婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症は症状が似通っていて、これらの3疾患は混在することが良くあり、合併率は腺筋症が内膜症の 69~79%・筋腫の 35~55

%、内膜症は腺筋症の 6~20% で、筋腫は腺筋症の 64% です(百枝幹雄編 診療マニュアル)。 子宮腺筋症は超音波検査

 

でも診断が難しく、超音波による子宮病変の統一的記載法 Morphological Uterus Sonographic Assessement (MUSA) が 2015 年に提唱されました。 経腟超音波断層法を用いた腺筋症の画像診断上の分類には4つの基本的な超音波操作があります。 1 腺筋症とチョコレート嚢胞の確認、2 子宮の可動性の確認、3 sliding sign を用いた他臓器との癒着の確

 

認、4 膀胱や腸管のコンパートメントにおける深部子宮内膜症 DIE 病変 nodules の確認です。 DIE の診断において、MRI と超音波断層法 TVS の比較では後者の方が若干ですが勝っていたのです。 また、卵巣の子宮内膜症性嚢胞の診断においても感度・特異度ともに TVS が MRI を上回っていたのです。 従って、MRI に必ずしも頼る必要はなく、膀胱の

 

基部 を観察することで少量の尿が溜まっているところで sliding sign を見るのが良いのです。 こうして、膀胱の子宮内膜症性病変を観察することができます。 sliding sign を見る時は TVS のプローブと反対側の腹壁にある手の用い方が重要になります。 将来的には Artificial Intelligence (AI) が子宮内膜症の診断に力を発揮することでしょう。 この続きは次回をお楽しみに! 

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 症例の紹介の続きですが、27 才の会社員で会社を月に 2~4 日以上休む程度の月経痛があり、過多月経・月経期以外の出血・性交痛を合併して子宮内膜症・子宮腺筋症が疑われます。 子宮内膜症は子宮内膜もしくは子宮内膜に似た細胞が何らかの原因により他の場所で増殖・剝

 

離を繰り返し、組織に血液が溜まり、様々な症状を引き起こします。 この病気は日常よく見られ、点状出血がでたり癒着を生じて手術を困難にしたり、卵巣にチョコレート嚢胞ができることがよくあります。 診断を正確に早くつけることが重要ですが、2000 年代以前では診断の遅れが約半数に見られ、診断精度が向上した 2000 年代以降でも診断が遅れが

 

ちなのです。 一方、子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症は症状が似通っていて、過多月経は内膜症には余りなく、内膜症と腺筋症は合併することがよくあります。 実際、これらの3疾患は混在することが良くあり、腺筋症に関しては無症状のことが少なくないのです。 手術で腺筋症と診断された 182 例からのアンケートによる後方視的検討 (2013.1~

 

2016.9) 年齢34~78 (平均 51.7) では無症状が 53.7% だったのです。 筋腫と腺筋症を比較すると、筋腫は病変が見やすくて診断が容易ですが、腺筋症は診断が難しくなります。 罹患率は内膜症 10%、腺筋症 5~70% (平均 20~

30%)で、合併率は腺筋症が内膜症の 69~79%・筋腫の 35~55%、この続きは次回をお楽しみに!

 

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 OC・LEP の骨に対する影響をどのように考えるべきかは OC・LEP ガイドライン (2020 年度版) によれば、1 成人女性の骨質や骨代謝マーカーに影響を与えない (C)、2 思春期女性においては獲得骨量が低下する可能性がある (C)、3 成人女性の骨折リスクに影響を与えない (C) 

 

と全て実施が考慮される (C) になっています。 ジエノゲスト Dienogest (DNG) のデータでは 1mg/day は卵巣抑制が軽度で、2mg/day は卵巣をそれなりに抑制します。 2mg/day で 52 週間投与すると骨密度変化率は -1.7% で骨への影響は無視できなくなります。 そもそも 10 代の正常値が無くてエビデンスは乏しいのですが、短期投与での骨代

 

