ブルーバックス読書記録 No.25『円周率πの世界』 | BLOGkayaki1

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『円周率πの世界 数学を進化させた「魅惑の数」のすべて』柳田晃 著、2021.6

 「なぜ歴史を学ぶのか」という疑問がよく投げかけられている。
 特に、義務教育にかける時間の配分を巡って、理数に多く時間を割く代わりに、歴史を削ってしまえという旨の主張をする者がいるようだ。理数教育の大事さは理解できる。それゆえに、歴史を教えることも大事だと言える。

 本書の真のテーマは、「円周率の歴史」といえるのではないか。
 円周率πの算出をめぐって、紀元前26世紀のバビロニア時代の楔形文字が書かれた粘土板時代から話が始まる。それから古代エジプト、古代中国、古代インドと話が続いていく。
 そして古代ギリシャのピタゴラスやアルキメデスを経て、ようやく16世紀の微分積分に辿り着く。
 この間、三平方の定理や記数法(60進法から10進法になるまで)、三角関数、代数学と数学の技術が進化を遂げていく様子が描かれている。
 まさに数学の歴史は、「円周率の歴史」と共にあったと言っても過言ではない。

 この「円周率の歴史」抜きにしては、微分積分を必要とする理由、そして、微分積分を学校で学ぶ意義というものが見えてくる。
 微分積分が必要なのは、それぞれ「接線」と「面積」を求めるためだ……という説明では、駄目なのだ。それならば、微分積分を「使わなければならない」理屈とはならない。
 微分の逆は積分である、そのことを当たり前のように教わると何のありがたみも感じない。だが微分積分開発の歴史をたどっていくと、「接線の角度」と「面積」を求める計算行為が表裏一体であることを発見した数学者の、その喜びたるや、ほんの少しでも味わうことができるのではないか。

 このように歴史を紐解いていけば、数学の教科書に書かれた公式の意味を理解することがたやすくなる。
 また、数学が苦手な者でも、物語に興味があれば、歴史を「エサ」に数学の世界へ引き入れることができるのではないだろうか。

 やがて円周率の計算はコンピュータの時代に突入する。
 だがコンピュータの歴史は、戦争の歴史でもある。「大砲の弾道計算をおこなうために、高速計算ができるコンピュータが要求され」た背景があるのだ〔本書211頁〕。
 数学にとっても歴史は、決して切り離せるものではない。