家賃の滞納が続き、ジョディからの借金が10万以上に膨らんでしまった。
バイト探しも諦めの境地…
遂に、精神的にエンスト状態である。
『これからどうするかを話し合いましょう。』
キッチンのテーブルを挟んだジョディの顔にも、流石に笑顔は無かった。
『多分、KAZUMIの状況では普通のバイトは見つからないわ。』
『うん…。』
『でも、だからと言って、このままって訳には行かないわ。』
私は申し訳なくて、ジョディの顔が見られなかった。
『あたしがやってる仕事…やってみる?』
『え?』
ジョディは、あるエンターテイメントカンパニーでダンサーとして働いていた。
アメリカでは、ありとあらゆるパーティーが四六時中行われている。
それは、ウェディングパーティーから、何とか記念パーティーから、ジューイッシュ(Jewish )のバーミツヴァ(BAR MITZVAH)*、医者の集まり等々…。
大小様々なパーティー会場は、自宅の豪邸であったり、ホテルのボールルームであったり、クラブやレストランを貸し切ったりと色々であるが、パーティーの主催者達はこうした場に、エンターテイメントカンパニーを呼ぶのである。
ダンサー、歌手、DJ等で構成されるこうしたエンターテイメントカンパニーは、ニューヨークだけでも幾つかあり、知り合いのダンサー達の中にも、こうしたカンパニーの何処かに所属している連中がいた。
ジョディは、そうしたエンターテイメントカンパニーの一つ『シャザーム』でダンサーとして働いていたのである。
『KAZUMIなら、雇って貰えるかも知れない。』
『やるよ!』
『ただね…カンパニーのオーナー…』
『…何?』
『東洋人があまり好きじゃないのよ…。』
こうした事は、私が滞在中ままあった。
黒人や東洋人を嫌う白人に出くわしたのは、一度や二度ではない。
『実は以前、Rも紹介したんだけど、オーナーは彼女を気に入らなかったのよ…。』
Rとは、私の前にジョディとルームシェアしていた日本人ダンサーである。
『だから、あまり期待は出来ないし、その事があったから、今までこの話を持ち出さないでいたんだけど、あなたの働き口が見つからない以上、やってみるしかないわ。』
私は、次のジョディの仕事先に同行する事になり、そして、ダンサーとしてそのパーティーで踊る事になった。
オーナーがそれを見て、私を雇うか否かの判断を下すと言う。
言わば…
『いきなり実践オーディション』
である。
もはや、背水の陣…。
これで雇って貰えなければ、私のニューヨーク生活は『ジ エンド』である。
一番にして唯一の目的、ダニエルのショーに出る事。
この目的も果たさずに、スゴスゴと帰国するしかないのだ。
『東洋人嫌い…か…。』
私は、私の運を天に委ねるしかなかった。
*ユダヤ教の戒律の一つで、13歳男子の成人式。非常に盛大にお祝いをする。