゃないか。
強い願いが妖精のカタチになって、息づきはじめたんじゃないか。
そう思うと、指先を通して、森の生命とつながりたい情熱が
どんどん湧き上がった。明らかに小さなレイラを超えた
おおきな大きな、歴史を貫く人間の息吹のような力だった。
そうだ、
あの、ひげのおじさんに、かすかに感じた
不思議な印象は、グリーンマンの印象だ!
レイラは腑に落ちて、思わず微笑んだ。
ベンが察して、レイラに名刺を差し出したので
レイラは、そっと受け取った。
「レイラは、ばあちゃんっ子だからな。。
ばあちゃんだけ見て生きてたら
ラプンツェルじゃん。
塔にこもって描くだけじゃ
イケてないって」
ベン流の励ましだ。
ジャズ好きのくせに
必ずプリンセスものを喩えに出すのは
ベンの優しさなのか。
「ラプンツェルじゃないいよ。
ここの人たちとも話すようになったし」
確かにレイラは、おばあちゃん以外の大人は用心する。
でも、最近は少し変わった。
「ご近所にモダン建築の高級住宅があるでしょ。
この前、あそこのキリッとしたおばさんに声かけられたの」
レイラは声をかけられたとき、びくっとした。
おばあちゃんとは時々、話をしていたおばさんだけど、
教育の世界では有名な人らしく、レイラは話したことがない。
絵のために通い詰めた時、近くで会って会釈をすると、
じっと見られている気がして緊張した。
レイラは庭もちゃんと手入れしないし、
きっとあまりよく思われていないのだと思いこんでいた。
でも、突然、おばさんの方からレイラに近寄ってきて
レイラにありがとう、と感謝したのだ。
本当に腰が抜けるほど、びっくりした。
おばさんにとって、おばあちゃんや、この家は
パワースポットみたいなもので、存在が心を明るくしてくれた。
おばあちゃんがいなくなって、すっかり寂しくなり、
もし家主を失った家が取り壊されてしまったら思うと、
心から悲しくなった。でも、レイラが来るようになって、
またここに灯りがともり、レイラの元気な顔を見ると、
ほっとした、本当によかった、と少し涙目でレイラの手をとった。
そして「おかあさま、たいへんだったでしょう」と
おばさんは、あの母のことを気にかけた。
きっと、お母さんは心の支えを失って心底こたえている、
自分にはわかるのだ、と、自分の胸にふっくらした手を当てて言った。
そう話す茶色の瞳は、屈託なくて、透明で、
ただ、素朴でやさしいひとなのだとレイラは思った。
悲しみのなかから、少しづつつながってゆく世界がある。

おばあちゃんの喪失で、レイラは自分の居場所を失って
心に鈍い塊ができていた。自分のことでいっぱいいっぱいで。
話をきいていたベンは、
何も言わず、もう一度チンと、自分のマグカップを
レイラのカップにあてた。
「ベン、おじさんのところ、一緒に行ってくれる?」
レイラがベンにそう言うとベンはベンは速攻で
首を振った。
「ダメ。俺、忙しいの」
しれっと突き放して
ベンは、ふんふんと鼻歌を歌った。
レイラは、わざとだと直観した。
自力でやれって、ことか。
「わかった」
本当のことを教えてくれる声はとても小さい
そして理屈を超えている。
でも、その声を信じられるときの、澄みきったこころが
すごく好きだ。
その瞬間、世界中の人がお前はヘンだと言っても
わたしはきっと、自分のこころを信じられる。
ベンは時々、その混じりけのない信頼を、私に分けてくれる。
「音楽仲間、ひとり見つかったんだ」
ベンは、そう言い足して、背伸びをした。
「インストバンド!?
よかったじゃん」
レイラが思わず叫ぶと、
ベンは立ち上がって、
イエイとレイラにハイタッチを求めた
レイラは背伸びして、
ちからいっぱい、ベンの手のひらを打った。
ベンの頭の上にも、冠をかぶせてあげるつもりで。
「俺にとって、ばあちゃんは原点。
そして、ここはスタート地点。
レイラだって、ほんとはそうだろ」
ベンはレイラにそう言った。
【続く】
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