私が毎日チェックする日本の情報源、「プレジデントオンライン」で、『炭水化物を毎日食べるほうが長生きする…管理栄養士が「100歳まで歩きたいなら糖質制限はやるな」と警告するワケ』という、嘘と思い込みがてんこ盛りの記事を見つけました。

 

この記事は、管理栄養士で家政学部の教授の方の著作の一部だそうですが、どういうわけか生化学の基礎知識から逸脱しています。ざっくりと、タンパク質を気にして糖質制限をすると高齢者がフレイルになるという科学的根拠が全くない説が書かれています(本文)。たとえば「ごはんを食べないで、エネルギー源が不足した状態が続くと、せっかく食べたタンパク質が、本来のタンパク質のはたらきをしない、言わば「おばけタンパク」になってしまう(本文のまま)」という箇所がありますが、科学的知識があれば、こんなことは書けないはずです。順番に説明しましょう。

 

エネルギー源が不足することはあり得ない

人類という種が、原始時代を生き延びることができた最大の理由が「体脂肪」というエネルギー源を持つことです。

 

一般的に日本人の場合、痩せて見える人でも体重の20%以上が脂肪です。例えば体重40kgで体脂肪率が20%なら、体脂肪の重さは8kg。そのうち純粋に使える脂肪を6kgとして、脂肪は1gで9kcalのエネルギーが作れるので、単純計算だと54,000kcal、1日に2,000kcal消費するとして、27日分のエネルギー源がある、現実的にはその半分と考えても、体の中に2週間程度のエネルギー源があることになります。つまり、普通の生活をする高齢者に、エネルギー源が不足することはなく、本文にあるような『体はなにより「エネルギー源の確保」を優先』は嘘です。

 

以前のブログに、60歳の私が3日間水だけ絶食をした時の血糖値の推移などを紹介しているので、参考にしてください。

 

炭水化物は、欠乏症がない唯一の栄養素です。さらに、炭水化物は植物性の食品全てに含まれているのでご飯やパンを食べなくても不足しません。その反面、食べ過ぎたり、ご飯だけ、パンだけの食事だと食後血糖値を急上昇させて老化の原因になります。

 

⒉ 「おばけタンパク」は存在しない

タンパク質は、消化されてアミノ酸となって吸収されます。体にとってアミノ酸、特に9種類の必須アミノ酸はとても貴重なのでエネルギー源となる前に、肝臓から血中へと送り出されてしまいます。つまり、食べたタンパク質がエネルギー源になる可能性はほぼないので、「おばけタンパク」は存在しないのです。

 

また、タンパク質は1gで4kcalしかエネルギーを作れない上に酵素反応にはエネルギーが必要なため、脂肪と比較すると、エネルギー(ATP)として使うには効率が悪い栄養素です。筋肉内で不要になったアミノ酸をリサイクルといった形でエネルギーに変換することはありますが、よほどの飢餓状態にない限り、体全体のエネルギー補給のためには使われません

 

⒊ 必要なタンパク質の量は?

タンパク質の必要量は体重で決まります。一般には体重1kgあたり0.8g、消化吸収率が下がってくる高齢者は体重1kgあたり1〜1.25g 摂取が望ましいと考えられています。例えば、体重40kgなら、タンパク質の必要量は1日に40から50gです。納豆に置き換えると、1パックで8gのタンパク質として5−6パック程度、牛乳だと1.4L(200ml=7g)、たまごなら7個(M1個=7g)、鶏胸肉なら200g(100g=24g)となりますが、運動量や体調でさらに必要になることもあります。

 

卵・牛乳・肉・魚が必要な理由
動物性タンパク質の消化可能な必須アミノ酸スコアDIAAS:Digestible Indispensable Amino Acid Scoreタンパク質のクオリティーを示す数値)は1以上なので、タンパク源としてクオリティーの高い食品といえます。一方、大豆以外の植物性食品のタンパク質クオリティーはガクンと下がります。

 

この先生ならご飯でもタンパク質が摂れると反論してくるかもしれませんが、ご飯のDIAASは0.595、つまり「クオリティーの低いタンパク質」なのです。栄養計算上では一膳のご飯で8gのタンパク質ですが、実際に使えるのはその6割、4.8gだけです。もし高齢者がこの先生を信じてタンパク質を1品に減らしてご飯を食べて満腹になる生活を続けたら、確実にタンパク質が不足して、筋肉だけでなく骨密度も下がり、血管も脆くなる可能性があります

 

筋肉不足で隠れ肥満

筋肉が不足しているのは、高齢者だけではありません。ずいぶん前ですが、女子栄養大学で、標準体重の女子学生209名の筋肉と脂肪量を調べた結果、3割の学生の体脂肪が30%以上であり、平均の脂肪率も28%で筋肉量が少ない、いわゆる隠れ肥満であったという報告がありました。

 

どんなにしっかりとタンパク質を摂取していても、筋肉を使わなければ隠れ肥満におちいります。筋肉は体の中で最も燃費の悪い臓器なので、使ってないとどんどん小さくなります。逆に、負荷をかけて定期的に使えば、筋肉は死ぬまで増やすことができます。全く運動していない人なら、椅子の背もたれを使わない、電車で座らない、荷物を持って歩くなど、普段の生活にちょっと負荷をかけるだけでも効果は出ます。

 

まとめ

もしあなたが、筋肉を使わない生活で、一汁一菜のご飯中心の食事を続けていれば、筋肉は確実に減少します。ちょっと負荷のかかった生活をするように心がけ、肉や魚、あるいは卵、乳製品といった動物性タンパク質の豊富な食品を毎食食べてください。ご飯やパンは毎食食べる必要はなく、ほどほどの量をおいしく食べることが大切だと思います。