1月17日の新聞各紙は日経・朝日・読売・産経が台湾総統選の結果を、
毎日・地元新潟日報は軽井沢で観光バス転落事故を起こしたバス会社が法令違反が常態化していたことを報道しました。
このブログでは台湾総統選について書いていきます。
今回のブログは、2015年11月8日のブログ
71.「割とマジで危険な話ー中台首脳初会談「一つの中国」確認、について」
http://ameblo.jp/kazunari-itoh/entry-12093465962.html
の続きとなる内容となっています。
そちらも合わせて読んで頂ければと思います。
16日に投開票された台湾総統選の結果、
民主進歩党の蔡英文氏が、与党国民党候補の朱立倫氏を大差圧勝し、初当選しました。
蔡氏が689万票を獲得したことに対し、与党であるはずの朱氏が381万票。
ダブルスコアとは行かぬまでも、300万票もの圧倒的な差がついたということは
台湾の有権者が中国大陸との融和政策を進める与党国民党に対しハッキリと「NO」を突きつけ、
「台湾と中国は別の国」 「自分は中国人ではなく台湾人である」
という意思を明確に示したことになります。
これについては地元新潟日報の3面の「若者の怒り 追い風に」という記事が興味深いです。
「台湾住民が自分を何人だと思うか」(国立政治大学選挙研究センター)
という調査では
、2001年では「台湾人」「台湾人かつ中国人」がほぼ同数ずつあったものが、
2008年を境に、差が開き始め、
2015年の段階では「台湾人」が60%、「台湾人かつ中国人」が30%超という結果となっています。
「自分は中国人である」という認識を持っている人は僅か3.3%に過ぎず、これは明らかに一部の外省人に過ぎないということが分かります。
この、2008年というのは
対中融和政策(「大陸とは仲良く一緒にやって行きましょう」)を始めた国民党の馬英九政権が発足した年です。
馬政権は中国人の台湾観光を解禁し、中国人旅行者を12倍に増やしたものの、
中国人旅行客のマナーが極めて悪く、逆に台湾の若い世代を中心に
「中国は台湾とは異なる国」
という印象を植え付けた、というのが何とも皮肉な話です。
「台湾統一」が建国以来の悲願であった中国(中華人民共和国)にとって
今回の台湾人の意思表示は当然愉快な事ではありません。
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は16日深夜、社説で
「民進党が勝ったが、台湾の民衆が台湾独立路線を支持したわけではない」
と指摘、蔡氏をけん制しています。
あわせて同社説は、民進党政権が独立色を強めた場合、中国側には「多くのカードがある」とし、一例として、
「台湾と外交関係のある一部の国々も中国と国交を結ぶことを希望しており、その気になればいつでも断交させ『台湾への懲罰として奪い取る』ことができる」と書いています。
つまり今から蔡氏を恫喝しているのです。
蔡氏は、今の所中台関係は「現状維持」としています。
つまり中台一体化は目指さず、かといって台湾独立を目指すわけでもない、という
いわば「どっちつかず」な態度なのですが、
経済では繋がりが強く、軍事力では全く敵わない台湾にとっては
それが現実的な姿勢なのではないかと、私は思います。
さて、この結果に物凄く助かったのが、他ならぬ我が日本です。
それは11月8日のブログでも書きましたが
台湾の政情は全く他人事ではありません。
日本の安全保障問題に直結しているのです。
中台一体化が進めば、
日本にとっての生命線「台湾~フィリピン間のバシー海峡」というシーレーン(原油の補給線)が中国に抑えられることになります。
また、中国は台湾を手に入れることで太平洋へ原潜を放つことが可能になります。
これらは日本にとって死活問題となります。
また、台湾で急進的な独立運動が起こり、中台間で紛争が起きた場合も日本は必ず巻き込まれます。
原油輸送船は紛争地域を避けて通る必要がありますし、
日本にとっては台湾が単独で中国に敵わない以上、先に挙げた事情で台湾を助けないわけにはいきません。
蔡氏が掲げる「中台は現状維持」は日本にとっても好ましい状態なのです。
そして蔡氏は記者会見で「TPPへの参加を目指す」とも言っています。
これはアメリカの対中経済同盟を意味するものですから、これに台湾が加わることは
日本にとっても好ましいことです。
このように、
今回の台湾総統選は日本の安全保障に極めて大きな影響を与えるものであり、
この結果以外では危険だった、とさえ言えるものでした。
しかし相変わらず日本の新聞記事ではそのような報道を見ることが出来ず
何とも他人事な書き方がされてました。
日経新聞などは
「中国との間にきしみが生じる可能性もある」
などまるで見当外れな心配事を書いており、
私はそういう日本のメディアこそ心配だな、と思ったのでした。