ニューヨーク物語⑯ | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ



T君とKさんとの生活が始まった。


日中は三人共、各々のレッスンで部屋を空ける。


夕方からは、私は掃除。
二人はバイトに向かう。


帰宅時間はバラバラ…。


特にT君は帰宅が遅く、いつも夜中。
私とKさんが就寝してから帰って来る事が多かった。


順番で、二人がベッド、一人は床に寝た。


なにぶん古い建物である。

配管も古く、バスルームの水ハケが非常に悪く、一度シャワーを浴びると、膝まで水が溜まってしまう。


だから、誰かがシャワーを使った後は、溜まってしまった水がハケきるまで十分程待たなければならなかった。



Kさんは年長者で、性格も穏やかな人で、およそ揉め事の対象になり得ない人であったし、こうした共同生活にも穏やかに順応している様に見えた。


私は私で、元来が大雑把。始めは窮屈に感じていた共同生活にも慣れて来ていた。


しかし、一番年下のT君は些か神経質。
一番最初にストレスが溜まり始めたのである。


彼は、些細な事にイラつき始めた。


『テーブルの上が散らかっている。』


『いつも自分がゴミを捨てにいく。』


『KAZUMI-BOYは、バイトしていないし、一番時間があるのだから、もっと掃除をすべきだ。』


等々…。


まるでお姑さんの様になって来ていた。


三人の共同生活が始まって暫く経った時、ステップスに於いて日本人だけでスタジオパフォーマンスを行う事になり、私もT君もそれに参加したのだが、結果、リハーサルの為に四六時中顔を付き合わせる事になった。
(※このパフォーマンスについては、また別の機会にお話しよう。)


これに寄ってT君のストレスの矛先は、完全に私へと向けられた。


内でも外でも、彼は年少者。
神経を使い過ぎ、ストレスを溜め込んでいたのである。


私は、彼のストレスが自分のみに向けられているとは夢にも思っていなかったので、私なりに気を使っていたつもりであるが、彼に取ってみれば、それすらが疎ましいものであった様である。


人間、一度疎ましく思ってしまうと、その相手が何をしてもマイナスである。


終いには存在そのものが疎ましくなる。


しかし、どんなに疎ましくても、雨風を凌ぐ為に、私を追い出す訳にはいかない…。


そのジレンマが、より一層、彼のストレスを増幅させた。


ある朝、私が目を覚ますと、T君もKさんも、既に出掛けていた。


私は、コーヒーを煎れる為にキッチンへ。


ふと、キッチンのテーブルを見ると一冊のノートが置いてあった。


見覚えのあるそのノートは、T君の日記であった。


彼は几帳面に、毎日日記をつけていたのである。


ノートは開きっぱなしであった。


出掛けに、慌てて出て行ったのだろうか?
こんな事は、神経質な彼らしくない。


私は、ノートを閉じておこうと手を伸ばす…。



『!?』



開かれたページには、神経質な彼らしい綺麗な文字がピッチリと並んでいたのだが、私はそこに、自分の名前を見つけてしまったのである…。



私の目に飛び込んで来た文章は…



『…全く、KAZUMI-BOYは嫌になる!なんでこんな奴と暮らさなきゃならないんだ!』


と言う一節であった…。