「もう、やるだけやったし満足よ」
いまから三ヶ月前。
このコロナの旋風に巻き込まれてお世話になった飲食店が閉店した。
実に35年の間、地域の人に愛され、合計6店舗までひろがっていたお店だった。
私と旦那さんは、18才の時、その店を舞台に出会うことになる。
当時、旦那さんがその飲食店で働いていて、
私はその近くのスーパーでアルバイトをしていた。
それ以降、二十年近くたった今も、オーナーさんの人柄の良さもあり、相変わらずよくしてもらっていた。71歳になっても、美しく経営するスタイルは、時に優しく、時に鋭く、いつまで経っても私の尊敬する経営者の一人だ。
和と洋が愛し合ったようなジャズが似合う店内には、ずっとそこにあったかのようにマイセンの置物がマッチしていて、内装や器、細部にまで、オーナーの想像力を映し出したようなお店だった。
その落ち着ける空間から、お店は平日であっても繁盛していた。
そんな大好きだったお店が、「コロナによって」というのは悔しいけれど、営業を続けることが難しく、長く作り上げてきたお店の暖簾を下すことになった。
幸いだったのは、最後の営業日、沢山のファンがお店に来てくれて、オーナーさんが「ほんまにやりきったわ」と嬉しそうな顔だったことだ。
ただ、「お店をやることが青春やった!」と言った横顔は、かすかに下唇を隠していた。
その姿を見てから三ヶ月後、そのオーナーさんと偶然会った。
「何してるんですか?」と聞くと、この誰もがコロナやら不安を煽りまくるメディアやら緊急事態宣言やらで元気がないご時世に、圧倒的に似合わない顔で目の前にあったテナントを指差し、
『お店やろうかと思って』
と言った。
『71歳
青春、再開やわ』
そう言って、「面白い店にするで」と笑っていた。
なんてパワフルなんだと思った。
そうなのである。
深刻だと思った時に、深刻な顔をすると、深刻な現実になる。
なぜなら、深刻が似合うからだ。
でもオーナーは、このご時世に似合わない顔で、
似合わないアクションを起こす。
だからそのアクションに似合う現実を作っているのだ。
私達は、自分の心や行動に
似合う現実を着ているのだ。
そんな風に、感動していたら、オーナーはぼそっとこう言った。
「次はホテルも作るから」
……
いや行動力!
彼女の青春時代は、終わりそうにない。
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