東京都の国宝・重要文化財建造物 (5)多摩編 | 国宝・重要文化財指定の建造物

国宝・重要文化財指定の建造物

全国の国宝・重要文化財に指定された建造物についてのブログです。

このブログについて:

東京都多摩地区で国宝や国の重要文化財に指定された建造物のうち、私がこれまで訪問したものを紹介しています。
個人の備忘録みたいなものですが、実際に訪ねてみたら目当ての文化財が塀や樹木の陰で見えないといったことも時々あるので、ここでは、このあたりも詳しく書いて、閲覧してくれた方の参考になるように考えました。また、文化財の位置は国指定文化財等データベースで確認できますが、間違った情報も結構多いので、ここでは現地で実際に確認した座標を記載しています。
記載内容は訪問日時点のものです。情報が古くなってしまっている可能性もあり、修復工事が始まって見学できないこともあるので、注意してください。

この地域の文化財について:

多摩地域は4世紀ころから大和文化の影響があらわれ、7世紀半ばから8世紀には府中に国府がおかれました。鎌倉時代には鎌倉街道が開かれ、多摩地域にも宿駅が設けられました。多摩丘陵の開拓が進むのは、江戸時代以降で、承応3年(1654)には玉川上水が開さくされ、享保年間以降一面の原野であった武蔵野の新田開発がすすみました。
この地域の文化財はそれほど多いわけではありませんが、国宝正福寺地蔵堂をはじめ、6棟の室町時代の寺院建築と3棟の江戸時代の民家が国宝・重要文化財に指定されています。
(参考:東村山市公式サイト)

青梅市
観音寺本堂
観音寺阿弥陀堂
観音寺仁王門
旧宮崎家住宅
町田市
旧永井家住宅
日野市
金剛寺不動堂
金剛寺仁王門
東村山市
正福寺地蔵堂
西多摩郡檜原村
小林家住宅

 

 

室町時代の建築が残る古刹

観音寺


かんのんじ
青梅市塩船
観音寺本堂35.804241, 139.281305
室町後期
桁行五間、梁間五間、一重、寄棟造、茅葺
観音寺阿弥陀堂35.803659, 139.281773
室町後期
桁行四間、梁間三間、一重、寄棟造、茅葺形銅板葺
観音寺仁王門35.803281, 139.282054
室町後期
三間一戸八脚門、切妻造、茅葺

観音寺は、真言宗の寺院で、平安時代の貞観年間(859-77)に比叡山の僧が塩船に観音堂を再興し、さらに室町時代には三田氏が諸堂・諸仏を修理し、再興したものです。
本堂: 
・室町時代末期の建立とされる茅葺、寄棟造の簡素な仏堂で、密教堂形式をとる

・本堂は柱上に組物を置かない簡素な造り

阿弥陀堂正面(上段写真)と左側面及び背面(下段写真):
・昭和時代に茅葺から茅葺型銅板葺に変更されている

・阿弥陀堂は組物を用いず、軒も屋根裏を露わにしており、未完成の建物であると考えられている

仁王門(上から前面、背面、左側面):
・装飾的要素が少ない素朴な茅葺八脚門で、建立年代は観音堂、阿弥陀堂とともに室町時代と考えられている
・平面の規模に比べて高さがあるが、重量感のある茅葺屋根によって相殺され、全体としての安定感を保っている

アクセス
JR青梅線河辺駅からバスで塩船観音入口下車、北に700mです。
見学ガイド
観音寺は常時自由に見学することができます。本堂内部は有料で公開されています。

感想メモ
重文指定の三棟とも室町時代の素朴で簡素な建築でした
(2021年5月訪問)

参考
東京都文化財情報DB(東京都教育庁)

 

 

青梅の山間部から移築された茅葺民家

旧宮崎家住宅


みやざきけじゅうたく
青梅市駒木町
旧宮崎家住宅35.784189, 139.256361
江戸末期
桁行12.4m、梁間7.0m、入母屋造、東面庇付、茅葺、北面下屋附属、杉皮葺

宮崎家住宅は、市内山間部にあったものを、釜の淵公園内に移築復原したものです。平均的な一般農民の住宅です。
正面(上)と右側面(下)(正面右端が入口)

