ブレイディみかこの文章には昨年読んだこの本で初めて接しました。
「コロナ後の世界を語る 現代の知性たちの視線」感想
以下、この感想文に転記した文章
②イギリス在住のノンフィクションライター
ブレイディみかこ「真の危機はウイルスではなく「無知」と「恐れ」」
差別の構造を語るとき、「無知」を「恐れ」で焚きつければ「ヘイト」が抽出されるという比喩が使われるが、ウイルス感染拡大のニュースが絶え間なく流れている今、まさに「無知」を焚きつける「恐れ」はそこら中にあふれている。<中略>
世界を真の危機に陥れるのは新型ウイルスではなく、それに対する「恐れ」の方だろう。<中略>
部数を伸ばしたいメディアや勢力を拡大したい政治勢力が大文字の「恐れ」を煽る一方で、人々は日常の中でむき出しの差別や偏見にぶつかり、自分の中にもそれがあることに気づき、これまで見えなかったものが見えるようになる。
知らないことに直面した時、人は間違う。だが、間違いに気づく時には、「無知」が少し減っている。新型コロナウイルスは閉ざされた社会の正当性を証明するものではない。開かれた社会で他者と共存するために我々を成長させる機会なのだ。<中略>
ロックダウンで休校になってから、息子の中学の先生たちから毎週のように電話がかかる。<中略>何か問題はないかと確認しているのだ。
「先生たちこそ、オンライン授業は大変でしょう」
と言うと、ある数学の教員はこんなことを言った。
「興味深いこともあるんです。ふだんは質問なんかしてこなかった子たちがメールを送ってくる。成績も振るわず、授業に関心もなさそうだった子に限って『ここがわからない』と言って・・・・・・」
「それは面白いですね」と答えると彼女は言った。
「ひょっとして、私はそういう子が質問できない雰囲気の授業をしていたのではと反省しました。今の状況はこれまで気づかなかったことを学ぶ機会になっています」
これを読んでとてもすごい人だなと思い、すぐに調べるとこの「ぼくイエ」で様々な賞を取ったことを知り、じゃあ読んでみようと思って・・・忘れてから1年(笑)
先週ジュンク堂でこの新刊の文庫本版が盛大に並んでいるのを見て思い出して買いました。

この本はとにかく、『エンパシー達人』とも言えるような「イエローでホワイトで、ちょっとブルー」な中学生の息子君に魅了されまくる本。読めば必ずこの子のファンになります。そして、そんな息子の言動に『母ちゃん=著者』が刺激を受け、気づかされたこと等の日記的な作品です。ブレイディさんのスタンス・文体も非常に魅力的。それに同年代だし、パンクだし、セックスピストルズだし・・・
この本の感想としては、とにかく、息子と母ちゃんの日々の様々な出来事を通して、『エンパシー』について考えることができる作品だと思いました。そして読後、自分事として深く考えさせられる作品でした。
そのエンパシーについてのとても素晴らしい解説部分を転記しておきます。
「めっちゃ簡単。期末試験の最初の問題が『エンパシーとは何か』だった。で、次が『子どもの権利を三つ挙げよ』っていうやつ。全部そんな感じで楽勝だったから、余裕で満点とれたもん」
得意そうに言っている息子の脇で、配偶者が言った。
「ええっ。いきなり『エンパシーとは何か』とか言われても俺はわからねえぞ。それ、めっちゃディープっていうか、難しくね?で、お前、何て答えを書いたんだ?」
「自分で誰かの靴を履いてみること、って書いた」
自分で誰かの靴を履いてみること、というのは英語の定型表現であり、他人の立場に立ってみるという意味だ。<中略>
「そういう授業、好き?」
とわたしが聞くと息子が答えた。
「うん。すごく面白い」
実はわたしが日々の執筆作業で考えているような問題を中学1年生が学んでいるんだなと思うと複雑な心境にもなるが、シティズンシップ・エデュケーションの試験で最初に出た問題がエンパシーの意味というのには、ほお、と思った。
「エンパシーって、すごくタイムリーで、いい質問だね。いま、英国に住んでいる人たちにとって、いや世界中の人たちにとって、それは切実に大切な問題になってきていると思うから」<中略>
エンパシーと混同されがちな言葉にシンパシーがある。<中略>シンパシーのほうは「感情や行為や理解」なのだが、エンパシーのほうは「能力」なのである。前者はふつうに同情したり、共感したりすることのようだが、後者はどうもそうではなさそうである。<中略>
