「沖縄は国から過度に大きな経済支援を受けていない」説を検証する | マスメディア報道のメソドロジー

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翁長知事



沖縄タイムスによれば「沖縄県浦添市長選では自民が公明と共に推した松本哲治氏が2期目を勝ち取り、翁長雄志知事ら「オール沖縄」は苦しい状態に立たされた」そうです[20170213]。ここに来て翁長知事の政治的な勢いに低下傾向が認められ、政府も2017年の【沖縄振興予算】を3350億円から3150億円に減額(-6%)しました。この政府の措置に対して沖縄タイムスが社説で強い不満を表明しました[20161224]

大幅に減額されたのは、県が自由に使い道を決めることができる一括交付金である。ソフト、ハード含めて255億円減の1358億円は、制度創設以来最低額だ。指摘されているのは不用額と繰越率の高さである。もちろん執行率を高める努力は必要だ。だが内閣府の概算要求で138億円減となっていたソフト交付金が、財務省の査定で118億円減に減額幅が圧縮されるなど、算定方式にはあいまいさが漂う。内閣府は今年の概算要求から、交付金の算定方法に新たな計算式を導入した。それに対し県幹部から「減額ありきの計算式」との声が上がっている。執行率は向上しているのに「なぜ」との疑問が消えないのだ。


そもそも沖縄県は、これまでの国から沖縄県への財政移転に対して優遇されてはいないという立場をとっており、[公式website]でも次のようなFAQを設定してインプリシットに国民世論を牽制しています。

沖縄振興予算

[沖縄県と他府県の財政移転の比較]

このFAQにおいては、「沖縄に対しては、国庫支出金や地方交付税により他都道府県と比較して過度に大きな支援がなされているのではないですか」という質問に対して、沖縄県は明確に「人口一人当たりで比較すると、国庫支出金と地方交付税の合計額は全国5位で全国1位まではほぼ同規模になっており、復帰後一度も、全国一位にはなっていません」という見解を示しています。つまり、「全国一位にはなっていないので他県と比べて過度に大きな支援は受けていない」と主張しているわけです。

この主張に妥当性があるのか、平成26年度(2014年度)決算を参照して以下に検証したいと思います。

良く知られているように、国から地方への主たる財政移転は、各都道府県に対して政府が【地方交付税】(財源の偏在を調整することを目的とした交付金)と【国庫支出金】(地方が国に要求して国が支出する交付金)の交付であると言えます。どの程度の金額が国から各都道府県に移転されたのかを調べるにあたっては、[総務省website]から次の3種類のMS Excelファイルをダウンロードする必要があります。

[都道府県決算状況調 第3表 歳入内訳 3-2 都道府県別内訳]
[市町村別決算状況調 1 都市別 (2)歳入内訳]
[市町村別決算状況調 2 町村別 (2)歳入内訳]

これらのファイルから各都道府県別に地方交付税と国庫支出金を取り出してそれらを合計することで次のような表を作成することができます。

都道府県別の地方交付税と国庫支出金(H26)

この表に示されている都道府県別の地方交付税と国庫支出金の総額を[人口推計]で除算することで都道府県別の一人当たりの地方交付税と国庫支出金を算定することができます。

都道府県別の一人当たりの地方交付税と国庫支出金(H26)

この一連の作業はかなり面倒なので、ほとんど誰もやろうとは思わないと思いますが、私は面倒なことが大好きなので、やってしまった次第です(笑)

この表から、都道府県別の一人当たりの地方交付税と国庫支出金の関係をプロットしたのが次の図です(東日本大震災の被災3県については除外しています)。

沖縄県の地方交付税と国庫支出金の関係

この図からわかることとして、「沖縄県を除いたすべての県のプロットが一つの直線状に概ね位置する」ということです。つまり、「沖縄県を除いたすべての県の地方交付税と国庫支出金は線形関係にある」ということが言えると思います。

ここで、「地方交付税」というのは、財源の偏在を調整することを目的としたものであり、客観的な計算式にしたがって決定されるものです。それに対して「国庫支出金」というのは、基本的に地方が国に要求して国が支出するものです。地方交付税と国庫支出金の間に一定の相関関係があるにもかかわらず、「全国の都道府県で沖縄県だけは、地方交付税に対する国庫支出金の金額が極めて多く、本来、人口一人当たり13万5000円くらいの国庫支出金の支給のところを2倍の27万円近く多く支給されている」ことがわかります。

沖縄県は、目的の異なる地方交付税と国庫支出金を勝手に合計し、その合計値が全国で5位なので「過度に大きな経済支援を受けていない」とインプリシットに主張していますが、客観的に見れば、他の46都道府県と比較して明らかに過度な経済支援を受けていると言えます。

沖縄県よりも地方交付税の付与が多い島根県・高知県・鳥取県は、いずれも人口が少ない県であり、財源の偏在を無くすための目的で公正に地方交付税が付与され、県の運営を維持するための最低限の歳入が確保されているものと考えられます。

もちろん、「日本全体の約15%の軍事基地」が偏在する沖縄の負担によって安全という利益を得ている日本国民は、沖縄のロードに対して相当分の補償をする必要があると考えます。しかしながら、現在のレベルがその相当分として適当な額であるかについては必ずしも合理的な根拠があるわけではありません。沖縄県の国庫支出金の内訳を見れば、その大部分は軍事基地とは無関係な費目であるからです。ちなみに、最大基地面積を有する北海道は沖縄の半分程度の額であり、沖縄と同様に市街地に多くの基地施設を持つ神奈川県は、全国最低レベルで1/3にも達していません。

[統計メモ帳]というサイトによれば、沖縄県の国庫支出金への依存度は被災3県をすでに上回っています。

都道府県別の地方交付税と国庫支出金(統計メモ帳)

沖縄の国庫支出金の依存度が高まっていることは、今回書いた記事と以前に書いたコチラの記事のデータを比較しても明らかです。

[あまりにも歪められた沖縄辺野古基地問題の報道]

国から大きな経済支援を受けている事実を沖縄県が認めていないことは、納税者として非常に残念に思うと同時に、沖縄タイムスがその大きな経済支援に満足していないばかりか、不満に思っていることは極めて残念に思うところです。