脚本・監督=平山秀幸(「愛を乞うひと」「エヴェレスト 神々の山嶺」他)
原作=帚木蓬生(ははさぎ・ほうせい)「閉鎖病棟」(山本周五郎賞受賞作)
その日、仕事を早仕舞いした梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)は、真っ直ぐに帰宅。
我が家で目撃したのは、他ならぬ、妻の情事だった。
逆上した彼は、台所から包丁を持ち出し、相手共々刺殺してしまう。
そして、寝たきりの母を不憫に思い、「もう、誰も世話してくれる人はいない…」と、母までも手にかけてしまった。
捕われた彼は、死刑囚となり、やがて絞首刑が執行された。
しかし、刑の執行後、彼は蘇生する。
希にこうしたことが、起こるのだという。
過去の事例に習い、彼の死刑が再び執行されることは無かった。
坂の上の「天王寺病院」は、精神科の病院だ。
そこに、車椅子姿の梶木の姿があった。
彼は、刑の執行で脊椎を痛め、その後、あちこちの精神科病院をたらい回しにされていたのだ。
院内の工房で、日がな陶芸をして過ごす彼だが、患者仲間からは「秀さん」と呼ばれ、慕われていた。
天王寺病院には、抱えきれない重荷に押しつぶされ、心を病んでしまった多くの患者が暮らしている。
皆、家族や世間から疎まれ、居場所を無くした人達だ。
そんなある日、両親に連れられ、一人の少女がやって来た。
不登校が続き、ずっと部屋に引きこもっていた、女子高生の由紀だった。
彼女は心を閉ざし、誰にも心を開かない。
そしてついに、屋上から身を投げてしまうのだった。
幸い、生け垣がクッションとなり、一命を取り留めるが、お腹の赤ちゃんは流れてしまった。
そう、彼女は妊っていたのだ。
だが、彼女は、さらに深い闇を抱え込んでいた…。
生け垣の手入れをしたのはチュウさん。(綾野 剛 )
「事情を抱えていない人間なんて、いないからね。」と由紀を諭す。
彼も又、突然襲う、幻聴に苦しんでいた。
患者それぞれのエピソードは、映画ならではの誇張や、絵空事などではない!
我々の身近な所で、実際に起こっている事ばかりだ。
残酷な現実に、胸をえぐられる。
しかし、心を病んでしまった人たちが、外の世界で暮らすのは難しい。
心が脆くなっているのだ。
それを、適度な距離感で、医師が、看護師が愛を持って接し、見守っている。
障害者施設や介護施設において、スタッフによる虐待や殺人が、珍しくない昨今である。
こんな優しいスタッフが揃った病院が、実在するのだろうかという疑問は、勿論ある。
でも、原作者は現役の精神科医だ。
実在すると信じたい!!!!!
勿論、病院の中にも患者同士の人間関係があり、軋轢は生じる。
それでも、心に傷を負う者同士、助け合い支え合う内に、友情や家族のような絆が生まれる。
だが、運命は情け容赦なく、冷酷なまでに人を弄ぶ。
ついに、あってはならない事が、起こってしまった…。
それでも、人間は弱いだけじゃない。
立ち向かう強さも持っている。
支えてくれた優しさに、報いようとする思いが、生きる力を生むことがある。
育まれた絆が、互いを結び、互いを救うことがある。
ラストはずっと、泣きっぱなしだった!
由紀の思いに、チュウさんの思いに、秀さんの思いに、胸がいっぱいで胸がいっぱいで、涙腺が崩壊状態になっていた!!!!!
