良い発声のための音声学 (1)

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良い発声のための音声学についての講演会報告です。

2月21日(木)ホテル阪神で、第6回中之島耳鼻咽喉科オープンカンファレンスがありました。 演者は大阪大学大学院 医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 准教授である小川 真先生で、演題は“悪い声・良い声とは何か?”です。 良く通る美しい声で喋ったり、歌ったりすることは魅力的なことです。 この分野でのエクスパートである小川 真先生の興味ある音声学のお話です。

 

その内容は、先ず声とは何か(発声のメカニズム)、声の良悪、十分な強さの声(大声発声)、良い発声をするにはどうすればよいか

です。 音声(声)とは医学的にはヒトが準規則的な声帯振動により産生する音のことで、音声学的にはヒトが発声器官を通じて発する音全てのことで母音も子音も含まれます。 そもそも、音は物理学的な現象で、空気の縦波として伝わる力学的エネルギーのこ

 

とで、人間の耳の中において聞こえの感覚を生み出す圧縮波のことなのです。 音声を作る行為を発声と言います。 発声は2つの独立した運動から成り立っていて、一つは声帯の内転でもう一つは呼気で、この2つの動きが同時に起こって、この2つの作用で声帯振動が起こります。 発声時の高速度喉頭画像をハイスピードカメラをファイバースコープに接続して見ることができます。 吸気

 

によって声帯は外転し、その後、呼気によって声帯は内転し、一過性の声門閉鎖が起こって声帯振動が開始し、この発声の開始を起声 vocal onset と言います。 声帯はどのように振動するのでしょうか? 声帯振動中において声帯に加わる外力には声門閉鎖期の声門下圧と声門開大期のベルヌーイ力があり、両者が交互に働くことで声帯が振動します。 この続きは次回をお楽しみに!

認知症の最前線 (10)

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認知症の最前線についての講演会報告の完結編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の最終回です。 抑肝散加陳皮半夏の中枢神経系への作用はマウスで、ドーパミン神経系とノルエピネフリン神経系を促進し、脳内アセチルコリンの含有量が増加したのです(T. Itoh 1997)。 更に、アルツハイマー型認知症 AD に対しても、暴言・不穏などの攻撃性を中心とした BPSD に有効であることが分かったのです(宮澤仁

 

朗 2009)。 AD の脳病変の特徴は 1 アミロイド・ベータ蛋白 A-β

による老人斑、2 異常リン酸化タウ蛋白による神経原線維変化、3

神経細胞の脱落です。 A-β は単独では病的ではないのですが凝集してオリゴマー oligomer を形成すると老人斑になって病原性を発揮します。 A-β は神経細胞表面のアミロイド前駆体蛋白が酵素のセクレターゼ(βとγ)によって分解されて産生されます。 

 

そこで、この酵素の阻害剤が開発中で、A-β の発生源を遮断する試みが進行中です。 一方、A-β を分解する物質であるネプリライシンを作る遺伝子が本邦の理化学研究所で発見されました。 この遺伝子を運び屋のウイルス・ベクターに注入して、これを静脈に投与して脳へ移行させ、脳の中でネプリライシンを産生させて A-βを分解する研究がなされています。  A-β は AD が発症す

 

る 20~30 年前から出現します。 したがって、A-βのワクチン療法は試行錯誤中で、予防には期待できそうですが治療には無力です。 何故なら、神経細胞死が起こって、神経細胞が脱落した後では A-βを無くしても手遅れだからです。 現在、早期発見で期待できるのは島津製作所の田中耕一博士が開発した質量分析装置による血中の A-βの微量中間代謝産物の測定です。

認知症の最前線 (9)

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認知症の最前線についての講演会報告の続編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の続きです。 漢方は対の概念に基づく中国の思想の一部ですが、中医学の根本には五行学説があります。 つまり、木(もく)・火(か)・土(ど)・金(こん)・水(すい)の五行なのです。 木は肝臓を中心とした代謝系、火は心臓の循環器系、土は脾臓の消化器系、金は肺の呼吸器系、水は腎臓の泌尿器系を表しています。 この

 

木火土金水が対のバランスをとっており、相生関係と相克関係にあります。 前者は良い関係で、臓器同士は助け合っているのですが、例えば、木が燃えれば火を生じ、火が尽きれば灰(土)ができ、土の中からは金属を生じ、金属の表面には水を生じ、水は木を成長させます。 後者は悪しき関係で、木は土から養分を奪い、土は水を吸収し、水は火を消し、火は金属を溶かし、金属は木を

