橋本治は、2019年1月29日に亡くなりました。10代後半に橋本治の本を読んでから、人生で影響を受けた作家の一人です。
私が初めて読んだ橋本治の本は『美男へのレッスン』(1994年)でした。
支配的な性であった男性は女性と比べて、美についての基準を持っていないというところから話はスタートします。
「被支配的な性」として偏向した立場を突き崩そうとして、「美人でもないし不美人でもない」女達は、「フツーの女」というカテゴリーを獲得したーその受難の道程を、男達はまだ経験していない。
こうして始まる本は、単行本で2段組の全505ページに渡って、美男への考察が続きます。
そして、
「美男になりたい人は、正しい教養を身につけなさい」ー要はこれだけである。
という結論に結びつくのでした。
この本にやられてしまった私は、橋本治の本を遡って読むことになりました。
橋本治と言えば、日本の古典の翻訳でも優れた仕事を残しています。「美男へのレッスン」の中でも光源氏について触れられていますが、源氏物語に独自の解釈を加えた「窯変 源氏物語」という翻訳書があります。
2024年のNHK大河ドラマは紫式部を主人公とした「光る君へ」ですが、この機会に橋本治による源氏物語の解説書である「源氏供養」を読み返しています。
「源氏供養」の中で、橋本治は紫式部の執筆の動機を下記のように解釈しています。
「私はこんな世の中がいやだ、こんなにつまらない男達ばかりの世の中はいやだ、なんとかしてこのつまらない男達の作っている世の中を覆すことは出来ないものだろうか?」ーそう考えた紫式部は、女を「政争の道具」にすることが当然だった"男の時代“に、「女を守る男」というありえない理想像を作り出した。それが源氏物語を書き始めた紫式部の動機の一つだったということは、十分に考えられることだと思いますね。
「光る君へ」が放送されているためか、「源氏供養」は再発されました。
私の紫式部、源氏物語の解釈はすでに橋本治色に染まってしまっていますが、「光る君へ」を観るための参考文献として、この本を読んでおくことをお勧めします。