僕は思う。
病院の内も外も、紙一重なのだと。
悩み苦しみ、心身共にギリギリの状態で耐えている人は、いくらでもいる。
決して他人事ではない。
ひとつ間違えれば、誰もが皆、由紀や、チュウさんや、秀さんなのだ。
精神科病院は、行き止まりの「閉鎖病棟」ではない。
心を癒やし、社会復帰への準備の場所でもあるのだ。
夜が明けたら、真新しい、それぞれの朝が始まる…。
原作者と監督の、人に対する、温かい眼差しを感じる作品でした。
117分
95点
原作=帚木蓬生(ははさぎ・ほうせい)「閉鎖病棟」(山本周五郎賞受賞作)
その日、仕事を早仕舞いした梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)は、真っ直ぐに帰宅。
我が家で目撃したのは、他ならぬ、妻の情事だった。
逆上した彼は、台所から包丁を持ち出し、相手共々刺殺してしまう。
そして、寝たきりの母を不憫に思い、「もう、誰も世話してくれる人はいない…」と、母までも手にかけてしまった。
捕われた彼は、死刑囚となり、やがて絞首刑が執行された。
しかし、刑の執行後、彼は蘇生する。
希にこうしたことが、起こるのだという。
過去の事例に習い、彼の死刑が再び執行されることは無かった。
坂の上の「天王寺病院」は、精神科の病院だ。
そこに、車椅子姿の梶木の姿があった。
彼は、刑の執行で脊椎を痛め、その後、あちこちの精神科病院をたらい回しにされていたのだ。
院内の工房で、日がな陶芸をして過ごす彼だが、患者仲間からは「秀さん」と呼ばれ、慕われていた。
天王寺病院には、抱えきれない重荷に押しつぶされ、心を病んでしまった多くの患者が暮らしている。
皆、家族や世間から疎まれ、居場所を無くした人達だ。
そんなある日、両親に連れられ、一人の少女がやって来た。
不登校が続き、ずっと部屋に引きこもっていた、女子高生の由紀だった。
彼女は心を閉ざし、誰にも心を開かない。
そしてついに、屋上から身を投げてしまうのだった。
幸い、生け垣がクッションとなり、一命を取り留めるが、お腹の赤ちゃんは流れてしまった。
そう、彼女は妊っていたのだ。
だが、彼女は、さらに深い闇を抱え込んでいた…。
生け垣の手入れをしたのはチュウさん。(綾野 剛 )
「事情を抱えていない人間なんて、いないからね。」と由紀を諭す。
彼も又、突然襲う、幻聴に苦しんでいた。
患者それぞれのエピソードは、映画ならではの誇張や、絵空事などではない!
我々の身近な所で、実際に起こっている事ばかりだ。
残酷な現実に、胸をえぐられる。
しかし、心を病んでしまった人たちが、外の世界で暮らすのは難しい。
心が脆くなっているのだ。
それを、適度な距離感で、医師が、看護師が愛を持って接し、見守っている。
障害者施設や介護施設において、スタッフによる虐待や殺人が、珍しくない昨今である。
こんな優しいスタッフが揃った病院が、実在するのだろうかという疑問は、勿論ある。
でも、原作者は現役の精神科医だ。
実在すると信じたい!!!!!
勿論、病院の中にも患者同士の人間関係があり、軋轢は生じる。
それでも、心に傷を負う者同士、助け合い支え合う内に、友情や家族のような絆が生まれる。
だが、運命は情け容赦なく、冷酷なまでに人を弄ぶ。
ついに、あってはならない事が、起こってしまった…。
それでも、人間は弱いだけじゃない。
立ち向かう強さも持っている。
支えてくれた優しさに、報いようとする思いが、生きる力を生むことがある。
育まれた絆が、互いを結び、互いを救うことがある。
ラストはずっと、泣きっぱなしだった!
由紀の思いに、チュウさんの思いに、秀さんの思いに、胸がいっぱいで胸がいっぱいで、涙腺が崩壊状態になっていた!!!!!
僕は思う。
病院の内も外も、紙一重なのだと。
悩み苦しみ、心身共にギリギリの状態で耐えている人は、いくらでもいる。
決して他人事ではない。
ひとつ間違えれば、誰もが皆、由紀や、チュウさんや、秀さんなのだ。
精神科病院は、行き止まりの「閉鎖病棟」ではない。
心を癒やし、社会復帰への準備の場所でもあるのだ。
夜が明けたら、真新しい、それぞれの朝が始まる…。
原作者と監督の、人に対する、温かい眼差しを感じる作品でした。
117分
95点