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Voices from Fullmoon of April![]()
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はるかな
銀河の風が
あなたを吹き抜け
幾世紀もの幻想を
こなごなに
打ち砕く
新しい大地
なつかしい緑
やわらかな心が
いのちを開き
呼吸を始める
よろこびの今を
魂のいまを
踊り始める
おばあちゃんの家のキッチンは
土間にあった。
窓から満月が見える
小さな台所に今も香る
幾種ものハーブとお茶の香り
満月の日は
ここに来てお湯をわかし
こころを開いて
なくなったおばあちゃんの
光のスープを
静かに、飲んでみるのです。
レイラ
これまでのお話はこちら
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4月のこころ
アップルグリーン シンデレラとグリーンマン
「ビビディバビディブー♪」
自分が透明な風になったみたいで
レイラの指は加速していた。
カッターで削ったパステルを指につけて
コットン紙に心をぶつけるように
描いてゆく
時々、軽やかな気持ちが
ふと止まって
ベンの言葉がリフレインする。
「レイラを変えたのは何?」
聞かれたとき、レイラは戸惑った。
ベンは私を変わったと思ったのか?
それとも自分が変わった時のような体験を
私もしたことがあるのかを、ただ尋ねたかったのか。。
レイラが固まって、無言になっしまったので
ベンは、気にしないで、という顔でミントティのお礼を言うと
トランペットを鞄にしまって、立ち上がろうとした。
「変わるって、簡単?」
レイラがようやく、そうつぶやくと
ベンは、ひとりごとみたいに言った。
「Sometimes
you have to believe before you can see.」
「えっ?」
「ときには、見る前に信じなくてはいけない」
「シンガポールのことわざ?」
「ディズニー映画だよ。シンデレラのフェアリーゴッドマザー。
観た?」
「シンデレラ~!?」
レイラは急におかしくなった。
男の子から、しかもベンの口から「シンデレラ」って言葉が出るなんて!
「見た。母さんと」
レイラがくすっと笑ったので
ベンも、わざとお姫様っぽく笑って見せた。
「あれ、まさに同感」
窓の外で、鳥が笑うようにさえずった。
ベンは帰り際に「また来てもいい?」といった。
レイラは小さく頷いた。
ベンは母がここで整理をしていた時にも
何度か来たことがあったけれど
庭に出て忙しそうにしている母を見て
声をかけられなかった、という。
今日はレイラがいたので嬉しかったと言った。
外国暮らしのせいなのか、ベンの無防備な話し方は
かえってレイラの心を軽くした。
「嬉しかったのか」
予想もしていなかった。
レイラはパステルのついた指を器用にさけて
残りの指で、窓をいっぱいに開けた。
春の風は思いのほか強い。
風はずっと奥まで入ってきて、せっかく削ったパステルを
一気に吹き飛ばした。
「やってもた~」
レイラはもう一度パステルを削ろうと
若草のような緑色を手に取った。
ベンは、間違いなくこの色だ。
ときどき
人の身体は光を放射しているようにレイラには見える。
オーラという言葉があるけれど
レイラが見ているのがそれなのかどうかはわからない。
名前がつくと、何か特別なものみたいで嫌だ。
光は当たり前にあるものだし、
語られない言葉みたいなものだから。
人だけじゃなくて、花や樹や草も
呼吸みたいに自然に、光を放射している。
注意を向けるかどうかの問題で
誰にでも見えるはずだとレイラは思う。
フェアリーゴッドマザーは正しい。
「ときには見る前に信じなくちゃいけない」
誰かが
心から真剣に何かに取り組んでいるときは
特別に光って見えることがある。
身体の周囲に、まるで光の川が流れるみたいに
とても美しくて力強い光が放たれて
レイラは時々うっとりする。
ベンがマイルス・ディビスの話をしていたとき、、
あのときは、緑色が黄色に近づいて、
それから、ふわっとした
黄金色になって、すごく大きな光になった。
たぶん本当に、マイルス・ディビスは
ベンにとって自分を変えた、「神」なんだ。
指に緑色のパステルの粉をつけて
レイラはベンの光を描くように、指で色をのばしていった。
「レイラを変えたのは何?」
描きながら、しつこくベンの言葉が蘇った。
レイラは色が好きだ。
色は光で、いのちだと思うから。
ベンは一時間もいなかったし
あまり言葉も交わしていないのに
うんと長く話したように感じるのが不思議だった。
嫉妬が芽生えたことも認める。
おばあちゃんの手紙のこと、、、それから
自分もベンみたいな根拠のない自信がほしい。
自分は変わった、と言ってみたい。
「ビビディバビディブー」
開け放した窓から、クチナシの香り流れこむ。
くすぐったい香りと、歌うような呪文が
レイラの気持ちの固まりをやさしく流してゆく気がした。
「シンデレラ」の絵本は
たぶんうちにある本の中で一番古い。
文字が読めるようになった頃、父さんがくれた。
思うに、はじめての本は、
夢を叶えるお姫様の話を読ませたかったのだろう。
広くて長い階段を上る、お姫様。
新しい本のにおいと
夢みたいな絵に、単純にわくわくした記憶がある。
最近になって
母さんとディズニー映画を見てからは
「ラベンダーブルー」をしばらく歌っていた。
「勇気とやさしさ」を娘に教える
本当のお母さんの、シンデレラへの愛情が、
それはもう
泣きそうに清らかで、美しい。
母さんは映画館で
キャラメル味のポップコーンを頬張りながら
自分の若い頃は、シンデレラのイメージは最悪だったと言った。
王子様との結婚が幸せという図式がダサかったからだという。
「じゃーん、
継母から自立するためにどうするか?
