韓国の「ヘテ」─朝鮮半島の角なしカイチ
(大韓民国ソウル特別市徳寿宮中和殿)
朝鮮半島での狛犬的霊獣では、「ヘテ」(海駱・Haetae)が知られています。韓国で門前や殿前の両側を対で守る霊獣です。

図1.徳寿宮中和殿前のヘテ全身像(左右対称なので1体しか撮りませんでした・反省)
ヘテは犬ではないし、獅子でもありません。その起源は中国の独角獣(どっかくじゅう)の「獬豸」(シィエチー・Xiezhi・かいち)から来ています。獬豸は、麒麟は角二本、石虎・石獅は角がなく、そこで区別できる霊獣です。正邪を見分ける能力を持つといわれ、お裁きの場に現れればとても有り難いです。その性格から、中華民国国軍の憲兵の肩章には、獬豸が刺繍されています。

図2.中華民国国軍憲兵の肩章にかかれた「獬豸」(カイチ)
韓国のヘテは、姿かたちは獅子に似た霊獣です。獬豸の朝鮮語読みのヘチ(Haechi)から来ています。独角獣の獬豸は、牛か羊に似るとされます。しかし有名なソウル景福宮の光化門前のヘテは、角がなく、巻き毛で獅子の系統を濃厚に感じます。ヘテは火を食べるので、宮殿を守る火伏せの役割があります。能力は正邪を見分ける能力を持つとされて、獬豸の血統を感じます。しかし角がないのが、朝鮮半島のヘテ独特の姿です。
朝鮮半島では、5・6世紀の古墳に独角獣像があり、新羅の官服には獬豸があったといいます。李朝時代は、19世紀になってから、景福宮前の光化門に設置され、20世紀初頭に、徳寿宮内にヘテの像が対で設置されています。
光化門のヘテは、角がなく、獅子のようで、巻き毛がありますが、麒麟のように鱗もあります。身体はずんぐりと胴長で、足も太いです。鼻が大きく、口は牙が2本出ています。
徳寿宮の中和殿と中和門にあるヘテは、階段状に置く構え型の霊獣で、タイ王国チェンマイのワット・プッパラムの狛トガゲ同様の、龍か獅子かという当惑に似た、圧倒的な印象を与えます。
徳寿宮は元は王族の邸宅で、文禄の役で王宮が焼失したため一時的に正宮の代わりになり、19世紀後半に、第26代の高宗は1897年に改装し、再び王宮とされました。徳寿宮の多くの建物は、ヘテの居る中和殿・中和門なども含めて1902年竣工ですが、1904年に焼失し、1906年に再建されています。中和殿のヘテは1902年からの歴史だといえます。

図3.徳寿宮中和殿前殿階下のヘテ頭像
中和殿は徳寿宮の正殿です。広場には品階石(ひんかいせき)があって、官僚の官位毎に整列します。

図4.中和殿前の双龍石板
中和殿に上がる石段は、中央に双龍を刻印した石板があり、その両脇をヘテが守っていますが、ここには2対の全身像、2対の首像の合計8体のヘテがいます。中和門にも同種の全身像があります。じつはヘテ像は、左右同一形で、どれも区別なく彫られています。

図5.中和殿とヘテの配置
全身像のヘテは、石段上に長く構えているので、一見は龍のようにみえます。長い全身はうろこに覆われており、背面には巻き毛もあります。頭部は巻き毛があり、両目も鼻も大きいですが、とくに鼻の穴が大きくて、目を惹きます。やはり角はありません。口は牙は2本出ていますが、閉じています。でも、鼻息が荒いので、それで充分のようです。

図6.中和門とヘテ
頭像は、殿階下に首を出しているのですが,鈴をぶら下げているので、王室に飼われた存在であることを表しています。やはり牙が二本出ています。
ヘテは、慶福宮脇の民俗博物館にも李朝時代のものが展示されています。一頭は四つ足で立つ獅子のような角なしヘテですが、麒麟や獬豸にみられる火形紋があります。水を飲もうする姿と思います。

図7.民俗博物館内のヘテ
木彫の左右一組の屋根部材の装飾品のものは、龍身のようにみえますが、独角獣です。水にかかわる瑞獣らしく、腹部に水紋が刻印されています。へてによくある背中あたりの細かい円紋もあります。この木彫ヘテは、李朝時代にも独角獣タイプのものがあったことを示しています。

図8.民俗博物館内の木彫ヘテ(向かって左)

図9.民俗博物館内の木彫ヘテ(向かって右)
ヘテはソウル市のキャラクターやマスコットとなっています。このマークは、光化門のヘテのようです。下のハングルは、ヘチ・ソウルと書いており、獬豸の音訳を使うので、近年では、ヘテでもヘチでもともに使えるようです。

図10.ソウルのキャラクターとなったヘテ
また、ロッテに次ぐ勢いの製菓会社、ヘテ社の社名とマスコットになっています。韓国にいけない方は、「トッポッギスナック」(トッポッギは韓国風モチで、甘辛ソースで煮込まれている)を買ってみてください。そこにヘテの可愛いキャラクターが描かれています。
(2009年3月28日取材)
日本でのヘテは、東京世田谷の多摩川のほとりにある善養寺に一対の朝鮮半島系の角なしヘテが門前に座しています。火伏せのヘテは、仏寺では煩悩の火を消す宗教的な聖獣となっているのです。頭は牛、胴は獅子、足は駱駝、身は鱗をまとうとされています。
兵庫県加東市の新興宗教系の念仏宗無量寿寺の手水舎には、最近制作された独角ヘテが水を飲もうとしています。阿吽の一組もおられるようです。