講談社学術文庫読書記録 No.62 『日本の職人』 | BLOGkayaki1

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読書記録、環境問題について

『日本の職人』吉田光邦 2013.7

 

 数年前、ツイッターか何かのSNSにおいて、キヨスクで「職人技」を持つ店員が激減し、サービスの質が低下したと話題になった。

 東京都内の駅はごった返している。通勤の経験はないが、旅行や帰省等で東京に寄った時うっかりラッシュアワーにぶつかったことがあり、行きたい方向へ進めないほどの混雑を身をもって体験した。

 そんな大混雑の中において、キヨスクで買い物をするためには、要領も手際もよく十数人のお客さんをいっぺんに対応することができる「職人技」を持った店員が欠かせない。

 しかしながら「組織の効率化」が求められた結果、長期勤務の「職人」たちは排除され、代わりに安い労働力のバイトが導入された。

 

 キヨスクでさえこのような状況であるのだから、いわんや伝統工芸職人をや、である。

 

 

 

 本書は1960年代に角川新書から刊行された『日本の職人』を底本とし、1970年代の情勢を加え1976年に改めて刊行された本の文庫版である。

 1950年代から70年代までのさまざまな伝統工芸職人の現状を報告するるポタージュである。

 青銅鏡、墨、箪笥、鯉のぼり……。様々な職人が列挙されている。

 

 だが2020年代の現在において、どれだけの職人が減ったであろうか。いや、どれだけの物が、日用品から姿を消したであろうか。

 日用品として使われる焼き物や漆塗りなどは今もなお数は少ないなれど比較的多くの職人が日本にいる。しかし、扇子や傘などはプラスチック製のうちわやビニール傘に替わってしまった。箪笥も衣類ケース、瓦も屋根用パネルに替わっている。

 日用品として排除された伝統工芸品は、淘汰されるか、美術品や嗜好品としての道を歩まざるを得なくなった。

 

 本書では挙げられていないが、大工や左官、織物や染物についてもそれぞれツーバイフォーやパネル、ポリエステルなどに替わった。ほかにも探せばいくらでもあるだろう。

 

 環境保護の観点からできなくなった分野もある。本書には長崎のべっ甲細工職人が紹介され、1970年代当時はタイマイ(ウミガメ)を東南アジアから輸入できていたが、今では取引が禁止されている。

 そうでなくとも、べっ甲風のプラスチック製品が安価で流通している現代である。タイマイ売買云々にかかわらず、美術品や高級品としての道を歩まざるを得なかっただろう。

 

 ただし、現在においては希望もある、と一読者は考える。

 本書のエピローグでは焼き物の「窯」について、電気やガスが導入され機械化が進み、職人は重労働から解放された代わりに、「共同体」としての窯を廃止したことによる職人同士のネットワークの破壊、およびコミュニティの崩壊を、著者は問題として警鐘を鳴らす。

 しかし、それから50年を経過した2020年代においては、SNSの全盛期だ。再び、職人同士の連携や消費者とのつながりを復活させることができるチャンスがある。

 だがそれも、インターネットに明るくなければならない。日本の職人を支持する若い世代は、これらのネットワークやコミュニティ復活の手助けを行うことで職人技の継承に貢献できるのではないだろうか。