季節は梅雨入り直前。
森の中の池には亀がおり、池の
土手には蝶が舞っている。
池で泳いでいる亀をみる。
亀はいないと想っていた池。
かってに決めていたことを知る。
土手に花が咲いており、蝶が花に
止まっている。
雑草の花に密を吸っている蝶を視
て、あらためてこの花の美しさを
想う。
綺麗な蝶を見ていて思う。
この蝶は、蛾ではないかと思う。
亀と蝶を視たぼくは、まるで森の
中の薄暗い世界で幻覚にとらわれ
ている気になっていった。
夢の中で雪が舞い散る夢をみる。
雪が舞い散る日の昼間。
女が台所で買った亀を魚屋に捌
(さば)いてもらっている。
男は、亀の首をさばき、艶めかし
い女に「この生血を酒に混ぜて、
お飲みなせえ、精がつきやす」と
いい、女はクスクスと微笑む。
旦那がやってきて、スッポンの
鍋料理を食べる女と旦那。
女
さっきまで生きていたのに…。
旦那
うまいはずよ、肉を喰うのじゃ
ない、いのちを喰うのだ。
女
まるで(人も)鬼のよう…。
旦那
鬼と同じさ
と、食べ終わった後。
いつものように、隣の部屋で昼間
から老いたる旦那がセックスをす
る。
旦那
舌の根が抜けるとかと思った…。
女
スッポンは、一度喰いついたら離
れないって。
旦那との鍋料理の前。
台所で後片付けをしているときだ
った。
亀を捌いた肴屋が包丁を忘れまし
てと戻って来る。
肴屋の男の眼をじっと見詰める女
の眼。
男と女の眼があい、どちらからと
いうわけけでなく、女は男の首に
手を回し下を口に入れてゆく。
一方、男は土間で横に伏せた女に
覆いかぶさり、裾を開け、煮えき
ったものを押し入れてゆく。
男と女は夢のような夢枕の世界に
陶酔していた。
外は雪が降り、雪が舞い散ってい
た。
そのとき、旦那がやってくる。
雪が降る中、横になり裾が乱れた
女を残し、肴屋が「姐さんすまね
ぇ、魔がさしたんだ」と女の家を
後にした。
日がかわる。
じつは、この雪の日の出来事を、
北斎(だんな)も女弟子(姐さん)
も筆で絵に描いていた。
この物語は杉浦日向子の『百日紅』
(女弟子)をもとにして書く。
作家村上龍が、杉浦日向子と対談し
たときに、『女弟子』を読んでスッ
ポンを食べたという話をすると、彼
女は、そのことを喜び、自分は実際
に食べたことが無いと笑っていたそ
うだ。
彼女の絵といい想像力がすごいと思
った。
杉浦日向子は、「コメディーお江戸
でござる」(NHK)での解説役をし
ていた女性で、かの女は結婚歴もあ
り、すでに48歳の若さでなくなっ
ている。
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