ある日、同僚のインストラクターが私に、こう言った。
「女性更衣室で、KAZUMI-BOYの生徒達が口々に騒いでるのを耳にしたんだけどさ…。」
私は彼女の次の言葉を待った。
彼女はいささか苦笑しながら続けて言った。
「『BOY先生は日頃、アタシ達には厳しいのに、宝塚の生徒さん達には優しい!』って…。」
私は別段、何とも思わずに聞いた。
「で?」
彼女は私の反応の無さに、やや狼狽えながら
「あ…いや、生徒達の下らないヤッカミみたいなモンだけどさ…あまり良くない噂が立つのもね…どうなのかな…って思ってさ…」
「いいんじゃない?ホントの事だし。」
彼女は更に狼狽えた。
「え?」
彼女の顔には明らかに『コイツは一体、何言ってんだ?』と言う表情が浮かんでいる。
常日頃から、女性更衣室の中と言うのは一種の情報交換場所であり、女性同士によくある特徴的な事件も起きやすい場所であるらしい。
同じ女性同士、裸の付き合いの中、感情も裸に成り易いらしい。
「別にホントの事が噂になったって構わないよ。」
彼女は怪訝そうに私の顔を見た。
「宝塚の生徒達は、東京公演の期間中や休みの日を利用して来てくれてんだよ?しかも月曜日のクラスなんて、終演後にバタバタ支度して急いで来てくれてんだぜ?(この時はまだ、東京宝塚も水曜日が休演日であった。)」
私は続けた。
「限られた時間でしか俺のクラスを受講出来ないんだよ。だから連中はクラスの間中真剣だよ。怒る必要も無ければ、厳しく接する必要も無いだろ?」
更に…
「真剣に頑張ってる連中に優しくして何処が悪いんだ?」
彼女は、なるほど、そうだったのか!と言う顔をしたが、こう返した。
「KAZUMI-BOYの事だから、その辺の態度があからさまなんじゃないの(苦笑)?」
私は言った。
「だろうね。だけどね、こう言う下らないウワサを口にする奴等ほど、日頃のクラスじゃあ間の抜けた事してんだぜ?おんなじ事を何度言われて、何度注意されようが、何度怒られようが、欠点を直しゃしない!」
「いつもKAZUMI-BOYのクラスを受けられる…って言う甘えね…?」
「そうだよ。怒られる事にも慣れっこなんだ。」
そういう輩に厳しく接して、何が悪いんだ?と私は言った。
宝塚の生徒達に対してだけではない。
休みを利用して、わざわざ遠方から来てくれる生徒達も沢山いる。
北は北海道、南は沖縄、遠くからやって来てくれるのである。
彼等はいつでも、真剣である。
『今、この時しかない!』
からである。
金と時間をかけて来てくれているのだ。
勿論、毎回のクラスを欠かさず来てくれる生徒達こそが、金も時間もかけてくれているのである。
しかし、金も時間も、使い方が重要である。
『東京にお住まいの生徒さん達は、毎日先生のクラスを受けられて、羨ましいです。』
と、遠方から来てくれる生徒達は口を揃えて言う。
宝塚の生徒にしても同じ事を言う。
クラスで何を得るも得ないも、生徒の力量ではない。
そして回数でもない。
真剣味と集中力である。
『クラスを受ける事』
に慣れ、クラスを受ける事で善しとしている生徒達には…
上達など有り得ない。
これに気付かない輩を『バカ』と呼ばずに、何と呼ぼうか?
ちなみに、申し上げておくが、私は感謝されたい訳ではない。
上達して欲しいだけである。