入口脇の風呂場(マンホール状の部分が風呂桶): 
・畑仕事から帰ってきた人が利用したことがうかがわれる

土間の屋根裏

ヒロマ: 
・接客、団らん、食事、炊事などの生活の中心的機能が一体となった大部屋で、床の間の原型である押板(写真中央左)が設けられている

アクセス
JR青梅線青梅駅下車、南に1kmです。駅前通りを直進し、道なりに段丘を下っていきます。青梅街道に出たら信号を渡って左折、最初の角を右折して進むと階段になり、さらに下っていくと釜の淵公園に渡る斜張橋に出ます。宮崎家住宅は、橋を渡って左前方すぐです。
見学ガイド
宮崎家住宅は無料で公開されています。内部も見学することができます。公開時間は10:00~17:00(ただし、11月4日~3月31日は16:00まで)で、月曜休館です。東面しているので早い時間帯の訪問がおすすめです。

感想メモ
入口の風呂場が面白かったです。合理的と言えば合理的なのですが。
(2021年6月訪問)

参考
東京都文化財情報DB(東京都教育庁)

 

 

多摩丘陵の典型的な農家

旧永井家住宅


きゅうながいけじゅうたく
町田市野津田町
旧永井家住宅35.578649, 139.447244
江戸中期
桁行15.0m、梁間8.8m、寄棟造、茅葺

旧永井家住宅は、典型的な多摩丘陵地の農村家屋で、昭和50年に現在地に移築され、17世紀後半の建設当時の姿に復元されました。
・典型的な三間取広間型の民家で、茅葺屋根の軒が深く、窓の少ない閉鎖的な造り
・左手の入口を入ると竈を備えた広い土間になっている

土間に面した竹簀の子敷のひろま

アクセス
JR横浜線・小田急線町田駅から、鶴川駅・野津田車庫行きバスで薬師池下車。または、小田急線鶴川駅から、町田駅行きバスで薬師ケ丘で下車か、やくしセンター行きで終点下車です。ともに、バスの進行方向に数分歩くと公園入口に出ます。町田駅の駅のバス乗り場は分かりにくいですが、googleの経路検索で正しい場所が表示されます。小田急東口から目の前の通りを左に進み、線路を越えた少し先に薬師池方面のバス停があります。
見学ガイド
永井家住宅は薬師池公園内にあります。公園の開園時間は午前6時から午後6時まで(6月から8月までは午前6時から午後7時まで)で年中無休です。開園時間中は永井家住宅を自由に見学することができます。土間のみですが建物内部に立ち入ることもできます。

感想メモ
永井家の南側は梅林になっていて、開花時には良い景観になると思いますが、普段は梅の木に遮られて建物正面から全体像を捉えるのは難しくなっています。
(2005年1月訪問、2020年12月再訪)

参考
東京都文化財情報DB(東京都教育庁)

 

 

関東三大不動の一つ、高幡不動尊

金剛寺


こんごうじ
日野市高幡
金剛寺不動堂35.662070, 139.410581
室町前期
桁行五間、梁間五間、一重、入母屋造、向拝一間、茅葺形銅板葺
金剛寺仁王門35.662014, 139.411032
室町後期
三間一戸楼門、入母屋造、茅葺形銅板葺

金剛寺は、古来関東三大不動の一つに挙げられ、高幡不動尊として親しまれています。平安時代に慈覚大師円仁が、清和天皇の勅願によって当地を東関鎮護の霊場と定めて山中に不動堂を建立したのに始まるとされています。
不動堂: 
・桁行・梁間とも5間の大規模なもので、山中の堂が倒壊したことから、康永元年(1342)に現在地に再建された
・壁に囲まれた閉鎖的な空間は、中世密教系本堂の特徴を伝える
・屋根の強い反りと深い軒も特徴

不動堂の軒廻り: 
・二軒の平行繁垂木で、柱上は平三斗、中備は間斗束

仁王門: 
・室町後期に建立された3間1戸の楼門で、江戸時代には一層の八脚門のような外観であったものを、昭和の解体修理工事に際し当初の姿に復原された

アクセス
京王線・多摩都市モノレール線高幡不動駅下車すぐです。
見学ガイド
不動堂と仁王門は常時自由に見学することができます。

感想メモ
京王線の駅名にもなっている有名なお寺で、いつの参拝客で賑わっています。ちょっと世俗的な雰囲気ですが、それも味わいであるように思います。
(2021年5月訪問)

参考
東京都文化財情報DB(東京都教育庁)、高幡不動公式サイト

 

 

禅宗様建築の代表的遺構

正福寺地蔵堂


しょうふくじじぞうどう
東村山市野口町4丁目
正福寺地蔵堂35.764085, 139.459193
国宝・室町中期
桁行三間、梁間三間、一重もこし付、入母屋造、こけら葺、もこし銅板葺

正福寺は、寺伝によると弘安元年(1278)、臨済宗建長寺の末寺として北条時宗が開創したとされています。国宝の地蔵堂は、円覚寺舎利殿とともに禅宗様建築の代表的遺構です。
・強い反りの屋根や裳階、白木の丸柱、花頭窓など禅宗様建築の特色が表れている
・尾垂木尻持送りの墨書銘から、室町時代の応永14年(1407)の建立であると推定されている

