髙平保子句集『船団』(3) 61〜100

(平成10〜19年)

61 大漁旗に極彩の風初御空

62 片影に転がす鳶職(とび)のヘルメット

63 水系は八千八滝(はっせんやたき)黒部ダム

64 日脚伸ぶ襟すり切れし司祭服

65 春星をこぼしてをりぬ北斗の柄

66 着ぶくれて恋あきらてしまおうか

67 自然薯の山のねばりをすすりけり

68 とんがつて意地張り通す唐がらし

69 開発の山削られてひばり笛

70 小鳥来る街から消えし伝言板


71 苦瓜をぶらりと育て小学校

72 紅梅や無傷の空の広がりぬ

73 いわし漁終へて岬の野外ミサ

74 鮟鱇の覗かれている口の中

75 豊饒の海押し上ぐる鰯雲

76 用のなき部屋も灯して雛まつり

77 秋茄子やパレットに溶く濃むらさき

78 虫声も刈りとりて行く庭師かな

79 棚田百選まんじゆさげまんじゆさげ

80 日輪の雲動きけり鷹柱


81 落城の濠かき廻し蓮根掘り

82 銅像の頭掴みて鬼やんま

83 霊宿す村の巨木の注連飾

84 葡萄狩りひとつぶづつに空がある

85 やあと来ておうと応へる青田中

86 秋天を突く船頭の竿さばき

87 肩寄せて秋霖の傘深くさす

88 あらたまの乳房を弾く初湯かな


(平成20〜31年)

89 開け放つ島のくらしや西瓜食ぶ

90 春潮に島を揺らしてフェリー着く


91 極月や脚しばられしずわい蟹

92 高だかと朝日も編みて女郎蜘蛛

93 墓洗ふ死にたいなんてきつと嘘

94 船団の秋夕焼けをおきざりに

95 流鏑馬の弓きりきりと春立てり

96 梅雨曇睨みのきかぬ鬼瓦

97 雁渡し竹百幹のかわく音

98 笹鳴きの山のえくぼの辺りより

99 落款を押したき里の初景色

100 茶の花のほつこり仏のやうな白


※髙平保子句集『船団』(4) に続きます。


※髙平保子句集『船団』(1) 1〜20

https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12836193037.html

※髙平保子句集『船団』(2) 21〜60

https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12836362891.html