謝への影響は少ないと言えます。 即ち、1mg/day の骨への影響についてはデータがほとんど無く、月経困難症を主訴とした 10~24 才 (n=321) 、骨端線未閉鎖の 32 例 (平均 11.3 才) を含む症例を対象とし、3ヶ月 DNG 1 mg/day を投与して前後の骨代謝マーカー (破骨マーカー TRACP-5b と骨形成マーカー BAP ) を比較したところ、骨への影響は見

 

られなかったのです(Ota I et al 2021)。 次に別の症例の紹介です。  27 才の会社員で挙児希望があります。 会社を月に 2~4 日以上休む程度の月経痛があり、過多月経・月経期以外の出血・性交痛を合併し、階段を上るとクラクラし、月経前には不安症状などでパートナーと不仲になります。 この続きは次回をお楽しみに!

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 月経困難症治療薬の黄体ホルモン製剤は卵巣の機能である排卵を抑制し、子宮内膜や子宮内膜症の細胞の増殖を抑えて疼痛の原因であるプロスタグランジン Pg の産生を抑制します。 即ち、第四世代の黄体ホルモン製剤であるジエノゲスト Dienogest (DNG) は視床下部・下垂体

 

に働いて LH サージを抑え、卵巣での卵胞発育を抑制して排卵を抑え、子宮内膜細胞の増殖を抑えて Pg の産生を抑制し、疼痛を軽減します。 一方、子宮内膜症性卵巣嚢胞の術後再発予防療法の比較をネットワークメタ解析で行うと、デザインは2つのランダム化比較試験と9つのコホート研究が選択され、2394 名の患者が対象で、6種類の術後療法 (待

 

機・LEP・DNG・LNG-IUS・GnRH アゴニスト及びそれらの組み合わせ) が比較対象で、主要評価項目は 24ヶ月後の子宮内膜症性卵巣嚢胞の再発 (1 cm 以上) でみた臨床的有効性です。 その結果、DNG が最も効果的だったのです(Chkj CC et al 2022)。 また、DNG と LEP を直接比較したデータでは DNG は慢性骨盤痛・性交痛・卵巣の内膜症性嚢胞・深部

 

子宮内膜症 DE の病変縮小に改善がみられ、LEP で改善が見られた項目は性交痛・鎮痛薬の使用量・QOL だったのです(Piacenti I et al 2021)。 更に、OC・LEP の骨に対する影響をどのように考えるべきかは OC・LEP ガイドライン (2020 年度版) によれば、1 成人女性の骨質や骨代謝マーカーに影響を与えない (C)、この続きは次回をお楽しみに!


 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 思春期女性における月経困難症・子宮内膜症の診断及び管理の指針 ACOG Committee Opinion 2018 (米国) が示されました。 それによると、機能性月経困難症が疑われると経験的治療 (NSAIDs・ホルモン治療・非薬物治療) を先ず行い、治療に反応すれば治療を継続し、治

 

療に反応しなければ器質的疾患を考慮します。 その評価は内診と経腟超音波 TVS で行い、所見があれば疾患に対する治療を実施し、所見が無ければ慢性骨盤痛に対する評価を行い、腹腔鏡を考慮して子宮内膜症を疑います。 ところで、本邦における月経困難症治療薬 (経口薬) の歴史を見ると2つのパターンがあり、1 黄体ホルモン製剤であるプロゲス

 

チン (ノアルテン・デュファストン・ルトラール・ディナゲスト等)・2 偽妊娠療法 (EP/LEP) で、EP はエストロゲン・プロゲスチン配合剤、LEP は低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤のことです。 OC・LEP ガイドライン (2020

年度版) によれば、連続投与と疼痛制御に関して月経痛に対する効果は 1 機能性月経困難症における月経痛を軽減する

 

(A)、2 器質的月経困難症における月経痛を軽減する (A)、3 連続投与は周期投与よりも月経痛を有意に軽減する (B) だったのです。 即ち、OC・LEP の周期的投与が無効な場合には長期間連続投与で改善できる可能性があり、子宮内膜症の術後に再発した月経困難症で OC の周期的投与が無効であった 50 症例について、OC の長期間連続投与により有意に疼痛が軽減し、80 %の症例が満足したとの報告があります。 この続きは次回をお楽しみに!