つまり、シンパシーのほうはかわいそうな立場の人や問題を抱えた人、自分と似たような意見を持っている人々に対して人間が抱く感情のことだから、自分で努力をしなくとも自然に出て来る。だが、エンパシーは違う。自分と違う理念や信念を持つ人や、別にかわいそうだとは思えない立場の人々が何を考えているのだろうと想像する力のことだ。シンパシーは感情的状態、エンパシーは知的作業とも言えるかもしれない。
EU離脱派と残留派、移民と英国人、様々なレイヤーの移民どうし、階級の上下、貧富の差、高齢者と若年層などのありとあらゆる分断と対立が深刻化している英国で、11歳の子どもたちがエンパシーについて学んでいるというのは特筆に値する。
ベストセラーになったのもうなずける内容の本、イギリスに限らず、世界中で様々なレイヤーの分断と対立が深刻化している今だからこそ読むべき本ですね。
そして、ブレイディさんの「他者の靴を履く」という、エンパシーのキーワードがそのままタイトルになったこの本も発刊されているので、こちらも早速読んでみます。
著者・ブレイディみかこさんからの言葉
みなさんお忙しい中、わざわざ私のような不届き者の酒飲みババアの駄文について時間を割いて書いてくださっていて、いやちょっと泣きそうになっています(←けっして酔っているからではない)。
ふつう、本を書いたときには「よっしゃー!」とか「うーん……」とか正直いろいろ感慨はあるんですけど、この本に関してはあまりに自分に近いところにある物事を書いているので、よくわからないというか、いったいこんなものを人様が読んでおもしろいんだろうか。という気持ちしかなかったので、励みになります。
書店員のみなさま、本当にありがとうございます。サンクス・ア・ミリオンどころか、サンクス・ア・ビリオンです。
THE BRADY BLOG:書店員さんたちに深く感謝する夜 より
「ぼくイエ」文庫版新潮社HPより
Amazonの紹介文
Yahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、60万人が泣いて笑って感動した大ヒットノンフィクションが待望の文庫化!
人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に通い始めたぼく。人種差別丸出しの移民の子、アフリカからきたばかりの少女やジェンダーに悩むサッカー小僧……。まるで世界の縮図のようなこの学校では、いろいろあって当たり前、でも、みんなぼくの大切な友だちなんだ――。優等生のぼくとパンクな母ちゃんは、ともに考え、ともに悩み、毎日を乗り越えていく。最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー。
小川洋子さん まさに今の状況を言い当てている。困難の中でも知恵を絞れば生きていけるのだ。(TOKYO FM「パナソニックメロディアスライブラリー」より)
イモトアヤコさん 登場人物のみんなに会って話したくなりました。
仲野太賀さん 心ない言葉に溢れた現代に、この本に出会えて本当によかった。
西加奈子さん 隣に座って、肩を叩いて、「一緒に考えない」?そう言ってくれました。絶対に忘れたくない、大切な友達みたいな本です。
中川李枝子さん 子どもの感覚に、母ちゃんとともに脱帽。先生方にも、ぜひ読んでほしい。
三浦しをんさん これは「異国に暮らすひとたちの話」ではなく、「私たち一人一人の話」だ。
高橋源一郎さん 思わず考えこむ。あるいは、胸をうたれる。そして、最後に、自分たちの子どもや社会について考えざるをえなくなる。
目次
はじめに
1 元底辺中学校への道
2 「glee/グリー」みたいな新学期
3 バッドでラップなクリスマス
4 スクール・ポリティクス
5 誰かの靴を履いてみること
6 プールサイドのあちら側とこちら側
7 ユニフォーム・ブギ
8 クールなのかジャパン
9 地雷だらけの多様性ワールド
10 母ちゃんの国にて
11 未来は君らの手の中
12 フォスター・チルドレンズ・ストーリー
13 いじめと皆勤賞のはざま
14 アイデンティティ熱のゆくえ
15 存在の耐えられない格差
16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン
解説 日野剛広(ときわ書房志津ステーションビル店)
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