仙四爺廟の厄払祓い祭祀
─「小人」送りと「吉紙」天狗・五鬼そして白無常財神
(虎爺の話・その7)
(マレーシア、クアラ・ルンプール仙四爺廟)
図1.Yukiko Takehara さんが彩色した「消凶化吉」吉紙クアラ・ルンプールの「吉紙」
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虎爺を祭祀する場合は、小人(広東方言:シュウヤン)を祓う祭祀が多いですが、クアラ・ルンプール仙四爺廟では、祭祀に使う金銀紙のセットを売っていて、小人紙もなかに入っています。組合わせは、線香・「吉紙」・「小人」・「百解符咒」・「緑馬」・「貴人」です。
図2.「吉紙」オリジナル版
「吉紙」(広東方言:ギッチー・現地の発音は少し違いました)です。これは広東系華人が、人生や日常生活に祟ると思われるあらゆる凶神・鬼怪・精怪が描かれています。悪い影響を与えるものだから、縁起をとって「吉紙」といいます。
図3.「小人」の形代(かたしろ)
このお札は、凶神悪鬼勢揃いで面白いのですが、Yukiko Takehara さんが、以前彩色して送り返してくださったのが、「消凶化吉」、つまり凶が転じて福となっておりました。なかなか面白いご供養の仕方です。
図4百解符咒
貴人と緑馬は、壁に貼りますが、それはもうびっしり貼り付けてあり、マレーシアのなかでも最多でしょう。「百解符咒」は正式には、「大成北斗七元星君百解符咒」(だいせいほくとしちげんせいくんひゃくかいふじゅ)といい、もろもろの禍事(まがごと)・諸もめ事を祓う有り難いお札です。
図5.壁に貼られた緑馬・貴人の数々
神前に捧げてから、「小人」の形代(かたしろ)とともに燃やします。武人像と、「賜富星君」・「賜福星君」が描かれています。 小人は靴でさんざんに叩いてから燃やします。実物が入手できて嬉しいです。
多様な凶神悪鬼が描かれている吉紙の内容は、以下の通りです。なお、凶神悪鬼はすべて線香の火で、顔に穴を開けてしまいます。しかし、「本方土地」「当年太歳」「吉凶二星」のなかの「吉星」は、神さまなので、顔に穴を開けてはいけません。
[吉紙内容一覧]
本方土地=現地境界内の土地神である。
当年太歳=各年ごとの歳神である。立春の春牛図が絵柄になっている。民間暦書の扉などにかならずある絵である。
事非口舌=口が原因の災いに祟る。もめ事、口げんか、失言などを司っている。「口舌是非」ともいう。
朱雀・玄武=南と北を象徴する四神であるが、この場合は六壬占術の十二天将に属する。
騰蛇(とうだ)・白虎=十二天将に属する凶神で、騰蛇は空飛ぶ蛇である。六壬占術の観念。日本にも陰陽道の六壬神課として入っている。
関□関旬=りっしんべんに反の字は不明。子どもなどが将来遭遇する危険を関門とみなし、これを「関煞」(華語:クゥアンサー・かんさつ)と呼ぶ。
草頭大王=盗賊の神であり、盗難に遭う。中国には草鞋三郎などの盗賊の職業神がいる。
發冷發熱=マラリアの危険である。マラリアは、漢方の病名では「瘴癘」(しょうれい)といい、中国南部や南洋は瘴癘の地として恐れられた。
飛天七娘=空飛ぶ人頭女の凶煞である。
吉凶二星=占術上の吉星と凶星。
男女傷神=「男女神」「男女客官」などとも言うが、「男女隔神」のこと。男女の縁談の間に入って、仲介どころか邪魔立てする。
過天六郞=「過天遇往」「虚空過往」などともいい、天上をぐるぐる回って人界を巡察し、過誤を天上の朝廷の天庭に報告する。
口牙良願=「口で良いことを願う」の意味であるが、叶わないようにする。詳細は不明。
冤家咒咀=家どうしが仇となる争い事を引き起こす。
隔飲隔食=食欲の不振を引き起こす。
五道傷神=輪廻道を司る道教の五道将軍に触犯して祟られる。
揚州美女船=揚州の妓女船を指す。不明であるが、女難の運命だろうか?。
攔街截搶=街で抗争に巻き込まれたり、強盗に襲われたりする。
年災月殺=年々の厄災、月々の厄災。
無人承祝=子孫もなく、無縁の亡者に成り果てて、誰も自分の冥界祭祀をしてくれないから、あの世で餓鬼となってしまう。
このほか、厄年の年回りでは、五鬼星の厄とか、天狗星の厄があり、これについても五鬼紙と天狗紙があります。五鬼紙は、目だけ異様に描かれた五鬼が五人並んで、ゾクッとした面白さがあります。天狗もただの犬みたいで、なかなか宜しいです。
図6.天狗紙
最後に、玄壇将軍と虎爺の祭壇とともに、文昌帝君・関帝を夾んだ反対側の祭壇には、「財神」と呼ばれる神が祭祀されています。これは冥界の拘魂卒(こうこんそつ)の白無常(華語:バイウーツァン・しろむじょう)さまです。逆に本来財神である玄壇趙公明さまは、虎爺の管轄神となっていて、面白いです。
図7五鬼紙
図8.財神(白無常さま)
死神である白無常がなぜ財神かというと、これはいちばん平たい解釈では、こう考えています。冥界から寿命の尽きた人の命を取りに派遣される白無常さまは、派遣されることを中国語で「差」(チャイ)というので、雲南省の大理市では「白衣差神」(大理漢語:バイイーチャイセン)と呼ばれます。しかしこれが財神としてやはり信仰されていますが、差神は「差」(チャイ)が派遣されることを意味し、財産の「財」(ツァイ)と発音が似ているので、財産の神様である財神となったようです。
クアラ・ルンプールの白無常さまは、麻の喪服を着ておられる長身の男子ですが、参拝する人は、黄金万金と書いた金銀紙入りの白い紙カバンを財神の首に掛けます。そうして冥界の銭である冥銭を捧げ、現世の銭と換えてもらうのでした。