「ココナッツオイルは体にいい?」栄養環境コーディネーター講師の方からのご質問です。アメリカでも多く人はココナッツオイルを健康的なイメージをお持ちのようですが、ほとんどの学識者はそうは思っていません。その科学的な理由を説明しましょう。

 

ココナッツオイルは燃料にしかならない

脂質には、エネルギー源にしかならない飽和脂肪酸と、体に役立つ不飽和脂肪酸があります。不飽和脂肪酸には、オリーブ油に多いオレイン酸などと体内で作れない必須脂肪酸、オメガ3とオメガ6脂肪酸があります。

 

下の表を見てもらうとわかるように、ココナッツオイルは83%が飽和脂肪酸で構成されていて、体の役立つオレイン酸は植物油の中ではダントツに低い6%、必須脂肪酸のオメガ6(リノール酸)とオメガ3(αリノレン酸)は全く含みません。

つまりココナッツオイルは、牛脂や豚の脂身と同様にエネルギー源にしかならないのです。

 

ではなぜ健康的なイメージがあるのでしょうか?

 

その訳は、ココナッツオイルにわずかに含まれる2種類の飽和脂肪酸、カプリル酸(炭素8個で構成される脂肪酸:C8)とカプリン酸(炭素10個で構成される脂肪酸:C10)です。

食べ物で摂取した脂質は全て肝臓に送られます。脂肪は、炭素鎖が長くて分解に時間のかかる脂肪酸で構成されたものほど肝臓にたまり、結果的にLDL(科学的にはVLDL) で運び出されて体脂肪として貯蔵されます。このような脂肪を長鎖中性脂肪(Long Chain Trigryceride: LCT)と言います。

 

化学的には炭素鎖が6ー12個のものは中鎖脂肪酸と呼ばれますが、代謝が早く体脂肪になりにくい中鎖中性脂肪(Medium Chain Trigryceride: MCT)は、炭素の数が10以下のものだけなので、炭素が12個のラウリル酸はLCTの仲間です。

 

特にカプリル酸(C8)でできたMCTは代謝が圧倒的に早いため、ブドウ糖よりも先に有酸素代謝で利用されてエネルギーを作ります。そのため、肥満、糖尿病、脂質異常の改善効果が証明されています。ケトン体を効率良く作り、脳細胞の燃料になることから認知症の予防・改善効果も期待されています。

 

カプリン酸(C10)はカプリル酸より長いので、ほとんどの学術文献はカプリル酸が使われています。ココナッツオイルにはカプリル酸が7%、カプリン酸が8%しか含まれていません(上図)。

 

一方、ココナッツオイル成分で最も多い脂肪酸はラウリル酸(48%)です。ラウリル酸はLDLを上昇させる「体によくない脂質」ですが、変質しにくく、非常に安いため、石鹸や工業製品によく利用されます。

 

ラウリル酸は化学的には中鎖脂肪酸であることから「ニセ科学」が作られました。

 

つまり、ココナッツオイルとは、ごくわずかしか含まれていない健康に役立つMCTを前面に出して、安価な油に付加価値をつけて売られている、体にとっては牛脂やバターと変わらない製品です。

 

一方、ビーガンやベジタリアンにとって、ココナッツオイルはバターの代用品としてケーキやパンを焼くには便利です。ココナッツオイルは発煙点(煙が上がる温度)が低いので、炒め物にも不向きです。

 

さらに、以前のブログにも書きましたが、脂肪は、有酸素代謝でなければ燃焼できません。もしあなたが筋肉が少ない、血糖値が高いなどから代謝の柔軟性が低下していれば、ココナッツオイルを摂取すればするほど肝臓に脂肪がたまり、悪玉コレステロールが上昇します。100%C8(+C10)のMCTを使わない限り効果はほとんど期待できません。

 

さて、ご質問の「ココナッツオイルは体にいい?」への答えはこうなります。

 

積極的な健康効果は期待できません。オーガニックでも、バージンでも、有名人が推薦しても同じです。

 

もしあなたがココナッツオイルの香りが好きでバターの代用品としてベーキングに使うなら悪くは無いと思います。でももしあなたが健康のためにとコーヒーに入れて飲むと脂質異常に、炒め物に使うと換気扇の汚れが増えます。