ニューヨーク物語 41 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ

シャザームの仕事は、楽しさ半分、辛さ半分であった。


しかし、皿洗いにすら雇って貰えなかった私である。

紛いなりにも、踊りで稼げるのだ。
これ以上の事はない。


家賃を払って、喰って行ける…


この仕事に喰らいついてさえいれば、ダニエルのショーに出演すると言う夢が叶うまで、ニューヨークに居られるのだ。




ジョディが気に掛けていた様に、ケヴィンとの仕事は幼稚な嫌がらせの連続であったし、彼がダンスキャプテンに格が上がってからは、私への嫌がらせは、かなりおおぴらな物になった。


搬入搬出の際は、一番重たい物を私に運ばせ、衣装は一番古く、一番汚れている物を回した。
※ダンスキャプテンが、各ダンサーがどの衣装を着るかを決めるのである。



『この中じゃ、KAZUMIが一番の新人だろ?誰も着たがらない衣装でも仕方ないさ(笑)。』


ある日ケヴィンは、いつもよりも大声を上げて、周りの人間に『自分のしている事は意地悪ではない事』をアピールした。


私の隣に座っていた女性ダンサーが、そっと私に耳打ちして来た。


『アンタ、よく我慢出来るわね!何か言い返しなさいよ!』


私は笑って言った。


『別にいいんだ。』


私は、ケヴィンとの揉め事だけは避けたかったのである。


こんな事で彼とやり合い、よもや、それが原因でクビになる…などと言う事だけは回避したい…いや、回避しなければならない!と思ったのである。


大体、彼とやり合い、言い負かす程の英語力がない。


『こんな事でケヴィンなんかに、夢を潰されてたまるか!』


そう思えば何ともなかった。



以前にも書いたが、シャザームの衣装はお伽噺に出てくる様な物が多く、それぞれにテーマがあった。


一つのテーマには、幾つものタイプの衣装がある。
…と言うより、同じデザインの衣装はない。


大概はサイズが合う合わないで、誰がどの衣装を着るかが自然に決まるのだが、不幸にも私とケヴィンの体型が似ていた為、私達が同じシフトに居ると、着れる衣装はいつもバッティングした。


そして、私達のサイズの衣装は、テーマが違っていても何故か一番華やかであったり、一番カッコいいデザインの物が多かった。


ケヴィンは、それらの衣装を非常に気に入っていたし、それらの衣装が一番似合うのは自分だと豪語していた。


私がケヴィンと違うシフトであれば、ケヴィンのお気に入りの衣装は私が着る事になる。




ケヴィンが衣装に執着するのは、単純に『最も華やかな自分にこそ、最も華やかな衣装が似合う』と言う理由であるが、確かに会場での彼は華やかであった。


しかしそれは、彼がブロンドにブルーアイである事だけが理由ではない。


衣装に、帽子や被り物があれば毛髪の色など関係はない。


彼の動きそのものが華やかだったのである。


私は会場で踊りながら、ケヴィンの動きを観察した。

『ケヴィンは…ただノってるだけじゃない…あれは…何かの振付だ。』


彼は、既に完成された誰かの…或いは何かの振付を踊っている様だった。


幾らダンスが本業であっても、振付のないフリーダンスで踊り続けると言うのはしんどい物である。
『ただ踊っていれば良い』のであればともかく、客をノせなければならない。


パーティーの序盤戦はかっ飛ばせても、中盤から終盤戦にかけてはキツくなる一方である。


客も飽きて来てしまう。


何らかの振付を踊ると言うのは、ケヴィンなりの間延びを避ける対処法だったのである。




ただ唯一…


ケヴィンに欠けていた所を指摘するならば…


彼のメイクのセンスは最悪だった…


と言う事である。