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 トルコの学校に通学している女性 (9~18 才) 2000 例の報告では月経困難症があると約4倍学校の欠席が多く、月経痛と life activity では痛みが強いことと学校生活の成功は逆相関で月経痛は学業に大きく影響していたのです(Yucel G et al 2018)。 日本人女性の月経随伴症状が

 

経済損失に及ぼす影響について検討するため、年齢や地理的な分布を考慮した 15~49 才の月経のある女性 19254 人に対し、月経随伴症状の程度・現在の治療・仕事の生産性への影響・3ヶ月以内の通院費用などに関する調査をオンライン上で実施。 経済損失は 6828 億円 (総年間費用)で、その内訳は外来受診費用 930 億円(13.6%)・OTC 医薬品費用 (鎮

 

痛薬・睡眠薬・マイナートランキライザー・漢方薬) 987 億円 (14.5%)・労働損失 (欠勤・仕事量と時間の減少・仕事の質の低下) 4911 億円 (71.9%) だったのです(Tanaka E et al 2013)。 一方、月経開始直後の月経症状・性状と将来的子宮内膜症発生との関係では外科的診断で中等度から重度の子宮内膜症と確定診断されたオーストラリア人女性 (18~55 

 

才) 268 名 (疾患群) と、子宮内膜症のない女性 244 名 (対照群) を対象に子宮内膜症の症状が発現した年齢以前の月経周期の特徴とその後の子宮内膜症診断との関連性についてケースコントロール試験により検討したところ、疾患群の子宮内膜症発症のオッズ比は対照群の 2.6 倍だったのです(Treloar SA et al 2010)。 この続きは次回をお楽しみに!

 

 

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 月経に伴う下腹部痛は初経後、6~24 ヶ月で発症し、予測可能な発症パターン(月経直前・中など)があり、典型的には 8~72 時間持続し、放散痛があり、下痢・嘔気・嘔吐などの全身症状を伴います。 機能性月経困難症の治療について産婦人科診療ガイドライン(婦人科外来編 

 

2020)では NSAIDs などの鎮痛薬・LEP (低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)・レボノルゲストレル放出子宮内システム LNG-IUS (ミレーナ)が勧められ (B)、漢方・鎮痙薬が考慮され(C)、強く勧める (A) 治療はありません。 漢方は漢方医学診断に基づいて、芍薬甘草湯・当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸・桃核承気湯・当帰建中湯などから処方

 

し、子宮発育不全に伴う月経痛と考えられる場合は月経困難症に保険適用があるブチルスコポラミン臭化物 (ブスコパン) を用いることができます。  NSAIDs の月経困難症に対する効果はメキシコ人女性のデータで、約 43% で中等度しか効いていないのです。 そして、65% が日常生活は制限され、42.1% が学校を欠席し、25.9% が医師に相談し、

 

61.7% がセルフメディケーションを実施していたのです(Ortiz MI 2010)。 また、月経痛による学業への影響は大きく、対象はヨルダンの女子医学生(19~25 才) 272 例で、方法は自己記入式のアンケート調査による横断研究で、主要評価項目は月経関連の疼痛による症状と対処法 (Moamar AJ et al 2015) でした。 この続きは次回をお楽しみに! 

 

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 月経痛 (VAS 値 7) と月経時以外の骨盤痛が主症状の 14 才の女性が月経随伴症状が原因で体育を含む授業・習い事を欠席するようになり、本人はホルモン剤に抵抗はないのですが、保護者が抵抗を示しています。 この場合、投薬としては 1 LEP 製剤・2 ディナゲスト錠 0.5 mg

 

・3 NSAIDs or 漢方が考えられますが、保護者が抵抗する時は 3 で、その他は 2 です。 何故なら、1 はエストロゲン E の抑制が強く、2 は E2 の抑制が緩やかだからです。 若年者の場合はレントゲン撮影による骨端線の閉鎖確認がお勧めです。 初経後すぐに激しい月経困難症があり、数回の月経で激しい下腹部痛がある疾患には OHVIRA (Obstructed 