 

割り砕きます。 五行学説は木火土金水という人体の機能のバランスをとることで成り立ち、このバランスが乱れることで病気になるというのが漢方の根本的な考え方なのです。 それでは脳についてはどうかと言うと、中医理論から認知症を考えると、大切なことを肝心と言いますが、心と肝で役割を分担しています。 心は神志で、意識や知性のことで理性に匹敵します。 脳科学的には大脳

 

新皮質・前葉の機能に相当し、心が低下すると中核症状を発症します。 一方、肝は情志で、感情や本能のことで欲望に該当し、脳科学的には大脳旧皮質・辺縁系の機能に相当し、肝が暴走すると BPSD を発症します。 こうして、心と肝のバランスが崩れて認知症を発症するのが漢方的な捉え方で、肝を鎮める最適の漢方が抑肝散なのです。 この続きは次回の完結編をお楽しみに!

認知症の最前線 (8)

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認知症の最前線についての講演会報告の続編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の続きです。 いよいよ治療についてですが、認知症の BPSD (幻覚妄想・夜間せん妄・精神運動興奮など)に対する薬物療法の主流は非定型抗精神病薬(10種類)ですが、鎮静・糖代謝異常・錐体外路症状(パーキンソン病症状)などに留意しなければなりません。 副作用は従来型抗精神病薬より軽減されていますが、米国 

 

FDAより脳卒中・死亡率上昇の警告があります。 確かに第二世代抗精神病薬により錐体外路症状は軽減しましたが、対象は高齢者なので錐体外路症状以外の過鎮静・認知機能障害などの有害事象に注意が必要です。 そこで、アルツハイマー型認知症の漢方薬療法について話を進めましょう。 これには抑肝散加陳皮半夏が最適です。 抑肝散は明の時代からの古い漢方薬で、興

 

奮しやすく、精神不安やイライラを伴う場合に用いられ、陳皮は蠕動調整・制吐・鎮嘔作用があり、半夏は陳皮の記憶障害改善作用があります。 抑肝散加陳皮半夏は抑肝散に陳皮と半夏を加えて本邦で創薬された漢方で、抑肝散より神経症状が強く、悪心・嘔吐などの消化器症状を伴う場合にお勧めです。 そして、この漢方薬は世界で最も理想的で美しい漢方薬と言われているのです。

 

元々、漢方は中国の思想の一部であり、つい(対)の概念が基礎になっています。 つまり、陰陽・虚実・表裏・気血・背腹のように、物事を対で考えています。 例えば、陰は身体の実体で目に見えるもの、陽は身体の機能で目に見えないものであり、この反対の意味を持つ両者のバランスが乱れると状態が悪くなり、病気になるという捉え方なのです。 この続きは次回をお楽しみに! 

認知症の最前線 (7)

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認知症の最前線についての講演会報告の続編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の続きです。 たった3分の簡易検査でアルツハイマー病 AD を早期に発見できる記憶付加型の時計描画検査 Me-CDT はパソコンのモニターを見ながら、音声に従って専用の回答用紙に記入するシンプルな検査で、最後に時計の文字盤と時計の針を書いてもらいます。 即ち、時計の文字盤を完成して、10時10分の長針と短針

 

を書き入れて目にした情報を正しく操れるかを検査するのです。時刻の配列がいびつになったり、書けなくなったり、時計の体をなしていないと減点になります。 Me-CDT は質問が5問と時計描画検査 CDT から成りますが、前者は1問1点で採点し、5点満点でスコア化します。 そして、後者はシャルマン Shulman 方式の CDT 採点方法によりスコア化し(5点満点)、両者合わせて10点

 

満点です。 Me-CDT が8.5点以下は AD の疑いがあり、精密検査が必要になります。 この簡易検査の CD-ROM とキットを協賛メーカーが2万部作成してくれ、全国のかかりつけ医に無償で配布中です。 MMSE(30点満点)とMe-CDT(10点満点)の平均スコアと標準偏差を AD 及び MCI (軽症 AD) と診断された症例群(n=195) と65歳以上の健常者 (n=40) の群で比較すると両群の

 

相関係数は r=0.815 と高い相関を示したのです(木原武士ほか 2013)。 MMSE のカットオフ値は23点ですが、Me-CDT のそれは感度と特異度を鑑みて、8.5点になりました。 Me-CDT と時間のかかる MMSE における AD の検出感度と特異度を比較すると、前者は後者に対して非劣性であり、Me-CDT は精度の高い検査であることが判明したのです。 この続きは次回をお楽しみに! 

