留魂録・・・其の九 | 隠居の暇つぶし

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留 魂 録・第九章


東口揚屋にいる、水戸の郷士堀江克之助には

まだ一度合ったことはないが、真の知己で

あり真の益友だと思っている。


彼は、私に次のようなことを伝えてくれた。


昔矢部駿州は、桑名候へお預けの身となった

その日から絶食して、仇敵を呪いながら死に

果たしてその仇敵を退けることができた。


今あなたも、自ら一死を期するからには祈念

をこめて内外の敵を払われよ。


その心を、この世に残しておかれるようにと


この丁寧な戒めに、私は心から感服した。


また鮎沢伊太夫は、水戸藩士で堀江と同じ房

につながれいる。


彼もまた、私にこう伝えてきた。


今あなたに、どのような判決が下るかは予測

できない。


自分は遠島と決まったので、島に送られたら

天下の事べては、天命にまかすほかないと

思っている。


しかし天下の益になることは同志に託し後輩

の者に残しておきたいと・・・


この言葉も、大いにわが意を得たのである。


私も、そうありたいのだ。


私が祈念をこめて願うのは同志の人々が強い

意欲をもって私の志を継ぎ、尊王攘夷の大功

を立ててくれることである。


私が死んだあと、堀江、鮎沢が島に流されて

いようと獄中にあろうと、わが同志たらん者

は、彼らと交わりを結んでもらいたい。


また本所亀沢町に、山口三輶「さんゆう」と

いう医者がいる。


義を好む人と見えて、堀江、鮎沢のことを獄

外から支援している。


さらに私が、この人に及ばないと思ったのは

両氏から頼まれて、一面識もない小林民部に

ついても尽力しているということだ。


なかなか非凡な人物と思われる。


堀江、鮎沢、小林三氏への連絡は、この三輶

老に頼むとよい。

 
ひとこと

十月八日、松陰先生が、高杉晋作にあてた手

紙に、獄中の交は、総じて親子兄弟の如しと

書いているように、

 

いたわりあい励ましあう様子が、留魂録の文

からもうかがえます。


原則として、囚人同士が会話することは禁止

されていましたが、むろん同室の者と話すの

を止めようもなかったでしょう。


松陰先生は、たとえば牢名主沼崎吉五郎を相

手に講義さえもしています。


また獄舎の違う人々は、ひそかに文通もして

いました。

 

次回につづく