シンデレラは起業して、お城を買い、高級な王子を雇って、
幸せになりましたとさ」
母さんは、お手上げの仕草をしてケラケラと笑った。
母さんの高笑いを聞きがら、レイラは
シンデレラが、最後に家を出るときの言葉を反芻した。
継母に言った決めぜりふ。
「あなたを、ゆるします」
母さんは本当は繊細で傷つきやすい。
それで、よく皮肉なことを言う。
レイラは不思議に
母を自分の子どもみたいに感じるときがある。
たぶん母さんが私のことを理解するよりも
ずっと私の方が母さんを理解している。
そう思う。
いろんな感情を心から解放するように
自由に指を動かしてゆくと
黄緑色の濃淡でできた円形のつながりが
無意識に人の輪郭のような形になっていた。
レイラは、こんな風に
即興的に絵を描くことはあまりない。
でも今は心を画用紙にうつして見たかった。
ドキドキする。
「あ、これって」
レイラは画用紙を両手でつかんで
無意識に出来た形をまじまじとみた。
「グリーンマンじゃん!」
いつかおばあちゃんが教えてくれた、
森の精霊「グリーンマン」
神話の本を調べると、葉っぱの中で微笑む
人なつっこいおじさんの顔が出てきた。
森や人間を見守ってる、崇高な精霊。
パステルは、まさにそのグリーマンの雰囲気だ。
「おばあちゃん、見てる?」
レイラは、立ち上がった。
またおばあちゃんと話したくて
パステルのグリーンマンを抱えて庭に出た。
庭なら、おばあちゃんと会話できる気がしたのだ。
庭はいろいろな色に彩られ始めた。
深紅やピンクのチューリップ、真っ白なフェアリーホワイト
それからレイラの好きな薄紫のデルフィニウム。
コットンのワンピースを風に翻らせて
おばあちゃんが、手入れしていた姿が
今もリアルに重なる。
「ねえ、今どこにいるの?
ベンとは、どんなこと話してたの?おばあちゃん」
レイラは胸元のペンダントヘッドをそっと握って
おばあちゃんの答えを待った。
「やっぱり、しーーーん、か。」
ターコイズのペンダントを見つけた日、
ベンがここに来て以来、
おばあちゃんと会話できない。
時々、気配のように感じることがあるけれど
問いかけても、
以前のようにはっきりした言葉が返ってこない。
もしかすると、もういなくなっちゃったのかな。
レイラは少し不安だった。
親に言えば、また妄想癖だって
頭を抱える話だ。
もしかすると本当にそうだったのだろうか。
親が思うように初めから、声は妄想で、
さみしさから聞こえもしない声を聴いていたのだろうか。
一瞬、自分を信じられなくなった。
いや、
そんなはずはない。
あれはいつも愛情を注いでくれた、
おばあちゃんの声だもの。
自分で自分を「変な子」にしないように
レイラは自分を疑わないことに決めた。
「知っている」という感覚を
懸命に思い出しながら。
「あ」
とてもか細い声で
「レイラ」
という言葉が聞こえた。
でも、おばちゃんの声ではない。
か細いけれど
その声は、遠くの星の光みたいに
はっきりしていた。
誰?
グリーンマン?
フェアリーゴッドマザー?
もしかして私?
なぜか、花の中に
別の新鮮な香りが漂った。
焼きたてのパンのような暖かい香り。
それがレイラをほっとさせた。
「わからなかったり、混乱したときは、
すぐに答えを出そうとしない方が
いいことがある。
大切なものみたいに、ただ
そのままハートに置いておくの。
わからないまんまね。
そしてただ無心で動いているといい。
自然にときほぐされるから」
いつかおばあちゃんから聞いた言葉を
レイラは思い出した。
土間の掃き掃除をして
戸締まりをし
祭壇のキャンドルの消火を確認して
レイラは帰り支度を整えた。
シンデレラのガラスの靴みたいに
問いをそのまま、ハートに置いて。
完成したパステル画を鞄に入れようとしたとき、
レイラは中に一枚のチラシが入っているのに気づいた。
有名な新しい絵画コンクールのフライヤーだった。
入賞すれはアーチストが憧れる一流ギャラリーで
展示会ができるという案内。
「いつ、こんなものを入れたんだろう」
自分の絵は一般受けしないとレイラは思うし
派手なことは苦手だ。
捨てようとしたが、
自然をモチーフにした美しいデザインにひかれて
その紙をグリーンマンの絵と一緒に鞄に入れた。
「おばあちゃん、また来るよ」
靴をはきながら、レイラは呼吸が軽くなったのを感じた。
【続く】
*シンデレラ、フェアリーゴッドマザー、グリーンマンの写真は
お借りしたものです。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます♪
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