顕微授精(ICSI)による先天奇形のリスクは上昇する 来月号の論文から | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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現在広く顕微授精(ICSI)が行われています。下のグラフのようにIVFの割合は激減してICSIが増えています。来月号のFSに掲載される論文ですがICSIは先天奇形の割合が少し増えるとしています。これを読むと不安を抱える方がいるかと思いますが一つの研究結果として冷静に見ていただけたらと思います。

北欧から出されたデータです。なおここで参加した北欧とはデンマーク、スェーデン、ノルウェーです。不妊治療においてかなり技術が高い国で歴史も長くあります。

 

以下先天奇形が生じる割合です。

新鮮胚(ICSI)だと6.0 %

新鮮胚(IVF)だと 5.3%

自然妊娠だと 4.2 %

凍結胚(ICSI) だと4.9%

顕微授精とIVFを比較すると補正オッズ比は1.07; [95% 信頼区間(CI) 1.01-1.14] 有意差あり

顕微授精と自然妊娠を比較すると補正オッズ比1.28; [95% CI, 1.23-1.35] 有意差あり

新鮮胚(ICSI)と凍結胚(ICSI)を比べると補正オッズ比1.11; [95%CI, 0.99-1.26] 

顕微授精とIVFを比べると顕微の方が呼吸器系と染色体の異常が高かったが症例数が少なかった。

男性不妊でICSIをした場合尿道下裂のリスクが高いことがわかりました補正オッズ比1.85 [95%CI 1.03-3.32]

結論

新鮮胚(IVF)と比較して、新鮮胚(ICSI)では、生まれた子どもにおける重大な奇形のリスクがわずかに高いことが判明しました。

 

この論文から言えること

男性因子がない場合、安易に顕微授精を選ぶことは避けるべきだと言えます。顕微授精はあくまで男性因子があり他に選択肢がない場合にのみ行うべきです。

 

今から25年前私が最初に受精着床学会に参加した時に、顕微授精を適応がない(男性因子なし)にもした医師がフロアから非難を浴びせられていた光景(袋叩き状態)を今でも忘れません。

「もっと慎重に顕微授精を行うべきでしょう」

「しっかりとリスクは説明したのですか?」

「倫理委員会は通しましたか?」

「あまりにも不適切ではないでしょうか」

この様な事を声を大にして言われてその先生は黙っているだけでした。

その当時は顕微授精をすることはできるだけ避けるべきというルールが徹底していました。

今ではかなりルーズで希望で顕微授精を行うとか、クリニックによっては全症例顕微授精を行うなどもあります。全症例顕微授精は有り得ない事だと思います。

生殖医療において不必要な技術は可能な限り使用しない、これが子供の将来を考えた時に医療として正しい事だと思います。

Published:July 11, 2023

Risk of congenital malformations in live-born singletons conceived with ICSI: a Nordic study from the CoNARTaS group