【クルーグマン マクロ経済学 読書感想文①】

 

 

―結局、日本の官僚、閣僚、その御用聞き経済学者、及び日本経済新聞は『ミクロ経済学とマクロ経済学』の違いが分かっていないのだ。

 

と、いうのっけから挑発的な書き出しにしたのは、この本を読んで一番最初に思ったことがそれだったからです。

そういえば『高橋洋一チャンネル』で、前内閣官房参与 高橋洋一氏もそう言ってましたっけ。

 

『クルーグマン マクロ経済学』(東洋経済新報社)219ページ、「チャプター6 マクロ経済学:経済の全体像」では以下のようにミクロ経済学とマクロ経済学の違いに言及しています。

 

―「(世界恐慌時のアメリカ大統領ハーバード・フーバーは)大統領になるまではとても有能な経営者と評判だった。だが大恐慌が起こった時には、彼自身も彼の経営顧問もどう対処したらよいのか、全く見当がつかなかったのだ。

 

フーバーにその解決能力がなかったのは偶然ではない。大恐慌当時、個人の消費・生産にかかわる意思決定や産業間の希少資源の配分を扱う「ミクロ経済学」は、経済学のなかでも既に確立された一分野だった。けれでも、経済全体の動向に注目する「マクロ経済学」は、当時産まれたばかりだったのだ。」

 

「マクロ経済学が経済学の一分野として自立したのは大恐慌の時期だった、アメリカやその他の多くの国を襲った大不況から人々を救うため、そして今後それをどのように回避するかを学ぶため、不況の本質を理解する必要があると経済学者は気付いたのだ。今日まで、経済停滞を理解しその回避方法を見出すことがマクロ経済学の核心部分となっている。」

 

「ミクロ経済学は、個人や企業がどのように意思決定するのかという問題に焦点を当てている。(略)それとは対照的に、マクロ経済学では、ある特定の財・サービスの価格ではなく、経済全体の価格水準(物価水準)が前年に比べてどの程度上昇もしくは下降したかに関心を持つ」

 

「マクロ経済学の問題は、ミクロ経済学的な答えを集計すれば解決できるのではないかと思うかもしれないね。(略)けれども、そうはならない。(略)マクロ経済学の問題に答えを出すには、いくつかの違ったツールと、分析枠組みの拡張が必要となる。」

 

「例えば、マクロ経済学者が『倹約のパラドックス』と呼ぶ現象を考えてみよう。不況になる心配が生じると、家計や企業は支出を抑えてそれに備えようとする。消費は切り詰められ、従業員は一時解雇される。こうした支出の低下は経済を停滞させることになる。(略)不況に備えて用心深く貯蓄を増やそうという一見美徳と思われる行動が、あらゆる人々に経済的な悪影響を及ぼすという帰結を生む」

 

「1930年代より前、経済学者は経済が『自動制御』するものとみなしていた。つまり彼らが信じていたのは、失業の問題は『見えざる手』のはたらきを通じて修正され、経済の動向を改善させようとする政府の試みは良くても効き目がないか、おそらくは問題を悪化させるだろう、ということだった。」

 

(まさに昨年11月18日と今年の元旦の日経新聞の記事がこれでした。

221.「真面目に日本経済新聞の経済記事を読んで気分が悪くなってきた。」 | 伊藤和成『庶民が天下国家語って何が悪い』ブログ (ameblo.jp)

223.「2022年こそは皆が豊かで幸せに生活できるよう、切実に願っています。」 | 伊藤和成『庶民が天下国家語って何が悪い』ブログ (ameblo.jp)

日経新聞は

 

「市場の『見えざる手』を軽視し、政府の『見える手』を過信するのは危うい。コロナ禍の克服や経済安全保障を口実に、非効率で統制的な経済政策が前面に出てくるのでは『新しい資本主義』の看板が泣く。」

 

「本来なら退出を迫られるはずの産業や企業が(政府の円安政策による)円安で温存された。競争から守られた企業はイノベーションを起こす動機が薄れた」

 

などと主張していました。)

 

 

 

「大恐慌当時、経済不況はあるがままに任せるべきだとの意見が強かった。(略)実際、1930年代はじめには、不況に直面するなかで金融当局が利子率を上げ、政府が歳出削減と増税を行ったという国もあったのだ。後の章でみるように、これらは不況を深刻化させる行動だ。」

 

 

触りの部分だけで、こんなにも居た堪れない気分になるのも逆に凄いと思います。

はい、現在まさに不況にも関わらず歳出削減と増税に走っているのが我が日本政府です。

 

そして日銀が行っている金融緩和政策にケチをつけ、「『見えざる手』に従い、不況時に倒産するような企業は生き残らせるのではなく退出させるべきなのだ」と主張し続けているのが日本経済新聞です。

 

何なんでしょうかね?

経済学的見地から言っても「不況を深刻化させる行動」とハッキリ分かっているのにそれに邁進する政府。そしてそうなるよう圧力をかける財務省。

「マクロ経済学の問題は、ミクロ経済学的な答えを集計すれば解決できるのではない」にも関わらず、得意げに不十分な理解に基づく論説を振りかざし国民からカネを取る経済新聞。

 

もはやこれは日本を衰退させるための陰謀なのでしょうか?(まあ歳出削減と増税の根拠となっている財政法はGHQの陰謀で作られたものですから、陰謀には違いありませんが。)

 

陰謀かどうかはともかく、日本の「失われた30年」は当然のことです。

だって経済学的見地から言っても逆の政策を行っているのですから。

 

ではクルーグマンが説くマクロ経済学、「経済停滞を理解しその回避方法を見出す」方策とは何なのか。

それをこの後、読み進めたいと思います。