ニューヨーク物語 44 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ



今迄にも人種に纏わる嫌がらせが無かった訳ではない。


通りすがりに、見ず知らずの人間から


『黄色い猿野郎』


などと言われたり、たまたま入った飲食店で隣のテーブルに着く事を嫌がられたり、と言った類いの事である。


今はどうかは分からないし、当時も四六時中こうした嫌がらせに遭遇していた訳ではない。


大概の人達は、気さくであり、明るかった。


雑多な人種の坩堝マンハッタンでは、誰しもが自由に行動、活動していた様に見受けられた。


しかし、私が気付かないだけで、周囲の白人の知り合いからも実は、内心の何処か…根底に近い部分では『見下された』目で見られていたのかも知れない。


そう思うと、悲しくなった…。


大昔、白人上位を唱え、有色人種を迫害した連中の血と遺伝子は、消滅してはいないのか?と…。


どんな国にも、習慣、風習、しきたり…と言った、根底に流れる民族性はある物である。


私は、アメリカの古い歴史に詳しい訳ではないから、あまり掘り下げた深い話は出来ないが、当時の私が大なり小なりの心無い言動を体験した事は事実であり、この時、南部の仕事に連れて行って貰えなかった事も事実である。


しかし…


私には解せない事があった。


それは、ヒスパニック系のアンソニーは南部の仕事に加わっていた事である。


『ヒスパニックは大丈夫なんだろうか?』


私の疑問には、ジョディも答えられなかった。


私の知る所によれば、黒人やオリエンタルに続き、ヒスパニック系の人々も迫害に合ったと聞いている。






さて…


そんなある日、私はフロリダに向かう事になった。


夏場ではなかったが、天気にも恵まれ、強い陽射しにブルーの海、豪華なホテルに私の心も晴れた。


南部の一件以来、すっかり落ち込んでいた私は、遠方に赴く仕事を敬遠し始めていた。


『フロリダは素敵な所よ!行けるチャンスなんだから、是非行ってらっしゃい!』


ジョディに後押しされ、フロリダ行きを決めたのである。


あまり気乗りがしない私だったが、空港に到着するなり、暖かい空気と景色に癒され、一気に気持ちも晴れたのである。


しかも、自由時間が多く、私達シャザームメンバーは大いにフロリダを満喫したのである。


日中はホテルのプライベートビーチで遊び、夜はみんなでクラブに繰り出した。


仕事であるパーティーも盛大な物で、非常に楽しい現場だった。





私はほんの半日で、真っ黒に日焼けした。


余談だが、私は非常に陽に焼け易い。
日本でも、夏場はあっという間に陽に焼ける。


フロリダの陽射しは、私の容姿の印象をものの見事に変えてしまった。


パーティー終了後にみんなで出掛けたクラブで、私はある事を閃いた。


それは、ちょっとした出来事がきっかけだった。


クラブで踊っていた私に、一人の男性が話し掛けて来たのである。


彼は明らかにゲイであり、私に話し掛けて来た目的が一体何処にあったか?は読者の想像にお任せするとして…


彼は、こう言って来たのである。


『キミ、何処から来たの?此処初めてだろ?見た事ないし。スパニッシュ?メキシカン?』


『え?』


私は驚いて、ウッカリその男性を見据えてしまった。


勘違いした彼は、とびきりのウインクを私にくれたのだが、私の頭は別の事に支配されていた。


『そうか!アンソニーは南部に行けたんだ!』


いきなり訳の分からない事を叫んだ私に、今度は彼が驚いて私を見据えた。


私は呼び止める彼を後に残しその場を離れ、人混みの中に埋もれている筈のアーニーを探した。


このフロリダの仕事のマネージャーは、あのアーニーだったのである。


私は、カウンターで酒を飲んでいるアーニーを見つけると走り寄って彼の腕を掴んだ。


『な…どうした?』


驚くアーニーに構わず、私は大声で言った。


『アーニー!何人に見える?ねぇ!俺、何人に見える?』


『は?キミは日本人だろ?』


『そうじゃないよ!今、此処にいる日焼けした俺は何人に見えるかって聞いてるんだよ!』


アーニーは日頃おとなしい私が、物凄い剣幕で捲し立てる様子にすっかり面食らっていた。


呆気に取られたまま、アーニーがまじまじと私を見て言った。


『ちょっと、プエルトリカン…っぽい?かな…?』




私は奇声に近い雄叫びを上げると、アーニーの腕を掴んだまま踊り出した。




私は、南部に行きたかった訳ではない。


日本人であるが為に、行けない場所が存在する事が悲しくて、悔しくて仕方が無かったのである。