認知症の最前線 (6)

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認知症の最前線についての講演会報告の続編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の続きです。 アルツハイマー型認知症 AD の簡便な早期診断である Me-CDT (記憶付加型の時計描画検査)開発の研究計画の骨子は、外来で簡便に短時間で行え、コンピュータによる自動音声と画像を用い、感度と特異度が共に高い検査を目指すことです。 これまでの AD のスクリーニング検査である MMSE と CDT を組み

 

合わせて施行すれば、感度・特異度ともに上げることは可能ですが、検査に時間がかかりすぎ実用的ではありません。 一方、質問と CDT を組み合わせた ME-CDT は3分ほどで終了し、いつでも、誰でも、どこでもできる検査なのです。 時計の文字盤検査である CDT は AD の患者でも書ける人は少なくなく(感度が低い)、書けなければ 100 % AD (特異度が高い)という特徴があります。

 

ME-CDT では最初に10時10分という時刻を記憶してもらい、1番目に名前を書いてもらいます。 AD の患者は病初期から書字や写字など字を書くことが苦手なのですが、AD の初期の患者は流暢に話せることが少なくないのです。 何故なら、前頭葉のブローカー中枢(運動性言語中枢)の機能が比較的保たれていて、書字や写字に関わる頭頂連合野の血流と代謝が低下しているからな

 

のです。 2番目に、今日は何月何日?(日時の見当識)、3番目に、今は何階?(場所の見当識)、4番目に、最近の報道で記憶に残っているものは?(意味記憶)、5番目に、先ほど示した時間(約100秒前)は何時何分でしたか?(遅延再生)、そして、最後に、一般的な時計の文字盤検査を行います。 10点満点で、8.5点以下が AD 疑いです。 この続きは次回をお楽しみに! 

関西医師囲碁大会に参加して

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関西医師囲碁大会に参加しての報告です。

2月3日(日)ANA クラウンプラザホテル大阪で、第15回吉田杯関西医師囲碁大会がありました。 15年続いている年一回(毎年2月開催)の囲碁大会で、関西棋院より14名のプロ棋士が審判及び指導碁に来られる大きな大会です。 私は第一回大会から15年連続出場中です。 何故なら、この大会の雰囲気がとてもよく、プロ・アマの囲碁仲間と囲碁を楽しむことができるからです。

 

初戦の相手は山本剛之先生。 棋力は同じなので、”にぎり”の結果、私が白を持つことになる。 相手は慎重で、長考しながら読みを入れてくる。 私は打つのが速く、直感で打つ。 途中、対局時計が故障して動かないことに気づき、審判を呼んで調整してもらう。 これでリズムが乱れ、手拍子で打った手が悪手。 攻めあっていた白の要石が黒石に取られ、全局に波及して初戦敗退。

 

一回戦敗退で指導碁の資格を得、プロ棋士の小野綾子初段と4子局で打つ。 彼女は3面打ちなので、同時に3人と対局。 早打ちの私はプロを相手に集中。 読みを入れて極力、慎重に打つ。 攻める姿勢を堅持して健闘したのですが、そこはプロ。 最後は力の差を見せつけられて敗北。 この後、メモリアルペア碁決勝戦の公開対局を見る。 大盤解説は今村俊也9段で、聞き手は田村千

 

明3段。 決勝は吉田美香8段と男性のアマ高段者の組と村川大介8段と女性のアマ高段者の組との対決。 大盤解説は面白く、あっという間に終局。 村川大介8段の組が優勝。 この後、懇親パーティー。 立食形式ですが、指導碁の小野プロや女流プロと同じテーブルになり、会話が弾む。 表彰式で、大会皆勤賞を5名の仲間と受賞。 壇上に登り、簡単な挨拶。 来年も参加の予定。    

認知症の最前線 (5)

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認知症の最前線についての講演会報告の続編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の続きです。 アルツハイマー型認知症 AD の簡便な早期診断(記憶付加型の時計描画検査 Memory entailed-CDT: Me-CDT) を宮澤先生は、神戸市立医療センター 西市民病院の木原武士先生と順天堂大学医学部・神経内科准教授の頼高朝子先生との3人で共同開発されました。 CDT は Clock Drawing Test の略で、時計

 

描画検査のことです。 これまで、認知症のスクリーニング検査として、世界的には MMSE と CDT、本邦では長谷川式認知症スケール HDS-R がよく行われてきました。 そこで、各認知症スケールの検出感度と特異度を検討してみると、検出感度は MMSE

