古いことから新しいことに挑むとき、

いずれが真実かわからないが、

ひとびとはこれを拒む。不思議だが、

これがいつも世の常だった。

 

クリムト(1862-1918)は生涯を、

何が真実か、ということで彼は女性を

描き、同時代のウイーン人を不安にさ

せた。

 

クリムトと「パラス・アテネ」

当時のウイーン人を不安にさせたクリム

トの作品「パラス・アテネ」がある。

この絵は女神を黄金の鎧(よろい)で飾

り、ウイーン人を怒らせた。どうしてだ

ろう。

 

 

クリムト「パラス・アテネ」(1895/H75×W75cm/油彩)

 

どうして怒ったかは、男が身につけるも

の(甲冑)を女性に着せていたからであ

る。

その兜は鼻の半分までで、平板な金具で、

さらに胸に付けたメドゥーサ(ゴルゴン)

の顔に反感をそそった。

 

クリムトは考古学的資料に忠実に描くな

かで、ユディトやサロメのような、エロ

スの化身でありながら、残酷な戦士でも

ある女に魅せられた。

それは、女性嫌悪から生まれた(ファム

ファタール)であったが、クリムトは、

それを肯定し、崇拝して女たちを描き続

けた。

人々はクリムトの「パラス・アテネ」を

拒み、クリムトにとって、新しい女の戦

いの始まりであった。

 

 

「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」

クリムトは「ヌーダ・ヴェリタス」を描く。

 

 

「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」(1899/H252×56.2/油彩)

 

鏡をもった全裸の女性はありのままの姿だ。

髪の毛が肩に垂れ下がり乳首が、薄い毛で

覆われた股、その肢体の足元には蛇がいる。

 

ドイツの詩人シラーは言う。「パラス・ア

テネとこの絵によって、クリムトはウイ―

ン社会と古いアートに挑戦した。

裸の女は手に鏡をもち、これが真実だとつ

きつけている。もしおまえの行動とアート

ですべての人を喜ばせないなら、数少ない

人を喜ばせよ」と。

クリムトは、この絵以後反道徳的な芸術家

として世の非難を受けるようになる。

この絵はクリムトにとってはひとつの転機

であり、エロティックな女性の裸を、あり

のままに、大胆に描くようになる。

 

クリムト「金魚」

クリムトは風紀を乱すわいせつな画家とし

て批評され非難にさらされる。

これに、はじめ「わが批評家たち」という

題から「金魚」の題にかえた絵がある。

 

 

クリムト「金魚」(1901-1902/H181×W67/油彩)

 

裸の女が見る人に尻を向けてかがみ

笑っている。

絵には4人の女性と金魚があり、女

たちのからだの間は暗い闇のようで、

そこに何か光り潜むものがある。

この絵もしばしばスキャンダルにな

り、展覧会では、はずされたりした。

 

クリムト「愛のアレゴリー」

クリムトの「愚意と象徴」のための絵

である。

 

 

クリムト「愛のアレゴリー」(1895/H60×W44/油彩)

 

アレゴリーは比喩、寓意を意味し、絵の

幅広い枠・両側にはバラの花を描いてい

る。

抱き合うふたりが絵の上部には、子ども、

若い娘、老年という女が描かれ、女性の

一生を愛と花の移ろいで表現している。

クリムトの生涯の絵は、時代のなかで、

真実が何かを求め、女性を通して描き続

けている。

 

 

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