ニューヨーク物語 34 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ

もう店の名前も忘れたし、何処にあったか場所も忘れたが、アップタウンに靴の量販店があり、破格に安いので重宝していた店があった。


私はまずこの店に向かった。


ダンス用のヒールは高いし、それに…ストラップ付きの女性用のダンスヒールを履くのは流石に恥ずかしい。



かと言って、男性用の靴ではヒールの高い靴を探すのは難しいし、仮にあっても3~5㎝くらい。
例え5㎝あっても、靴底そのものが分厚いので、背は高くなるが、いわゆるヒール効果は望めない。



踵が上がり、爪先に体重がかからなければ意味がない。



私は考えた。



『自分が履いても可笑しくない、女性用のハーフブーツを見つけよう!』



女性のブーツでも、デザインがシンプルで色が黒なら、自分にも履ける物が見つかるかも知れない。



何も、ピンヒールや10㎝もあるヒールを履こうとしている訳ではない。



果たして、望む物は見つかった。
6㎝くらいの太めのヒールのハーフブーツである。




私は早速翌日から、ベタ足矯正ヒールトレーニングを開始した。



しかし、生まれて初めて履くヒール…歩く事すら儘ならない。



『これ履いて踊るなんて、トンデモナイΣ( ̄□ ̄;)…足首、折っちまう!』



先ずはまともに歩ける様にならなければ、お話にならない。




私は同じ日本人スカラーのAちゃんに、助けを求めた。


私達は街中に出た。


私が歩く後ろをAちゃんに歩いて貰い、私の歩き方をチェックして貰うのだ。



『ダメ…体重が全部外に逃げてる。』


『もっと親指側に体重を乗せて。』



O脚の悲しさである。


体重が全て小指の方へと逃げて行く。



当時私は、このO脚が嫌で、レッスンの際には必ず、厚手のレッグウォーマーで隠していた。



しかし、こうしてヒールのあるブーツを履いて歩けば、一目瞭然である。




履き慣れない、おニューのブーツは私を苦しめた。


1キロ程歩いた頃だろうか?足が痛くて堪らなくなり、私は座り込んでしまった。


『こんな調子で、大丈夫なんだろうか?』



早くも弱音が出そうであった。


痛みを堪えて、再び歩き出すが、私の足は限界に近づいており、1ブロック毎に休まなければ歩けない。



私はこうして、ニューヨーク滞在中、1年半で3足のハーフブーツを履き潰した。



練習を始めたその日から、毎日ブーツを履き続けたのである。



やがて、私はこのブーツを履いてレッスンにも出始めた。



頭の中の理解と身体の理解には時差がある事がある。

頭では『こうしなきゃいけない!』と分かってはいても、思う様にすぐには身体は反応してくれない…そんな事がある。



特に姿勢や歩き方に於いては、長年に渡り積み上げてしまった習慣であるから、大人になってから修正するのは大変である。


毎日、余程気をつけて行かなければ矯正など出来ない。



綺麗に歩ける様になる為、綺麗にステップを踏む為、私は、ブーツが自分の脚と同化するまで履き続けたのである。



もしあの頃、このトレーニングをやらずにいたら…



私は遠の昔に足首を壊していたかも知れないし、膝の裏も伸びきらないままだったかも知れない。


二本の線の上をがに股でベタベタと歩いていたかも知れない…。


そう思うと、ゾッとする私なのであった。