ナイジェリア・ポップのおすすめ | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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ロックを中心とした昔話、新しいアフロ・ポップ、クラシックやジャズやアイドルのことなどを書きます。

 ナイジェリア・ポップの個人的なお気に入りをいくつか紹介するコーナーです。
 今回は、のっけから「今月のAyra Starr」。2月5日にグラミー賞の授賞式が開催されまして、今年新たに設けられた「アフリカン・ミュージック部門」に私も注目していました。

 南アフリカのポップ・プリンセスと呼ばれるTylaを除く4組がAsake、Ayra Starr、Burna Boy、Davidoのナイジェリア勢だったのですが、受賞者と曲は南アのTylaのWater。昨年、同曲がヒットしたとはいえ彼女も驚いていたようで、スピーチの一言目が「何これ?!(What the heck!)」なのが微笑ましかったです。
 このTylaには私も好感を持っています。こちらの記事の終わりのほうで、けっこうな字数を割いたほどです。とても魅力的なシンガーなので、ちゃんと紹介されれば日本でも人気が出ると思います。いやもう、ありえないくらい可愛いっす。

 でも私はAyra Starrの旗を振っていますから、栄えある第一回目のアフリカン・ミュージック部門を獲らせてあげたかった、というのがホンネです。しかも候補曲のRushは現時点での彼女の代表曲なんです。それゆえに、今回の結果は惜しかった。
 グラミーの数日前、Ayra Starrはインタビューで「じつは受賞のスピーチを考えてあるんですよ。歩き方も衣装も!」と話していて、もしかして獲れるのではと期待していたと思うんですよね。私も同じでした。
 ナイジェリア勢の他の3人を見るに、Burna Boyの近作はちょっと弱いかなと感じられて、Davidoはお子さんを亡くして大変でしたけど次作が本格的な復活となるでしょう。Asakeは絶好調ですがアクが強すぎる面もある。となると・・・てな予想をしていました。
 けれど、そうか、Tylaか。彼女も頑張ったもんな。

 Ayra Starr、残念だったな。昨年シングルでTylaと共演してるもんな。「おめでとう、わたしの大好きな子!」とTylaに向けたメッセージを公開してましたが、悔しかったはずです。なんか、紫式部と清少納言を連想してしまいました。

 そんなAyra Starrの新曲がCommasです。先月、彼女が家でピアノを軽く弾き語る動画がアップされていた曲。
 パッと聴くとRushの姉妹編みたいな印象を受けますが、シンガー=ソングライター的な情感の込め方は懐を深くしています。間にRhythm & Bluesという、これまた良曲を挟んだことも効いたのでしょう。フィーチャリング・アーティストとしての経験値も、彼女のヴォーカル・スタイルを豊かにしたのだと思います。


 というわけで気落ちしているのですが、切り替えて行きましょう。
 2月9日にリリースされたばかりのシングル、ODUMODUBLVCKをフィーチャーしたWurlDのNo Sufferです。


 3つのヴァージョンというよりヴァリエーション(変奏)から成るシングルで、No Sufferのタイトルにそれぞれ<3am in Paris>、<3am in Jozi>、<6am in Lagos>と都市名がサブタイトルに付けられています。このうちの2つめにあるJoziとは南アフリカのヨハネスブルグのことです。
 今日はやけにナイジェリアと南アが絡みますが、このシングルで最も強力なリズムを主張しているのが、その<3am in Jozi>。どのヴァリエーションも基盤はWurlDらしい艶やかなR&Bのグルーヴが敷かれており、それがDJ Maphorisaによってアマピアノ(南ア発のアフリカン・ハウス・ミュージック)に変わっています。 
 このシングルをお薦めしたいのは、コンテンポラリーなアフロ・ポップのいくつかの側面が、3つの変奏を通じて伝わるからです。いやホント、そういう意味でも秀逸。そしてJozi編は特に身悶えさせるくらいに悩ましいリズムを持っています。

(↑パリ編)

(↑ヨハネスブルグ編)

(↑ラゴス編)


 次はリリースされたのが昨年10月と古いのですが、Sky Dのアルバム<The Eye Sounds>です。


 軽量アフロビーツとでも言いますか、大昔に流行ったソフト&メロウなんて形容を思い出させたりしながら、全18曲47分を心地よく聴くことができます。
 テレキャスターらしきエレクトリック・ギターやソプラノ・サックスの音も入って、どれもライトな感覚で楽しめます。ヤワなんだけどクセになるアルバムです。


 次はZlatan featuring Asakeのシングル、Bust Down。


 Zlatanは濃い持ち味のアーティストと組んで成果をあげてきた人で、ここでもAsakeと見事な呼吸を聞かせます。このコラボはAsakeのMr.Moneyのリミックス以来だったでしょうか。
 ふたつの押しの強さが合わさって作り出す太くしなやかな流れがたまらない。あっという間に聴き終えて、もう一杯!という感じです。


 Faveのシングル、Belong To You。私のお気に入りの一人です。


 ギターのイントロから引き込まれます。R&Bの色香漂うFaveの声の質とUKドリルっぽいバック・トラックとが微妙な調和を醸し出していて、メロディーもコーラスが歌いやすくて耳に残ります。
 エンディングでギターがロックふうに走り出すのは、普通なら考えものなんですが、この曲ではその部分でさえも巧みに組み込まれている感があります。
 いい曲です。なにかに雰囲気が似てるなと思い出したのが、クライマックスのI Miss Youでした。


 Iyanyaのアルバム<Once Upon A Cat>。


 ベテランらしい慎重さのあるアルバムです。それが退屈さではなく、じっくりと向き合わせる奥行きとなって響くのも味わい深い。
 もうちょっとハジけた部分がほしいかな、と思いつつも、この端整な仕上がりは耳をそばだてさせます。
 フィーチャリング・アーティストにMOONLIGHT AFRIQAを選んであるところも、なるほどと納得して人選の確かさに感心するのです。
 そう、今月のこのコーナーで、もっとも「感心」の言葉が似合う一枚でした。それは何かが不足しているんじゃなくて、気持ちの良いバランスが保たれているということです。


 Qing Madiの7曲入りEP<Qing Madi>。

 これは昨年11月にリリースされたもので、さらに前の7月にOleというシングルが評判をとっていたのですが、私は今ひとつ惹かれませんでした。
 ところが、数ヶ月遅れてこのEP<Qing Madi>を聴いてみたら、すっかり印象がよくなったのです。わからないものです。
 ごめんなさいの意味で、今更ながら、Oleをここでピックアップします。内省的でダークなサウンドにQing MadiとBNXNのヴォーカルがハマっています。


 今月は以上。やはりグラミーの件で心ここにあらずな記事になってしまったかもしれません。TylaもAyra Starrも好きなだけに。