講談社学術文庫読書記録 No.64 『ビーグル号世界周航記』 | BLOGkayaki1

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『ビーグル号世界周航記』C・ダーウィン、荒川秀俊訳 2010.2

 

 1831年から36年までの5年間、南米および太平洋の諸島をビーグル号で航海した博物学者チャールズ・ダーウィンは、動植物及び地質の驚くべき見聞の数々を、精力的に著していた。

 それは『ビーグル号航海記』として刊行され、世に知れ渡り、180年くらい時を経た今もなお「古典」として読み継がれている。

 

 本書はその「お手軽版」とでも言うべき再編集版で、1880年にニューヨークで出版された本の邦訳である。

 ところで、「お手軽版」が出版されるというのも、後世に読み継がれ「古典」となるための一つの条件かもしれない。

 

 

 ダーウィンが南米滞在期間中に見たものは、当然ながら動植物や地質だけではなかった。

 そこにはたくさんの人間が住んでいたのだ。

 

 当時は植民地であった南米には、原住民と、欧米人、黒人奴隷、そして混血する人々がいた。

 現地部族と侵略者による激しい戦闘、そして虐殺。捕虜、黒人および混血奴隷の凄惨な扱われ方。

 

 ダーウィンは目の前で起きる事実を淡々と、そして怒りを込めて告発する文章の冒頭を次のように書きだした。

リオ・デ・ジャネイロの近くで、私は女の奴隷の指を押しつぶすためのネジをもっている老婆の家の向かい側に暮らしていた。  (本書122頁)

 それよりもっと極悪非道で残虐な話は割愛すると言っているのだから、いかに悍ましい歴史がこの地ではあったのかを、古典を読む現代人に覚らせてくれる。

現状のままであることを望むなんて、なんと面白くない考えであろう!  (中略)かりにも君の身の上におそいかかったと考えてみなさい!しかもこうした仕業(しわざ)が、隣人を彼ら自身のように愛すると告白する人々──神を信じ、神の御旨(みむね)が地上でおこなわれることを祈る人たちによってなされ、擁護されているのだ!  (本書124~125頁)

 ダーウィンは晩年、進化論を唱えることで教会と対峙していく(『種の起源』発表の頃にはすでに進化論は科学界において周知のものだったようだ)。

 しかし、ビーグル号航海時期からすでに教会や信者に対する怒りが沸き上がっていたのかもしれない。こんなことをするためにスペインやポルトガルは南米に宣教師を遣わしていたのか、と。

 そのようなダーウィンの姿を発見することができるのも、「古典」を読むからこそ、である。