左側面

三手先の詰組

・屋根の扇垂木と裳階の平行垂木、裳階は三斗の詰組

・写真中央の内開きの扉は円覚寺舎利殿よりも古い形式と考えられている

正面の弓欄間

特別公開のため正面の扉が開放された地蔵堂

地蔵堂内部(左側が正面入口): 
・須弥壇前の柱を省き広い空間を確保するため、前後に太い梁を渡し、その上に大きな束を立てて屋根を支える
・主屋は高く、中央方一間の鏡天井に迫り上るような構成で、詰組の二手先組物で鏡天井をうける

地蔵堂内部: 
・側回り組物から斜めに持送られた尾垂木尻や扇垂木はよく禅宗様の特色を示す

アクセス
西武新宿線東村山駅西0.9kmです。西口ロータリーから西にのびる道路を直進して、正福寺バス停の先を右折すると正面に見えてきます。
見学ガイド
地蔵堂の外観はいつでも自由に見学することができます。周囲は低い柵に囲われていますが、見学の支障にはなりません。
毎年、6月第二日曜日、8月8日、11月3日に内部が特別公開されます。内部の写真撮影も可能ですが、11月の公開では撮影できない時間帯があります。

感想メモ
いつでも国宝建築を間近に見ることができて、特別公開日には内部の写真撮影も可能。もちろん無料。これほどおおらかな社寺は他にないように思います。いつまでも続けていただきたいです。
(2021年2月訪問、11月再訪)

参考
東京都文化財情報DB(東京都教育庁)、正福寺公式サイト

 

 

檜原の山岳民家

小林家住宅


こばやしけじゅうたく
西多摩郡檜原村藤倉
小林家住宅35.748465, 139.077511
江戸中期
桁行14.8m、梁間9.3m、入母屋造、西面突出部附属、茅葺

小林家住宅は、檜原村の標高約750mの尾根上に建つ山岳民家です。建物は、その構造形式や部材の調査結果等から18世紀前半頃に建てられたものと考えられています。檜原村では古来炭焼きを生業としており、段丘上のわずかな平坦地に集落が点在していました。小林家が所在する場所は三方の尾根が交わる交通の要衝にあたります。
正面

背面と左側面

左側面の妻

正面軒廻り

・左の板の間がヒロマで、押板が見られる
右の畳敷きがオクデイで、その右前の板の間がドバデイ

保存修理工事前の小林家(2009年5月撮影)

アクセス
JR五日市線五日市駅から藤倉行きバスで終点下車、1.5kmで小林家行きの無料ミニモノレールの乗場です。この間、本数は限られますがデマンドバスも利用可能です。モノレールは予約制です。モノレールの乗場は駐車場のすぐ横の車道脇です。この少し手前に小林家住宅の標識があって沢に下る道を指していますが、これは徒歩ルートです。また、徒歩ルートに沿ってもミニモノレールがありますが、これは通常使用されていません。
見学ガイド
小林家は火曜を除き公開されています。内部を見学することもできます。

感想メモ
小林家住宅は山梨県境に近い檜原村の山中にありますが、公共交通のアクセスは意外と良くて、きっちり時刻表を調べれば都心から公共交通機関で徒歩移動なくアクセスすることができます。西東京バスさんに感謝です。
この日はきっちり調べずに来たので藤倉バス停から先は徒歩移動です。モノレール乗場(だと思ったところ)まではなだらかな上りで特に苦労も無く到着し、おしゃれなカフェが見えてくるとすぐに小林家住宅の案内標識があったので谷に降りていきました。これが間違いだったのですが。すぐにモノレールがありましたがシートが掛けられており、しばらく使ったことがない様子でした。ここから小林家までは750mということで、大したことはないなと思って徒歩ルートを上ることにしましたが、これがとんでもない急坂で何度も休みながら、やっとのことで尾根上の小林家にたどり着きました。一息ついたところで、グループの賑やかな声が。。。ここで、はじめて、さっき見たモノレール以外にもモノレールがあって、しっかり稼働していることに気づきました。ちょっと徒労でしたが、谷底からの距離感をしっかりと実感することができました。
10年ほど前に来たときにはトタン屋根で老朽化も進んでいたと記憶していますが、すっかりきれいに修復されていました。周辺も整備されていて見違えるようです。
それにしても、やはりすごい場所に立地しています。尾根で炭焼きをして暮らしていた頃の人には便利な場所だったのでしょうが。
(2022年9月訪問)

参考
小林家パンフレット