 

hemivagina and ipsilateral renal anormaly) 症候群が代表的で、子宮奇形による流出路の障害で血液が貯留して激しい月経痛を伴う病気です。 造影 CT や MRI などの画像診断により、Type 1 (重複または双角子宮の片側膣閉鎖を合併するもの) ~Type 5 に分類されます。 さて、月経困難症は月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状のことで、下腹部

 

痛・腰痛・腹部膨満感・嘔気・頭痛・疲労・脱力感・食欲不振・いらいら・下痢及び抑うつの順に多く見られます。 そして、月経困難症は機能性と器質性に分けられ、前者は器質的疾患が無く、後者は子宮内膜症・子宮筋腫などの器質的疾患が同定された場合です。 機能性の場合は既往歴の聴取が重要になります。 この続きは次回をお楽しみに!

 

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 閉経後日本人女性 8 例に塗布製剤 ディビゲル 1 mg の 0.5 g・1.0 g・1.5 g を大腿部の約 20 cm 四方に単回塗布した薬剤のインタビューフォームでは 24 時間以内は血清中 E2 濃度が治療域に達することが分かったのです。 別の塗布製剤 ル・エストロジェルの反復投与試験

 

では平均血清中 E2 濃度 1.25 g で 26.3 pg/mL、1.8 g で 60.8 pg/mL だったのです。 更年期障害治療に必要な血中 E2 濃度は 40~80 pg/mL です。 ホルモン補充療法をする時は患者の平均 E2 濃度をモニタリングすることで治療効果を判定するのに役立ちます。 閉経後 E レベルが低下するのですが、閉経間際に急激に低下することが問題であるという

 

ユ・エストロゲネミア Euestrogenemia 仮説(Turner RJ 2012) についてお話ししましょう。 思春期から性成熟期にかけて E レベルが高まり、その後、更年期を経て閉経期になると E レベルは低下するのですが、治療によりその減少をなだらかにする (tapering) ことで女性の健康を維持できるという考え方です。 突然 E レベルが途絶するのは卵巣癌な

 

どによる両側の卵巣摘出 surgical castration や良性であっても卵巣実質を温存しない手術の場合です。 こうした場合もホルモン治療で女性ホルモンを補充して急激な E レベルの低下を無くすことが重要です。 次に、症例の紹介です。 月経痛 (VAS 値 7) と月経時以外の骨盤痛が主症状の 14 才の女性です。 この続きは次回をお楽しみに!

 

 

婦人科のホルモン治療についての講演会報告です。

東京大学大学院 産婦人科学講座 准教授である平池 修先生の講演の続きです。 米国で使用可能なエストロゲン E 製剤には内服製剤 Oral (pill)・経皮製剤(パッチ) Transdermal (skin patches)・経皮製剤 (クリーム) Creams (topical)・経皮製剤 (ゲル) Gels・膣リング vaginal ring があります。 本邦では内服・パッチ・ゲルの3種類になります。 ホルモ

 

ン補充の E 製剤には結合型エストロゲン CEE (プレマリン錠) とエストラジオール (ジュリナ錠・エストラーナテープ・ルエストロジェル・ディビゲル等) があります。 E 製剤の血中濃度の推移は各薬剤のインタビューフォームを見るのが分かりやすいです。 例えば、健康閉経後女性 72 例にCEE 1.25 mg を空腹時に単回経口投与した場合、内服後血

 

中濃度は上昇し、更年期障害治療に必要な血中濃度 (40~80 pg/mL) を超え、24 時間を過ぎると下回ります。 一方、閉経後の健康女性 9 例にエストラジオール E2 (ジュリナ錠) 1.0 mg を 1日1回28日間 反復経口投与すると投与開始後、17 日目までに定常状態になり、その E2 の血漿中平均トラフ濃度は約 30 pg/mL でした。 従って、継続して内服す

 

ることで治療域に達し、安定した血中濃度が得られることが分かります。 経皮 E 製剤の血中濃度の推移では被検者 12 名を無作為に 1 群 4 名に分け、3 way cross over 法に従い、2 週間の休薬期間をおいてテープ製剤 0.72 mg を下腹部・背部及び臀部に貼付したところ、貼付後 48 時間は治療域を維持したのです。 この続きは次回をお楽しみに!