コロナ禍で埋もれてしまったSF映画~アーカイブ | Kazmarのブログ

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映画「アーカイブ」は2020年のイギリス映画で、ギャビン・ロザリーの初監督作品だ。アーカイブとは故人の生前の営みをデジタル化して保存し、その情報をもとに人格を再構築して、生きているその人と同じように会話が創成されるシステムである。簡単に言えば、対話ができるAIひろゆきのようなサービスである。このサービスには数年といった期限が設けられている。

主人公のジョージ・アルモアはロボット工学者で、ある大手企業に勤めている。彼は会社から日本の山梨にある研究所で三体のロボットを製作することを条件に三年間の自由研究の期間を与えられた。彼にとっては好条件の機会である。そのことを自動車を運転中、おそらく自動運転、に妻へ話をするのだが、妻はあまり乗り気ではない。その会話の最中に二人の乗った車は突然飛来してきた物体に衝突され、車は大破し妻は亡くなってしまう。

 

その後、彼は一人で山梨の研究所にこもり、ロボットの製作にいそしむことになる。最初に作ったロボットJ1は人語を解して、その指示に従って行動できるタイプ。2号機であるJ2はある程度の妻の人格をインストールされた双方向の対話が可能なタイプ。そして3号機であるJ3は妻の形態をしたヒューマノイドである。彼はその研究を会社には一切報告せずに極秘裏に行っている。そして、彼は違法にアーカイブサービスから妻の情報をダウンロードし、J3にインストールして、彼の妻を再現したヒューマノイドは完成した。

 

しかし、違法ダウンロードに気付いたアーカイブの運営会社は、彼の会社を訴え、多額の損害賠償を要求する。彼の上司は彼とJ3を捕獲するために、実力部隊を山梨の研究所に派遣する。アルモアは実力部隊の襲撃に備えるが、実力部隊はその防御を次々と打ち破り、扉一枚の向こう側まで迫ってくる。そして最後の扉が打ち破られたときに彼が扉の向こうに見たものは何か?そしてそのあとにくる物語を根底から覆す大ドンデン返しの展開。

 

久々に観た良質の映画だった。

 

 

全体的な映画の印象はアンドレイ・タルコフスキーのソラリスを思わせる、ゆっくりとした絵画的な絵作りだ。そこにクリスタファー・ノーランのように過去と現在を、時系列をバラバラにして、物語を展開している。また山中の研究所で科学者が一人でヒューマノイドを作っていることは「エックス・マキナ」と設定が同じだ。監督のギャヴィン・ロザリーは、おそらくこれらのことに強く影響を受けて映画製作をしていることは間違いないだろう。

 

 

そして私たち日本人が感じることは日本文化の強い影響である。

最愛の人の死を受けいられずに、その人をヒューマノイドとして再構築する試みは、ありきたりといえばそうであるが、それは鉄腕アトム創成譚そのものだ。そして自我に芽生えたロボットJ2が湖で自決するところは、同じく神様手塚治虫が生み出したロボットロビタの物語である。またJ2は顏が四角いところは違うが、その他のパーツや挙動などはホンダのASIMOだ。そして上半身だけのJ3の初登場の場面は第二使徒リリスを思わせるものだった。このように日本人に親しみを思わせる場面が随所にちりばめられた映画である。

 

しかし私たちは研究所が山梨にあるといった設定であるのに、山梨らしさが皆無であり、カナダでロケしたんではないかと憤りを感じる。また劇中使われる日本語も稚拙で、日本の居酒屋も、どこかの国の中華街にあるパクリ日本風居酒屋ではないかと怒り心頭に達する。しかしこのことも物語の大ドンデン返しですべて解決され、「ああ、なるほどね」と強く頷かされる。

小憎らしい演出だ。

 

 

私の評価は4.3、イギリスの名優トビー・ジョーンズの演技は光ったが主役二人には物足りなさを感じた。そして低予算なので仕方がないが、作り物感満載のセットが物足りなかった。それ以外はほぼ満足できる内容の映画だ。特に演出が見事だ。監督のギャヴィン・ロザリーは今後、要注目の一人だと思う。満足度は95点。

 

現在アマゾン・プライムで配信中だ。109分の映画。スローテンポな映画ではあるが、演出が良いので倍速で見ると映画の良さが伝わらないと思う。