前回の続きです。
ミアン・サミ, 2020, 『教養としての投資入門』, 朝日新聞出版.
またまた新書です。朝日新書で850円です。今回はちょっと辛口です。なかなか突っ込みどころ満載の本でした。
1.タイトルに「教養としての投資入門」とありますが、「教養」とは何かを考えずに、言葉を無頓着に使っているように思えます。教養は英語で言うところの「リベラル・アーツ」で、歴史をさかのぼると古代ギリシャの三学四科にたどり着きます。そして、この三学四科は、古代ギリシャの民主政治と大きく関連しています。本書で登場する「教養」という語には、そういう歴史とか社会的意味は含まれていないように思えます。一方、経済学者のウェブレンは、教養に対してかなり皮肉った見方を示していますが、そのような視点もありません。しいて言うなら、本書で出てくる「教養」とは、ウェブレンに皮肉られた教養の亜種にあたるように思えます。
2.本書では「自動投資」、「楽しむ投資」、「教養投資」の3つを推奨していますが、「自動投資」とは、要するに投資信託のことです。投資信託についてなら、前回書いた『はじめての投資信託』の方が役に立ちそうです。まぁ「自動投資」の手段として、投資信託の他にETFも挙げていて、ETFの方がばんばん出てきます。明らかにETF推しですね。
3.「楽しむ投資」は、株式などを自分で売り買いする投資です。書かれている内容は、ごく一般的なことや心構えで、具体的な方法については著者のセミナーで取り扱っているとのことです。なんか宣伝のような気がする。
4.そして「教養投資」は、「教養」とは何かは置いておくとして、要は自己投資です。乱暴に言うと、収入を増やすために資格を取れとか、セミナーに参加すれば年収がアップしますとか、そういう類いの話です。読み進めていくと、何か自己啓発系の話になっています。怪しげな自己啓発団体のような感じの文章というか雰囲気には違和感が残ります。
5.日本語の問題なのか、説明がわかりにくいところがあります。理由のひとつは、用語を無頓着に使っていることにあると思いますが、たぶんそれ以外にもいくつかの原因がありそうです。出版社の担当者もしっかりとチェックしていないのでしょう。あるいは、著者が担当者の言葉に聞く耳持たないとかかもしれませんね。そういえば、この手の本では前書きか後書きに約束のように、出版社や担当者、協力者への感謝の言葉が記されているのですが、本書では見られません。セミナーで指導しているのであれば、本書のネタとしてセミナー参加者から様々な情報(どこがわからないのか、何を知りたいのか、どう教えれば理解を得られるのか)を得ていると思いますが、そのことにも言及がないです。「教えることによって理解を深めることが出来るから、大学では研究だけでなく教育も行う」のだとよく言われますが、「お金の教育」といいながら、教えることで教わるという発想はない人なのだろうと思いました。投資家としては成功しているのでしょうけど、教育といいながら、教育者としてはちょっとなぁ、と思います。
という感じで、読みにくいですが書いてある内容は、他の本と大きく異なるわけではありません。実践するとなると、前回書いたように『はじめての投資信託』を参考にした方がよいかと思いますが、『はじめての投資信託』と内容的にも重なるので、確認という点で、「教養投資」の部分以外は読んでも良いかと思います。
次は、いよいよ統計学が出てきますが、やっぱりその前に数学や統計学を復習した方がよいかな。思案中です。