87%、HDS-R 90%、CDT 57%、特異度は MMSE 82%、HDS-R 82%、CDT 100% だったのです。 即ち、CDT は特異度が高いにもかか

 

わらず、検出感度が低かったのです。 更に、CDT は空間認知や視覚認知に関わるものの、認知症で最も障害が顕著である近時記憶障害は全く反映されず、見当識障害に関わる要素もないのです。 そこで、近時記憶と見当識を CDT に加え、コンピュータライズして標準化した ME-CDT を開発して認知症の検出感度と特異度がどのように変化するかを検討されたのです。 一般に、感度

 

は実際の認知症患者を検査で陽性として拾える確率のことであり、特異度は認知症でない非病者を検査で陰性として拾える確率のことです。 そして、両者は二律背反の関係にあります。 統計学では、ROC (Receiver Operating Characteristic) 曲線は縦軸が感度、横軸が 1-特異度ですが、ROC 曲線の下の面積が大きいほど診断精度は高いのです。 この続きは次回をお楽しみに! 

認知症の最前線 (4)

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認知症の最前線についての講演会報告の続編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の続きです。 アルツハイマー型認知症 AD の患者に見られる図形(立方体)の模写による構成失行が起こる原因を調べるため、眼球運動の特徴を解析すると、頭を固定すれば眼球運動だけでインプット・アウトプットされるので高次の視覚情報処理に関与することになり、AD 患者は立方体を写すことができなくなるのです。

 

AD の患者では注視点が徘徊現象を示し、上から図形をなぞることは難しくはないのですが、図形を横に写すタスクは容易ではないのです。  正常例では立方体を横に写す時、元々の図形と移動先に注視点が分布し、一定のストラティジーを持って眼球運動が左右に行われ、これが正常な書き方になります。 一方、子どもはあちこち、きょろきょろすることが多いのですが、図形を写す時にも

 

注視点はあちこちと動きます。 我々の頭頂葉が完成するのは9~10歳頃(小学校3年生)と言われています。 幼稚園児はこうした立方体を横に写すことはできないのですが、小学校3年生ぐらいになってできるようになります。 定量的な検討では子供の場合、眼球の速度成分の比較的速い所にピークが出てきて、20歳を過ぎて大人になってくると次第に遅い所にピークが出てきます。

 

人間は目の前の対象物をある程度の時間をかけて認識することができます。 ところが、AD になってくると子供と同じように速い所にピークが出ます。 認知症のことを子供帰りということがありますが、定量的には子供と同じように眼球の速度成分が速い所にピークが出てきます。 定性的には異質なところもあり、成長の過程と変性の過程では異なります。 この続きは次回をお楽しみに!

認知症の最前線 (3)

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認知症の最前線についての講演会報告の続編です。

さっぽろ悠心の郷 ときわ病院 院長である宮澤仁朗先生の講演の続きです。 人間の脳の重量は1300g 程度ですが、アルツハイマー型認知症 AD で萎縮が進行すると 780g 程度に低下することも珍しくありません。 AD における脳萎縮分布と神経心理学的特徴(言語の障害)では、頭頂連合野の萎縮が起こると写字や読字障害(字を写したり、読むことができなくなる)が見られます。

 

更に、認識の障害では頭頂葉の萎縮に伴って見当識障害が病初期から認められる傾向があります。 AD の簡易な見分け方としては、1 今日が何月何日であるか?(日時の見当識)、2 桜・猫・電車の遅延再生(記憶の検査)、3 図形の模写(立方体の絵)による構成力の検査や時計の文字盤検査が本邦では比較的よく行われています。 AD の患者では立方体のごく一部分しか描けなかった

 

り、或いは立方体の奥行きが書けなかったりします。 図形の模写による構成失行がどうして出てくるのかを調べるために宮澤先生は眼球運動にどういう特徴があるのかを研究されました。 NHK との共同研究ですが、眼球の強膜に赤外線を当てることで被験者がどこを見つめているのか、眼球速度・注視点や注視時間などが瞬時にコンピューターで解析できる器械を NHK が持っているから

 

です。 貴女もご存知のように、NHK はこの器械を使ってドライバーが運転中にどこを見つめているかを解析しています。 この器械を NHK から借りて、健常人と AD の患者で検討しました。 この時、頭を固定することが重要です。 何故なら、AD の患者でも低次の視覚情報処理ができるからです。 つまり、前庭動眼反射によって補正できるのです。 この続きは次回をお楽しみに!