「浮世」とは、仏教ではこの世の
ことをいうそうだが、浮世絵師の
喜多川歌麿はこの浮世の願い(夢)
を枕絵「ねがひの糸口」で描き、
男女をしてほんとうのことを語らせ、
男と女の関係を物語っている。
喜多川歌麿「ねがひの糸口」
歌麿の「ねがひの糸口」は彩色摺
12枚組物の錦絵大判で、「歌まく
ら」から11年後の寛政11(1799)
年に刊行された浮世絵の枕絵である。
「ねがひの糸口」は「歌まくら」と
は違い、寝床での男と女の偽らない、
そのときの願いごとを書き添えた
文が挿入されている。
第5図
吉原の花魁と町の若衆
庶民にとって花魁は高嶺の花。
花魁と寝床をともにできるのは、
どんな通人かと思うが。その花魁
の浮世の夢は。
目をつぶった花魁と花魁を抱きかか
える若衆。
男
どうぞ壱萬両も金をもって、
おいらんのぼぼをたんのふするほど
してみたい人のうハサにゃァ、
ぬしハとこでなくとということだが、
此ぼぼのいいうへに、なかれちゃた
まらねへ
女
モットきつくつきたってくんねへ。
いまになきだしてミせやふ。
かねのある通人のまらより、
ぬしのやうないさみのまらが、
いっそおいしうおっさァな。
ならう事なら、ぬしとかうだきついて、
千年ばかりいたい。
ままならぬ浮世とやらで、
いっそじれっとうおっす。ヨウー。
第9図
男と女は新婚夫婦
裸になった夫と湯あがりの浴衣姿
の女房。
新婚の夫が浴衣姿の妻をもとめに
ゆく
男
おめへのようなうつくしい、やせも
せず、太りもせず そのうえこのよ
うにぼぼがよくて させ様が上手で
じんばり(淫乱なひと)で
よくよがる女ハ 此日本にたったひ
とりだ。
大極上開(かい)、たこぼぼのうま
にぼぼで、たまらぬたまらぬ。
女
アレサ、やすまづと、つづけてたん
のふするほどしてくんなよ。
サアサア、モウモウ、いんすいのさ
るまたがきれそうだ。
アレサ、モットぐっときつく、
ねまでづーと入れてくんなよ。
アアアア
喜多川歌麿(枕絵)
終生艶本にこだわった喜多川歌麿。
歌麿は、生きることと楽しみを享楽
することとは裏表にあるという。
歌麿は浮世で叶わぬ願いや願いを遂
げた男女が寝床でたがいに語り、女
性が恍惚の世界にしたる姿を描いて
いる。
喜多川歌麿
(枕絵「ねがひの糸口」)
「ねがひの糸口」は、寛政の改革の真
っ只中の枕本で、非合法出版のなか僅
かに規制から逃れ出版される。
その後版元の蔦屋重三郎は幕府から身
上半減の重科料に処せられ、歌麿は「
太閤五妻洛東遊観之図」で、50日の手
鎖(てぐさり)の刑をうける(1804年)。
これがもとで以後絵が描けず2年後文化
3(1806)年に喜多川歌麿は孤独の身
で没する。
浮世絵は江戸時代をもって、浮世の絵
として消え去ることになる。
参考(メモ)
<勝川春潮(生没年不詳)。安永から寛政(1722-1801)活躍>
<喜多川歌麿(1753?-1806)寛政期(1789-1801)に活躍>