妊娠しない時期にあえて移植をする | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

子供が産まれて今後移植は考えていませんが破棄をすることは心苦しく踏み出せない状況です。

ただ更新するにもコストがかかり、二人授かり3人目は負担が大きすぎるので難しいです。

我が子を目の前にすると凍結してある卵も生まれると思われ本当に辛いです。以前妊娠しない場所に戻す様なことを聞いたことがありますが具体的にはどういう方法でしょうか。また費用は普通にかかるのでしょうか。

 

この様なご質問がありましたのでお答えします。

 

これは思いやりの移植と言われています。以下再度掲載します。

体外受精によりお子さんが生まれて、余剰の凍結胚を移植しないと決めて破棄するケースがあります。

これに対して「胚に申し訳無い」と考えている方が多い事も分かっています。

海外ではこの様な胚をドネーションに用いて良いと同意が得られればそれを行うケースもあります。

また破棄を申請した後クリニックは研究用に使う事もあります。勿論事前に同意を得ていることです。

 

しかし自分の子供である事に対して破棄や研究に使う事は良くないのではと考えて、敢えて妊娠しない生理直後などの時期に移植する事を行う考え方が少しですが広がりつつあります。

これはCompassionate transfer(CT): 哀れみ深い、情け深い、同情的な、思いやりを持った移植と呼ばれています。

通常は胚移植は排卵後3〜5日目に移植して妊娠するのですが、生理直後は着床が出来ないためこの時期に移植することで妊娠が不可能ではあるものの自分の体に移植することで無益ではあるものの胚に対しては思いやりを持てるという考え方です。

ここで大切なことは説明と同意書を取ることだとこの論文では指摘しています。

 

希望する子供の数が生まれて余剰胚のある場合、敢えて妊娠しない時期に移植する事で、他所に捨てたことにはならず、多少胚に対しての言い訳、満足感を生む事が出来ることになる、この様な移植がアメリカで約5パーセントは行われているとの報告です。

驚きの事実であり日本ではまず行われていません。当然異論があることだと思いますが、宗教的な問題も絡みこの様な興味深い対応がある事を述べています。

 

特にSNSなどを通して広まりつつあり、余剰胚の破棄に変わる方法として取り上げられています。

 

生まれる可能性がある胚を母体に移植する事は破棄するよりも倫理的には良いのではとの意見もあり、例え医学的には無意味でもしっかりと説明してそれを患者さんが強く望むのであれば行っても良いのかと思います。当院でも希望がある方に対しては説明と同意の上対応していく事は可能としています。

詳細は外来で医師にお聞きください。なお費用に関しては通常の移植の費用より減額をしております。

 

Fertility and Sterility® Vol. 113, No. 1, January 2020

Compassionate transfer: patient requests for embryo transfer for nonreproductive purposes